第509話

デメテの日。今日はキアラが休みなので何をして遊ぼうか。どこに連れて行こうかな。


「おはよ。もう起きてるの? 早起きなんだね。これは返してね。」


「お、おはよう……これって拘束隷属の首輪よね? 何てことしてくれるのよ……」


「よく寝れたでしょ? 魔力も燃え上がったんじゃない?」


「そんなわけないでしょ! 燃え上がったのは……それより眠れなかったし!」


燃え上がったのは? でも眠れなかったのは私のせいじゃないぞ。


「じゃあ朝ご飯をお願いしていい?」


「ええ、待ってなさい。」


ベレンガリアさんは眠そうなのにプンプンと階下へ降りていった。やはり魔力が高い貴族女性あるあるは当てはまるようだ。だからって父上がいないから私に手を出そうとするとは……悪い人だ。




「カー兄おはよー! 朝ご飯できたよー!」


「おはよ。呼びに来てくれたのか。キアラはえらいなぁ。よしよし。」


普段留守がちだもんな。キアラが嬉しそうにしてると私も嬉しい。




やはり朝食は美味しかった。ベレンガリアさんやるなぁ。


「今日はみんなで遊びに行こうな。ベレンガリアさんもどう?」


「行きたーい!」


「いいわね。どこに行くの?」


「海なんてどう?」


やはりお出かけと言えば海だよな。食材の補充もしたいし。


「行きたーい!」


「面白そうね!」


よし、決定。ベレンガリアさんは眠そうだけど大丈夫なのか?





タティーシャ村に到着。

ツウォーさんに挨拶をしておこう。居るかな。


居た。


そしてみんなで泳ぐことになった。私も海で泳ぐのは初めてだ。やはり泳ぎとなるとキアラが圧巻だ。足裏からの水流で縦横無尽に泳ぎまわっている。ふと気付いたが、海でそうやって魔法を使ってしまうと魔物が寄って来るんじゃないか? まあいいか。


「ベレンガリアさんは泳がないの?」


「いや、泳いだことなんてないし……」


「よーし、それなら……ツウォーさーん、この人にも泳ぎを教えてあげてもらえますかー?」


私が教えるより実用的な泳ぎを教えてもらえそうだもんな。


「いや、でも、服とか……」


「そのまま泳ぐといいよ。後で洗ってあげるから。泳ぎにくいけど、それもいい運動になるからね。」


「まずはやってみればいいさ。うちのガキだってそうやって覚えたもんさ。」


服が濡れるとベレンガリアさんの肉感的な肢体が強調される。これは堪らんな。しかし私は浮気などしない!


さて、私も本格的に泳ごう。パンツ一丁になってキアラの後を追う。足裏からのジェット水流だ! 待て待て〜。キアラはかなり速いな……


しかし分からないことがある。キアラはどうやって水中で視界を保っているんだ? 私は水中メガネがないと潜ることもできない。しかしキアラはそんなこと気にもせず本当に縦横無尽に泳ぎまわっている。しかも手にはサカエニナが掴まれている。どうやって!?


「キアラはすごいな。それはどうやって獲ったの?」


「潜ったらいたよ?」


それは分かってる。どうやって水中で見えてるのか知りたいんだ。


「水の中が見えてるの?」


「見えるよー?」


分からん……普通に目を開けて泳いでいるだけか? やってみよう。


だめだ……とても開けていられない……素直に水面付近を泳ごう。自力で貝類を獲るのはまだまだ先になりそうだ。




おっ、魔力探査に反応あり。数は……十ぐらいかな。


「魔物が出たよー。海から上がってねー。」


しかし、キアラの動きは早かった。素早く魔物に近づくと何やら魔法を使い瞬く間に仕留めてしまった。水中では魔法は使いにくいものなのにお構いなしか。恐ろしい子だ。


しかも血が漏れていない。どうやったんだ?


魔物を引き上げてみれば……凍っていた。凍結の魔法か。陸上ですら生物には効きにくい魔法なのに、水中の魔物を生きたまま凍りつかせるなんて……くっ、悔しくなんかないぞ……


「シーゴブリンか。こいつは食えないな。」


ゴブリンの顔に大きな魚。絶対普通のゴブリンより厄介だよな。人間なんか一飲みにされてしまいそうだ。

魔石だけ取り出して焼却処分かな。くっ、凍ってるから解体しにくいな。


それからは魔物が出たってことで昼食となった。今日は人数が多いのでミスリルボードでやってみよう。ギロチンより薄いため保温力は低いが、そこは火力でカバーしよう。




食後のキアラは子供達と仲良く走り回っていた。狼ごっこかな。魔法は使うなよ。


「カース君。外でみんなで食べる食事って……美味しい、よね。リトルウィングを思い出しちゃった……」


「ベレンガリアさん……たまには僕と狩りをするのもいいかもね。オディ兄にも声をかけてもいいかも。」


少ししんみりしてきたな。もっと食べよう。魔力庫の肉を大放出だ。ツウォーさんもドンドン食べて。


いつの間にか奥さんもやって来て、村長夫妻も参加していた。さらには村の子供達まで集まってきた。その上誰かが持ち込んだ酒まで入り、昼間から宴会となってしまった。


肴が足りないか、ちょっと釣ってこよう。




釣ってきた。大物一匹、小物が三匹。


「おっ、タスクサーモンに小ぶりのツナマグロか。坊ちゃんやるな。」


さすが漁村。瞬く間に解体されていく。


タスクサーモンはまるでサーベルタイガーのように巨大な牙を持つ魚だった。泳ぐのに邪魔じゃないのか?


これはワサビの出番だな。おろし金も作ってあるし。魚醤に溶かしたり魚に直接のせたりして食べる。旨い! やはりワサビは素晴らしい。ラディッシュもいいがワサビは外せないな。


楽器が欲しいなー。アレクがいたらいいのに。曲に合わせてダンスでもしたい気分なのだが……

そうだ! 今度王都に行ったら楽器を買おう! ピアノにバイオリン、それからリュート。きっと楽しいに違いない。


いつの間にか子供達は泳ぎ始めていた。まあキアラがいるから大丈夫だよな。


私も泳ごう。




そろそろ夕方か。城門が閉まる前に帰らないとな。


「じゃあツウォーさん、それから村長。今日はありがとうございました。また来ますね!」

「おじちゃんありがとー!」

「ご馳走になりました。ありがとうございました。」


「おお、また来てくれいの。」

「いつも気前よく買ってくれて助かってるぜ。またな。」




閉門には十分間に合った。


「カー兄ありがとー! 海って面白いねー!」

「ありがとうカース君。楽しかったわ!」


「それはよかった。また行こうな!」


明日はどこにしようかな。




この日の夜、ベレンガリアさんは私の部屋に来なかった。

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