第459話

夕食後、暗くなったのでいつも通り心眼の稽古を始める。変わりばえしないが地道にすることが一番だ。その最中にコーちゃんが小石を飛ばしてきたり、カムイがフリスビーを投げてくるのがまたいい稽古になっている。


その時、私に向かって水球が飛んで来た。これは呼ばれてるのか? 水球は他所へ逸らしておいた。


「お疲れ様です。お呼びですか?」


「ふん、終わったぞ。ワシはここで寝る。お主も休め。明日の朝から城壁内で続きをやる。」


「ありがとうございます。ここで寝るんですか? お風呂とか入りませんか?」


「ほお、風呂か。馳走になるとしよう。」


「じゃあここに出しておきますね。終わりましたらまた呼んでください。」


「ふふっ、この贅沢者め。いや、贅沢なのはワシか……」


三十分もしないうちに合図の水球が飛んで来た。風球にしてくれればいいのに。


「先にいただいた。お主も入るがいい。」


モーガン様は私が乾かすまでもなく既に服を着ていた。


「ではお休みはこちらでどうぞ。」


鉄製簡易ハウスを出しておく。私はどこで寝ようか。まだ建物内には入らないつもりなのだ。初めての夜はアレクと一緒に……


ちなみに風呂は建物前に出してみた。小高い丘の上のような風情がある。カムイもキレイに洗ってやろう。「ガウー」

コーちゃんはモーガン様の周囲を警戒してくれている。なんていい子なんだ。


今夜は湯船をひっくり返して寝るとしよう。




ケルニャの日。

私が起きた頃にはもう作業が始まっていた。城壁内を端からゆっくり歩いては立ち止まり、何かを埋めている。


「おはようございます。朝ご飯は食べられますか?」


「ふん、必要ない。お主は好きにするがよい。それからあちらの岩は邪魔だ。明日までにどかしておけ。」


「分かりました。では今日もよろしくお願いします!」


ほったらかしにしてた岩の切れっ端だ。たくさんあるんだよなー。いちいち収納するのも面倒だから全部まとめて浮かせて外に置いておこう。いつか使うだろう。あ、これって物を溜め込む奴のセリフだ!


さて、鉄杭を打ち込むかな。特に要石周辺には多めに打ち込んでおこう。まずは北東からだ。


内側から四本、外側から十本打ち込んてみた。本当に先にやっておくべきだったな……

ここから西に向かって一メイルごとに打ち込んでいこう。



まだ昼にもなってないのに鉄杭がなくなってしまった。やはりミスリルギロチンのハンマーは優秀だな。城壁の中心部の底には硬い地盤があるらしく二十メイルの杭が全て入らなかった。一、二メイルほど出っ張ってしまっている。後でまとめて切るとしよう。硬い地盤があるとは少し安心だ。


では再びヘルデザ砂漠で鉄杭作りといこうか。今日はコーちゃん一緒に行こう! カムイは警戒を頼んだぞ!





そんなこんなで四日が過ぎた。杭打ちはまだ終わってない。そんなアグニの日の昼過ぎ。


「終わったぞ。後は浄化槽との連結だ。案内しろ。」


「ありがとうございます! こちらです。」


最奥部の狭い部屋の鍵を開け、浄化槽前へと案内する。

モーガン様は扉に手を触れ何かをしている。


「終わりだ。これで今後は外の堀に水が溜まることになる。」


「ありがとうございます! おいくらですか?」


「白金貨三枚だ。お主、城内に水路を掘っておったな? あのせいで苦労させられたわ。余計なことをしおって。帰ったら支払うがよい。」


頑張って作ったのに……


「分かりました。では帰りましょうか。」


今回はコーちゃんも付いて来てくれるようだ。「ピュイピュイ」

カムイはやはりお留守番、次に来る時はカムイの家を用意してくるからな。待ってろよ。「ガウガウ」


卵は私が抱えて行こう。一体いつ孵るんだろう。いつまでも腹に抱いているわけにもいかないのでサウザンドミヅチの革で包み、鉄の箱に入れてみた。そこにじんわり魔力を流してそこはかとなく暖かくしている。






「お主、あんな場所にあのようなものを作って何をするつもりだ。」


「いやぁ、それが大した理由はないんです。ただの思い付きでして。まあ別荘というか新居ですね。」


「ふん、新居か。」


「ところで空から来る魔物を防ぐ方法って何かないですか?」


「ある。どこの街にも準備してあるわい。よほどの非常時にしか使わんがな。」


「それをここに置くことって可能なんでしょうか?」


「無理だな。費用の桁が違う上に国王陛下の御採択が必要だ。それに一回動かすだけでも白金貨が飛ぶぞ。」


なるほど、そんなものか。それは無理だな。自分で何か考えてみるか……パトリオット的な、それも自動で……無理じゃない?


「建物や城壁を頑丈にする魔法はありますか?」


「ある。『堅牢』の魔法だな。お主クタナツ者であろうが。知らぬのか。」


「いやー興味のある魔法しか覚えてこなかったもので。それでその堅牢はどのような魔法なんですか?」


「ふん、繋がりを強化する魔法だ。岩そのものの強度が増すわけではない。お主の城壁は何やら塗り込んでおるな。その場合はどの程度の強度になるかは読めぬわ。」


なるほど。うちの城壁はコンクリと石、砂、そして岩だから意外と効きがいいのでは? 混ぜ込んだ魔石がいい仕事しそう。


「どれぐらい効果が続くものですか?」


「ふん、だいたい一日だな。魔力を多く込めたとしても強度が増すだけで時間は延びはせぬ。」


「分かりました。ありがとうございます!」


今度からは帰る前に建物に堅牢をかけておこう。気休めだけどしないよりマシだな。


行きと違って帰りはまあまあ話せたかな。『堅牢』の詠唱も教えてもらったし。




領都に到着。

「いやーモーガン様、この度は本当にありがとうございました。今後ともご指導いただければ嬉しいです。」


「ふん、正式な依頼ならば問題はない。好きに言ってこい。」


それもある種の公的サービスのようなものか。民間ではできないことを役人がやってくれると。


その後、私は行政府の会計窓口のような場所で白金貨三枚を支払った。これでついにアレクを招待する準備が整った。夏休みが楽しみだ!

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