第481話

私は思い切って、アバカドハニービネガーを頼んでみた。これは賭けだが、どうせ姉上の奢りなので気にしない。


「アンタ何てものを頼んでんのよ。きっちり全部飲みなさいよ。」


この姉は時々貴族らしくないんだよな。貴族が残すとか残さないとかを気にするなんて。もちろん私は残さない。コーちゃんもだ。「ピュイピュイ」


「あっ、意外と美味しい。アバカドの脂っぽさがビネガーの酸っぱさと中和してハチミツの甘さだけが際立ってる。」

「ピュイピュイ!」


自分で言ってて信じられないが、美味しく飲めるものだな。


それから姉上とはここ数年の積もる話をする。オディ兄の結婚のこと、アレクのこと。楽園のこと、ベレンガリアさんのこと。ダミアンのこと、武闘会のこと。そこで私が聞きたいのは……


「で、姉上? 虐殺エリザベスって何?」


「アンタどこでそんなこと聞いたのよ!?」


「えー? エリ姉の通り名じゃない。みんな知ってるわよ。」


「え? 王都でもそうなの? 僕が聞いたのはフランティア領都だよ?」


「ちっ、さてはあの色ボケ黒コゲ女ね? 武闘会とやらの時にでも聞いたのね?」


「そんな感じ。姉上って凄いんだね!」


尊敬の眼差しで見る! 笑わないから教えてくれ!


「大したことじゃないわ。兄上に寄り付く女があまりにも多いものだから片っ端から決闘吹っかけて殺しただけよ。」


この姉マジかよ……ドン引きだわ。アレクのために武闘会を開いた私が言うのもおかしいが、何も殺さなくても……


「そりゃあ私だって言って聞く相手なら何もしないわ。どいつもこいつも兄上の意志や都合を無視して贈り物待ち伏せ手紙夜這いに突撃兄上が何度断っても何度も何度もしつこくて諦めないのどいつもこいつもテメーが上級貴族だなんて知るかよじゃあ決闘ってことになるでしょうが!」


「大変だったんだね。兄上は王国一だもんね。」


「決闘したらしたで復讐だ仇討ちだってまた次から次へ虫共がやって来てもう何匹殺したか忘れたわよ!」


兄上はどれだけモテるんだよ! 母上も同じことをしたんだろうな。


「王都でも同じみたいよ。私が聞いただけでエリ姉は十七人は殺してるわよ。もちろん宣誓のもとでの決闘だから罪に問われることはないわ。」


マジかよ。私も何人殺ったか忘れたけど姉上ほどではないはずだ。


「大変なんだね。ところで兄上とは最近どうなの?」


「それがね兄上ってね早速王太子殿下の近衛に抜擢されたの! でも殿下の二女が兄上に目を付けて自分の近衛に引き込もうとしているらしいのだからどうにか決闘に持ち込んで殺さないといけないのどう思う!?」


無茶言うな。王太子とかって話が大き過ぎる。私を巻き込むな。


「何言ってんだよ。兄上は姉上しか見えてないんだから大きく構えて待ってればいいんだよ。それに王太子殿下の二女ってことはどうせ弱いんじゃないの? だったら決闘になんかなるわけないよ。」


「ちょっとカース! 滅多なことを言うものじゃないわ! 王族の方々は勇者様の血を引いておられるのよ! 皆様すごいんだから!」


さすがにお姉ちゃんは詳しいんだな。そんなことより兄上はさすがだよな。王太子の近衛だなんて。帰ったら父上達にしっかり報告だな。


「あれ? 強いってことは決闘になったりするの? そうなったらいくら姉上でも勝てるの?」


「言ったわね! 勝つに決まってるでしょ! 私は魔女の娘なんだから! 行くわよカース! 胸を貸してあげるわ!」


「エリ姉……」


シャルロットお姉ちゃんが心配そうにしている。




さすが魔法学院、訓練場が広い! しかも周りが強固そうな壁に囲まれているので気にせず魔法を撃ってもよさそうだ。


「シャルロット! 開始の合図を頼むわ!」


「うん、双方構え! 始め!」


『『氷弾』』


奇しくも同じタイミング、同じ魔法。威力は……私の勝ちだ。


「くっ」『水壁』


私達の魔法はどちらもホーミングなので避けてもだめだ。確実に防がなければならない。姉上は水壁で一旦は防いだ。


『狙撃』


姉上の水壁ごとぶち抜くつもりだったが、抜けた後の威力が落ちている。中々強力な水壁のようだ。ならば!


『徹甲弾』


人間相手に使う魔法じゃないが姉上なら大丈夫だろう。ちなみにこちらもバシバシ魔法をくらっているが結構な魔力を消費しつつも、全て自動防御で防いでいる。


そして姉上は二発目の徹甲弾を腹にくらいぶっ飛んでいった。水壁でかなり威力を削られたようだ。腹に穴が開かなくてよかったよかった。狙ったのは肩だったんだがね。


「姉上起きて。起きてこれ飲んで。」


内臓が傷んでるかも知れないからな。早くポーションを飲ませないと。顔をバシバシ叩く。


「うっ痛っ、カース……私の水壁をぶち破るなんて……強くなったのね……」


岩や鉄板でもぶち抜く私の狙撃や徹甲弾をほぼ防いだんだから姉上の水壁はかなりのモノだ。


ようやくポーションを飲んでくれた。これで安心。


「じゃあ姉上、王族と決闘なんかしないでね。」


「ちっ、仕方ないわね。もう少し強くなるまでは我慢するわ。私だって負ける勝負をする気はないんだから。」


「エリ姉大丈夫? かなり飛ばされてたけど……」


「シャルロット、心配かけたわね。大丈夫よ。どうやらかなり上質なポーションのようね。カースのくせに生意気よ。」


全く、王族と揉めるなんて何考えてんだか。兄上のことになると周りが見えないんだろうな。ダメな姉だ。




「あなた達ここで何やっているの? またエリザベスなのね……」


おや、このパターンは……

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