第475話

文字がどんどん小さくなるに連れ頭痛と酔いは増すようだ。アレクや他の方々はそうでもなさそうだが、私だけなのか?


「いよいよ粒元体を見る準備が整ってきたようですね。ここからは字は書けませんでした。何かが見えるまで挑戦してみてください。」


そもそも今までもどうやって字を書いていたんだ? 原子サイズの字を見たことはあるが、あれだってどうやってるのかサッパリ分からないってのに。磁力が関係あるんだったか?


そんな時、ゾロゾロと白尽くめの集団が入って来た。作務衣のような服装にとんがった頭巾、総勢三十名ほどだ。


「あなた方は神の領域を侵しております。即刻中止しなさい。このままですと神罰が下ることでしょう。」


何だこいつら? 気持ち悪いな。


「またあなた達ですか……学校内に勝手に入られては困りますな。講義の邪魔です。立ち去りなさい。」


「ほぅ、たかが教授風情が我々『聖白絶神教団せいびゃくぜっしんきょうだん』に逆らうと? あなたはよくても他の方々はどうでしょう? みなさん! このままここに居るようでしたら神罰が下るかも知れませんよ?」


それを聞いて半数以上が講堂を出て行こうとする。さあどうしようかな。コツは掴んだから帰ってもいいんだが、これで終わりとは思えないんだよな。このやり方ではすぐに限界が来そうだもんな。でもまあいいや。


「帰ろうか。バカらしい邪魔が入ったことだし。今度じっくり教えてもらおうよ。」


「そうよねカース君の言う通りね。そうしましょうか。」


「続きは帰ってからじっくりとやってみればいいよね。」


やだやだ、付き合ってられないな。


「お待ちなさい、そこの子供達よ。神の御意志に逆らうと大変なことが起こりますよ? 悪い夢は忘れて私達と共に神の声を聞いてみませんか?」


「間に合ってます。」


付き合ってられないぞ。そんなに簡単に神の声が聞けるかってんだ。それともまさかこいつら全員祝福持ちとでも言うのか?


「まあまあお待ちなさい。私は教団の司教ザガートという者。あなた達は見込みがあります。ぜひ教団に遊びにいらしてください。神は来たる者を拒みません。お待ちしております。」


心なしかコーちゃんにも目を付けているような気がする。


「まあ考えておきます。」


来たる者を拒まないくせに自分達が気に入らないものは排斥するってか? さすがに都合がいいな。一人だけ高そうな法衣を着やがって。「ピュイー!」そうだよねコーちゃん。気に入らないよね。


結局教授も付き合いきれなくなったようで講義は終了。私達はサンドラちゃんに連れられて教授の部屋へと移動した。さあ続きだ!




それから二十分程度で教授は帰ってきた。後始末など大変だったろうに。それにしても王都ではあんな奴らが幅を利かせてるとは……

サンドラちゃんによると、二十年以上前から王都にあったらしい。それ以前に各地にあった教会、ローランド神教会は王都やその周辺では風前の灯らしい。ローランド神教会にあまり思い入れはないがクタナツ寺院の神官長ネイチェルさんにはスパラッシュさんの葬儀でもお世話になった。それを考えるとスッキリしないな。


「先ほどは参ったね。あいつらにはベクトリーキナー卿も手を焼いているんだよ。それはともかくようこそ私の研究室へ。君達のことはムリスさんからよく聞いているよ。先程の続きをしてもいいが、その前に昼食かな?」


どうやら教授がご馳走してくれるらしい。




どこに連れて行ってもらえるのかと期待していると、サンドラちゃんと二人して研究室の奥でゴソゴソやっている。まさかの自炊?


数分後、出された料理は麦飯の炒め物だった。炒飯に近いがあそこまでパラっとしておらず、肉も少ない。不味くはない、むしろ美味しいのだが……

自己紹介をしつつ食事を済ませる。


「すまんね。教授って安月給なんだよ。」

「違うわよ。研究にお金を使い過ぎなだけよ。」


サンドラちゃんは教授の懐具合まで把握してるのか。


「彼らとしては、神が作ったこの世界のことわりを暴きたて分析するとは何事だと言いたいらしい。何だったか……そう、『異端』だと言っていた。」


異端……便利な言葉だ。それを言うだけで考えの違う者を排斥できるのか。それより気になったことは……


「ローランド神教会は多神教でかなり自由な宗教ですけど、あいつらの神って何なんですか?」


クタナツの教会だと目的によって祈る神が違うんだよな。それで極たまに祝福を貰えるんだから良心的な神様と教会だよな。


「彼らの神に名前はないよ。ただ『神』と呼んでいる。神の名を呼ぶなんて不敬なんだとさ。」


うわー、絶対面倒くさいタイプだ。


「そんなに信者が多いんですか?」


「王都周辺に一万人はいると言われている。敵に回すと面倒な相手だよ。」


王都の人口が五十万人、割合的には大したことはないが……それだけの信者が全力で寄付をしたら収入はすごいことになりそうだ。

まあ私が研究したいわけでもないから関わることもあるまい。無視だな。「ピュイ」


それから夕方まで教授に手ほどきを受けながら原子の観察を行った。原子を見るには至らなかったが髪の毛、キューティクルが傷んでいるかどうかは見えるようになった。この魔法を『顕微』と名付けよう。

ちなみに最も傷んでいたのは教授、一番美しいキューティクルを持つのはもちろんアレクだった。アレクとサンドラちゃんは私より小さい景色が見えていたらしいが、途中で魔力が切れたらしい。セルジュ君とスティード君は遠見の段階で付いて行けなくなったようだ。

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