第442話

今日は先生をクタナツへと送っていくサラスヴァの日。どうやら昨夜は先生の話を聞きながら寝入ってしまっていたらしい。

私は毛布にグルグル巻きにされた状態で目を覚ました。


「おはようございます。昨夜は面白いお話をありがとうございました。」


「おはよう。あんなのでも今後の参考になれば幸いってものさ。さあ、これを食べなさい。それから出ようか。」


「ありがとうございます。いただきます!」


これは干し肉と果物かな。味はバナナに似てるな。



美味しかった。ノワールフォレストの森にはまだまだ未知の果物があるのだろう。楽しみだ。


「じゃあ先生、クタナツに行きましょう! カムイ、付いておいで。今日はすぐ戻るから一緒に行こう。」


「ガウガウ」


「よろしく頼む。ここからクタナツまで二時間とは、ふふっ笑えてくるな。」


「何年か前にクタナツからバランタウンまで歩いて往復しただけで死ぬかと思いましたよ。ここからクタナツまで歩くなんて考えられませんね。みんな凄いですよね。」


「ははは、まあそれが普通だからね。馬車でヘルデザ砂漠を迂回するルートもあるんだが。その辺りは目的次第ってとこだね。」


「へぇーやっぱり色んなルートがあるんですね。今日はヘルデザ砂漠のど真ん中を通ります。途中の湖に寄りますので。」


「いいとも。任せるよ。」

「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


ちなみに私のミスリルボードだが、以前より大きくなっている。以前は畳サイズだったが、現在は縦一メイル、横三メイルだ。結構ゴロゴロしやすいサイズになっていたりする。


「これだけの速さで飛んでいるのに風を感じないとは。風壁を張っているのかな。やるもんだね。」


「いやーこれを張っておかないと落ちることもありますからね。後は空気抵抗を減らすと速くなりますから。」


先生は空気抵抗という言葉が引っかかったようで質問攻めにされてしまった。まさかそんな言葉に反応するとは……摩擦と合わせて説明してみた。それこそ目に見えない粒の話になるので先生には興味深かったのだろう。


「そうか、空気の壁、音速の壁か……そんなものがあるとは。」


私が現在出せる最高時速はおよそ四百キロル。まだまだ音速には遠く及ばない。しかし狙撃で撃つ弾丸は違うはずだ。計りようがないが本物のライフル弾並のスピードだったりしないだろうか。ともかく現在乗っているミスリルボードの速度を上げるには空気の壁が敵なのだろう。風壁の形を新幹線の先端のように工夫すればいい速さが出そうではある。




さて、少し休憩だ。


「先生、ここに寄りますね。スパラッシュさんが命名した湖、スティクス湖です。」


「ほお、スパラッシュ……毒針か……」


そういえばスパラッシュさんも先生のことを剣鬼と呼んでたな。

コーちゃんとカムイは湖に飛び込んでバシャバシャ泳いでいる。


『津波』


あまり減ったようにも思えないが、通る度に水は補給しておく。沿岸に多少植物が生えているようだし。砂漠緑化も夢ではないかも。

カムイは波が面白かったようだ。


「ここで以前ノヅチに会ったんです。スパラッシュさんが逃げろって言ってくれなかったら危なかったですよ。」


「ほほう、ノヅチかい。戦ってみたいが勝負になりそうにないな。あれに吸われたものは一体どこに行くのやら。」


普通に消化されて終わりか……?

さて、休憩終わり!

クタナツまで一直線だ。





到着。休憩を含めても二時間足らず。速くなったものだ。


「カース君ありがとう。退屈な道中が素敵な旅行へと変わったよ。これはお礼だ。王都へ行くときはタイミングが合えばぜひお願いしたいものだ。」


「あっ、ペイチの実! ありがとうございます! じゃあ七月末か八月頭にクタナツか領都にいていただければ。ぜひ一緒に行きましょう!」


「ありがたい。今日は家には寄らないのかい?」


「ええ、カムイがいますから。首輪の手続きをしようか迷ったんですが、こいつに首輪を付けたくないなーって。だからこのまま楽園に戻ります。」


「そうか。フェンリル狼に首輪は似合わないかも知れないな。アランとイザベル様にはよく言っておくよ。ではまたね。」


「はい! よろしくお伝えください。行ってきます!」


あ、先生がこの二年間どこで何してたのか聞くの忘れた。きっと激しい修行をしてたんだろうな。エルダーエボニーエントを斬れるようになったって、どんだけだよ? もうすぐ五十歳だよな?




さて、途中でもう一回スティクス湖に寄って、今度は泳ごう。

さすがに先生の前で真っ裸で泳ぐのは恥ずかしいからな。いずれアレクともここで……ふふ、楽しみだ。




さて、到着。

上空からざっと見たところ、人気ひとけ魔物気まものけもない。湖は透明でよほど深いところ以外は底まで見えるので、大きい魚も魔物もいないのは一目瞭然だ。これなら安心して泳げるな。ふふふ。


よーし、コーちゃんもカムイも好きに泳いでいいからね!

カムイの泳ぎ方は犬かき? 狼かきって言えばいいのか? コーちゃんは泳ぐってより進むって感じだな。カムイより速い!

私だって負けないぞ。そーれクロールクロール平泳ぎー!

魔境で露天風呂も大概だが、魔境で裸水泳も中々だな。病み付きになりそうだ。

水中メガネが欲しいなぁ。水中の景色を堪能したいぞ。湖畔の別荘も欲しいな。そこでアレクとしっぽり……

さすがにこんな所に建物を建ててもすぐ砂に飲まれてしまうよな……





あー、たくさん泳いだ。さすがに砂漠の太陽はきついな。もう夏だし。

結局二時間ぐらい泳いだけど魔物は全然来なかったな。まさかの安全地帯?

水場では獣達は争いをしないって言うあれか?

まさか魔物がそんなことを? 偶然だろうな。水場があるならそこに来る獲物を狙うのが魔物の習性ではないだろうか。


コーちゃんもカムイも楽しかったようだ。よかったよかった。


さーて、楽園に戻ってから昼ご飯にしようか。トビクラーの肉が待っている!

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