第433話 領都一子供武闘会 準決勝

『さぁ! ついに準決勝です! 選ばれし四人が出揃いました! ここでカース選手より提案がありました。自分の対戦相手に限りポーションを飲んでよいと言うのです! 持ってなければ定価で売ってやるとも言ってます! 何たる自信! 何たる不遜! ぜひコテンパンにして欲しい! さて、準決勝でのカース選手の対戦相手はネクタール選手です。ネクタール選手! ポーションを飲みますか?』


「いらん! 私は消耗していない! むしろ彼こそ飲んでも構わんぞ。」


『おおー! ネクタール選手もすごい自信です! 頑張って欲しい! さあカース選手? 飲みますか?』


「いえ、結構です。」


『ちっ、飲めばいいのに。さあ! 気を取り直して準決勝第一試合を始めます! ここで改めて両者をご紹介いたします。準決勝進出一人目はカース・ド・マーティン選手。マーティンという名でピンと来た方もいらっしゃるでしょう! そうです! このおガキ様は『好色騎士』アラン卿と『聖なる魔女』イザベル様の三男、つまりあの『模範騎士』ウリエンちゃんとクソ女『虐殺』エリザベスの弟だぁー! こんなことがあっていいのか! 立ち上がれ領都民!』


姉上の扱いが酷いぞ。一体何が?! しかも虐殺って何やったんだ?


『さあ! 対するは、ネクタール・アジャーニ選手! こちらもすごい! 祖父はアジャーニ家の出身ながら野に下りアジャスト商会を起こし、たちまち領都一の大商会にまで育て上げた立志伝中の人! あんな高価な鎧を惜しげもなく作れるほどお金持ち! 私のハートはもうメロメロ! ぜひ結婚して欲しい! 王都のアジャーニ家とは袂を分かったらしいですが、それでも絶大な財力! 頑張れネクタール選手!』


ホントに正直な黒百合さんだな。私だって小銭ぐらいなら……


『さあ注目の賭け率ですが、五対三! ネクタール選手優勢だー! このままいけー!』


まあ面白いからいいか。

まさか対戦相手がアジャーニ家所縁の人だったとは。


『時間となりました。賭けを締め切ります。では決勝トーナメント準決勝第一試合を開始します! 双方構え!』




『始め!』


『金操』


『はっ? えぇっ!? あぁ? 終わり!?』


あんな金属鎧を着てるんだから金操のいい的なんだよな。落雷でもよかったが、怪我がないように場外負けにしておいた。


『金操だな。あんな鎧を着てるんだ。格好の的ってわけか。しかし準決勝だってのに容赦なさすぎだろ。観客がポカーンとしてるじゃないか。』

『勝負あり! 残念ながらカース選手の勝利です……』


「ふざけんなー!」

「イカサマだー!」

「金返せー!」

「不正だー!」

「対戦相手もグルなんだろ!」


『おおーっと場内が騒然としております! 確かに相手を少し浮かせて場外に置くなんて全然面白くない勝負をしてくれやがったのですから当然です! どうしますどうします? 大会委員長のダミアン様?』

『当然だが勝敗に変更はない。ただし俺としてもカース選手の戦い方には不満がある。そこでだ! もし罷り間違ってカース選手が優勝したとしよう。その時にイベントを考えた。詳しくは言えないが……負けた野郎ども! 回復を済ませて出番を待ってろ! 面白いイベントがあるぜ!』

『おおっーと! ダミアン様! 詳しくは言えないって言ってるくせに何が起こるかバレバレだー! さあ、準決勝第二試合に行きましょう!』


「カジミール選手、シフナート選手は武舞台に上がってください。」


『選手を紹介いたします。カジミール・リメジー選手は冒険者! 弱冠二十一歳の若さで六等星にまで成り上がった腕利きの槍使いだー! 今大会ではまだ槍を温存しているため槍の腕は不明! 極蔵院ごくぞういん流との噂もあり油断のできない人物だー!』


『対する準決勝最後の一人は美少年! シフナート・ド・バックミロウ選手は用心棒貴族と名高いバックミロウ家の出身! 現当主の孫で弱冠十二歳! ヤコビニ派とも関わりがあったらしいがそれはすでに過去のこと! 私は一切気にしません! 美少年は宝です! 暖かい目で見守って熱い口で味わって! こちらも凄腕若手冒険者のザック選手を降した身のこなしは油断できません! 瞬き厳禁です!』


『さあ注目の賭け率ですが、五対二! シフナート選手優勢だー! やはりカジミール選手の消耗は誰の目にも明らかか!?』


カジミール選手は落ち着いて呼吸を整えようとしている。

シフナート選手は一見怪我も消耗もしてないようだが、実際はどうなんだ?




『時間となりました。賭けを締め切ります。では決勝トーナメント準決勝第一試合を開始します! 双方構え!』




『始め!』


『なんと! シフナート選手、二十メイルもの間合いを一足飛びに詰めてしまったぁー! しかしカジミール選手も負けていない! いつの間にか取り出したる三又の槍でシフナートきゅん、選手を近寄らせなーい!』

『シフナート選手の速さは眼を見張るものがある。あの間合いの詰め方こそバックミロウ家に伝わる秘伝、縮地テラトレシアなのだろう。』

『ダミアン様、それって言ってもいいんですか? 先ほどは言えないこともいくつかあったのに!?』

『問題ない。知ってる者は知ってるし、あの一族以外に真似できるものでもないからな。』


今の動き! 思い出した! あの時のシフナート君だ! 殺し屋を雇って自滅した馬鹿の護衛をやってて最終的に私と決闘をしたあの!

あの動きはやっかいだな。なんであの距離を一瞬なんだよ。短距離転移でもないし。身体強化は当然使ってるだろうけど。


『一進一退の攻防が続きます! 巧みな槍捌きで相手を近寄らせないカジミール選手、素早い動きで相手を翻弄し的を絞らせないシフナート選手、このまま二人が消耗すれば笑うのはあの選手だー! 何とかしてくださーい!』

『カジミール選手は冒険者の割に修練に時間を割いているようだ。槍捌きがかなり安定している。このまま隙を見せることもないだろう。一方シフナート選手だが腕力勝負になるとかなり不利だが、そんなことは自分が一番よく分かっているはずだ。どう打開するのか見せてもらおう。』


私の相手はどっちだ? シフナート君は嫌だな。カジミール選手に勝って欲しいところだが。


『水球』


『カジミール選手が水の魔法を使いましたが、当たりません。どこを狙ったのでしょう?』


『水球』『水球』


『カジミール選手が魔法を使う分、隙が大きくなりシフナート選手の剣が身を切る。それでも使う理由は……』


『凍結』


『おーっとぉ! 武舞台の上が氷で覆われてしまったー! さながらいにしえの王族の遊び場、透糸輪狗すけいとりんくだぁー! 何をするカジミール選手!?」』

『なるほど、自分はどっしりと構えておいて相手の足を奪うというわけか。多少だが体温も奪えるしな。』


「ふん、どっしり構えるだと?」


「なっ!?」


『なんと! シフナート選手のお株を奪うかのような素早く流麗な動き! あの氷の上でどうやって!?』

『秘密は靴にある。あれは古の王族も使った透糸靴だ。一瞬で履き替えるとは、さすが冒険者は魔力庫の使い方が一味違うな。』

『よく見るとカジミール選手の靴が違ーう! まるで刃に乗るかのような鋭い靴です! あれに蹴られてしまうと端正なお顔に傷が! 反則負けにしたいです!』

『あのバランスの悪い靴で自在に氷上を移動できる技は侮れない。先ほどの傷と引き換えに氷を張ったことは無駄ではなかったようだ。』


『火矢』『火矢』


「当たるかよ! 隙だらけだぜ!」


『あーっとカジミール選手の槍がシフナートきゅ、選手を攻め立てるぅー! 火矢は当たってなーい!』

『あの速度で動かれたらそうそう当たるものではない……が、チャンスがないわけでもない。』

『ダミアン様それは!? すぐ教えてください! さあ早く!』

『シフナート選手は気付いてるぜ? もちろんカジミール選手もな。』


『氷霰』『氷霧』「どんどん寒くなるぜ。何っ!?」


『闇雲』


『どうしたことでしょう!? シフナート選手! 武舞台を丸ごと闇雲で覆ってしまったー! これではお顔を堪能できなーい! カジミール選手、早く散らしてください!』

『無理だな。あの闇雲の量はかなりのもんだ。つまり込めた魔力も相当だな。今から数分はよほど強力な風でないと散らせないだろう。』

『時折武舞台の外に魔法が飛び出して来てますね。カジミール選手の魔法でしょうか。』


「ぐわっ!」


『野太い悲鳴が聞こえました! きっとカジミール選手に違いありません。カジミール選手! 降参なら降参と言ってください! そうでないなら好きに続けてください!』


「ぐそっ! 出てこいや!」


『そうか。これは心眼か。』

『知っているのですかダミアン様!?』

『ああ、無尽流の高弟が使う技だ。夜の暗闇でも奴らは的確に攻撃してくる。シフナート選手がどの程度心眼を修めているかは分からんが、この暗闇から判断するとそれなりに自信はあるのだろう。』

『さすがはシフナートきゅん! そのような秘伝まで極めているなんて! もう私をどうにでもしてください!』


『剣戟の音はしませんが、人が動く音はします! まだ終わってないようです! ん!? 聞こえましたか? 今の鈍い音、あれは……』

『骨の折れる音に聞こえたな。いよいよ決着か。』


『おお! 闇雲が晴れて参りました。シフナートきゅんのご尊顔は……

勝負あり! 勝ったのはシフナートきゅんだー! あっ! あの右腕は!?』

『折れたのはシフナート選手の右腕だったのか。それでよく勝ったものだ。シフナート選手! その腕でカース選手と戦うのは無謀だ。ポーションを飲んでからにしてはどうだ?』


「では遠慮なく飲ませていただきます。私はどうしてもカース君に勝たなければいけない!」


『自前で持ってるか? カース選手がいいポーションを持ってるそうだが? 飲んだらさっきの対戦の説明をしてくれよ。』


「ご心配なく。持っております。お言葉に甘えて魔力ポーションも飲ませていただきます。」


まだそんなに私が憎いのか。こっちはすっかり忘れてたってのに。あの時の貴族の名前すら分からないぞ。

さあ、暗闇での出来事を教えてくれ。魔力探査してたからだいたい分かってるけど。

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