第429話、領都一子供武闘会 四回戦

残り人数は四十人、ここからは早そうだ。


「四回戦第一試合を始めます。シャイナール選手、ナルキッソス選手。武舞台に上がってください。」


二人とも同じ制服を着ている。魔法学校生かな?


『はい! 盛り上がって参りました領都一子供武闘会! 武闘会とは名ばかりの魔法対戦でお送りしております! この明らかに魔法学校生に有利なルールにおいてこの二人が勝ち残ったのは極自然なこと! なお、この四回戦では勝つまでの時間も重要だったりします。

さあ! 一人目は五年生の首席シャイナール・ド・バズガシカ! その相手は三年生三位ナルキッソス・ド・テレシァス! 経歴だけを見ればナルキッソス選手に勝ち目はない! さーあどうする!? 賭けの締め切りまで残り三分! 現在の賭け率は五対二でシャイナール選手優勢です!』


残り人数が少なくなってきた分、実況に力が入ってきたな。今なら私も賭けに行けそうだけど、もう動くのが面倒になってきた。このまま出番を待っていよう。


『時間となりました。賭けを締め切ります。では四回戦第一試合を開始します! 双方構え!


始め!』


『氷壁』


『氷弾』


『おーっと! ナルキッソス選手! いきなり守りに入りました! 対象的にシャイナール選手は決めに行く攻撃、氷弾を撃つもあえなく弾かれました!』


『水球』『風斬』『火球』


『シャイナール選手の多彩な攻めがナルキッソス選手を襲う! しかし頑丈な氷壁は依然として健在だー! 解説のダミアン様、どう見ますか?』

『地力で勝るシャイナール選手に対抗するための一手、そう見える。ナルキッソス選手は魔力総量、魔法制御においてシャイナール選手に及ばないようだ。しかし発動速度においてはギリギリ互角とも言える。そこに勝機を見出したようだが……』

『非常に気になる言い回しですね? さあここからの展開は見逃せません!」 』


『氷壁』


『ナルキッソス選手は変わらず防御を固めています!』


『風斬』『風弾』『風球』


『シャイナール選手は攻撃の手を緩めません! しかし戦況は膠着しています! 退屈です! 観客が困ります! 何とかしてください! どうですかダミアン様?』

『この場合、シャイナール選手が先に魔力切れを起こす。それを待ってナルキッソス選手は反撃すればいい。しかしここからでも感じるシャイナール選手の魔力は一向に切れる気配がない。むしろナルキッソス選手の魔力が……』


ダミアンの奴マジですごいな。よくそこまで分かるな、そんな遠くから。私は近くにいるからよく分かるが。ここから感じるシャイナール選手の魔力はナルキッソス選手の軽く五倍はある。このまま押し切るのは余裕だろう。でもいいのかな?


「ナルキッソス君、君はよく耐えた。だがもういいんだよ。楽になるといい。」『火球』


「はぁはぁ……シャイナール先輩……いいんですか? そんなに魔力を浪費して……」『氷壁』


「ふっ、見たところ手強いのは君ぐらいだ。君さえいなければ優勝は僕さ。」『水球』


しかしここまでの対戦でみんな正面から撃ち合うだけなんだよな。誰も私のように後ろから狙ったりしてない。まさかアレクの言葉に影響されているのか?


『依然として状況は変わりません! もう観客は飽きています。早く終わらせてください。』


この実況もひどいな。確かに観客も飽きてるとは思うが。


「ナルキッソス君、ここまでだ。」『闇雲』


「くっ、その程度の魔法で?」『風操』


『おーっとシャイナール選手! どうしたことでしょう、闇雲の魔法です。いくら身を隠しても居場所はバレバレ、もちろん一歩でも外に出たら契約魔法が反応し負けとなります!』


風の魔法で闇雲が吹き飛ばされる。するとそこにシャイナール選手がいない。隠形と浮身を使って飛び上がっただけだが。


『いません! 闇雲は晴れましたがシャイナール選手がいません! 一体どこへ!?』

『行き先をバラすなよ。あれも作戦だからな。』


『水球』『水球』


上空より叩きつけるような水球により氷壁を破壊され円の外に叩き出された。ナルキッソス選手の負けか、なかなかやるな。私も空中は使おうと思っていたので、少し悔しいな。


『決着! やっと決着しました。終わってみれば賭け率通りシャイナール選手の勝利です! さあ次々行きましょう!』


「第二試合、スティード選手、シグナリア選手、武舞台に上がってください!」


『さあまたもや組み合わせの妙か運命のいたずらか、同門対決だぁー! シグナリア選手は騎士学校五年生の四位、スティード選手は騎士学校三年生の二位! 二人とも不利なルールでよくここまで勝ち上がってきました! そして賭け率はぁー、三対一! やはりシグナリア選手の優勢です!』

『気になるのはスティード選手だ。彼は確かクタナツ出身のはず。対してシグナリア選手は領都生まれ領都育ち。クタナツ者を敵に回すと厄介なのは常識だ。それがどう影響するか楽しませてもらうとしよう。』


ダミアンの奴偉そうに。騎士の卵同士どんな戦いになるのか……




『時間となりました。賭けを締め切ります。では四回戦第二試合を開始します! 双方構え!


始め!』


飛斬ひざん


『おーっといきなり仕掛けたのはシグナリア選手! 騎士学校生伝家の宝刀『飛斬』だー! 剣と魔力の合わせ技、魔法使いでなくてもこれがあるから油断は禁物。でも現役の騎士は効率が悪いからあまり使わないぞ!』


初めて見た。風斬みたいなものか。それより威力はありそうだが……


『飛斬』

『乱れ飛斬四連』

『裏飛連斬十字打ち』


『おーっと! シグナリア選手、多彩な技でスティード選手を追い詰める! しかし使ってる技は全て飛斬だー! 自分で格好良さげな名前を付けているぅー!』


『回転飛斬六連』


『猛攻が止まらなーい! 魔力は大丈夫なのか! 先ほどからスティード選手は何をしているのでしょうかー!?』

『見事なもんだぜ。あの動き、無尽流をかじっているようだ。よく見てみな。顔や体に細かい傷がたくさん付いているだろ? 達人ならそんな傷は負わない。スティード選手は達人への道を歩みかけていると言う訳だ。飛斬を往なしてはいるが、完全ではない。だからあんな傷を負うことになる。』

『先ほどからのダミアン様の的確な解説は一体どうしたことでしょう!? 馬鹿三男、放蕩息子との呼び声も高いお方なのに!』


『飛燕連斬霞斬り』

『飛斬抜刀飯綱落とし』

『飛剣斬光飛倉破り』


『すごい猛攻だぁー! そして見事に往なしているかのように見えたスティード選手の上体が大きく揺れたー!』

『あれは風球だな。誰かさんも使った手だが、あれだけの連続技の最中にこっそり挟むとは基礎稽古をしっかり積んでいる証拠、いい選手だぜ。』


しかしさすがはスティード君。何という足腰の強さだ。不意にくらっても耐えるなんて。


飛突ひとつ


『当たったー! こちらも騎士学校生伝家の宝刀『飛突』スティード選手の飛突が見事シグナリア選手の足首に命中! 飛ぶ斬撃に対して飛ぶ刺突で対抗したスティおっーとシグナリア選手倒れたー! 決着です! スティード選手の勝利です!』

『シグナリア選手のお株を奪う風球だな。飛突で足首に注意が逸れた隙にぶち当ててる。これだからクタナツ者は厄介なんだよ。』


すごいぞスティード君! 最小限の魔力で勝ってしまった! その分体力を消耗しているとは思うが、あの飛突の威力は要注意だ。多分先日のアレクの氷弾ほどの威力も出せそうだ。トビクラーの頭をぶち抜いたアレだ。負けられないな。

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