第420話

いつも通り魔法学校の校門前でアレクを待つ。もちろん発信の魔法は使ってある。まだかなまだかなー。



おや、あの子は……


「カース君、この前はありがとう。アレックスはもうすぐ来ると思う。」


「どういたしまして。こちらこそアレクと仲良くしてくれてありがとね。」


アイリーンちゃんか。行動が早いな。今から何するんだろ? この前の朝が酷かっただけに今日は比較的まともな格好に見えるが……やっておこう。ほい。


「あ、この前の……すっきりする。それは何の魔法? ありがとう……」


「僕の兄から習った魔法なんだ。洗濯魔法と乾燥魔法だよ。制御が結構難しいけど便利なんだ。自慢の兄さ。」


そこに……


「アイリーン様ー! お早いですわぁ」

「お待ちくださいよぉ」

「神速の行動、それ故に後を追う」


あれ? こいつら?


「お前ら、この前アレクにポーションを渡さず持ち逃げしたよなぁ? 俺の顔を忘れたか? あ?」


「誰あなた?」

「不審者?」

「気安く話しかける大罪、万死に値する」


「ふざけんな! アレクサンドリーネに渡すよう頼んだポーション二本を持ち逃げしただろうが! あれは二本で金貨三十枚はするぞ!」


高級ポーションは一本金貨五枚、特製魔力ポーションは一本金貨二十三枚だ。高級ポーションの方が安いって何なんだ?


「ポーションって何事……? まさか……この前アレックスが実技の授業で貴方達に厳しかったのはそれ?」


「し、知りません」

「わ、分かりません! こんな不審者の言うことなんか!」

「蒙昧なる愚民の戯言、一笑に付すべし」


「ふーん、お前ら俺のポーションを売るか何かしたな? それで今更返せないから惚けてんだな? お前らがその気なら……とことんやるぞ?」


『麻痺』


「首から下が動かねーだろ? こんな雑魚用の魔法を跳ね返せないってお前ら本当に魔法学校の生徒か? そこいらの平民じゃねーのか?」


「か、カース君……この子達は……」


「聞いてた通りだよ。この前アレクが体調が悪かったらしくてね。下級生に部屋までポーションを届けてもらおうとしたらこいつらが没収したんだって。その後改めて届けるように頼んだんだけど、結局届けてくれなかったみたいなんだよね。もしそれで手遅れになってたらこいつら死刑だよね。ノルド海に沈めてやろうか。」


「ごめんなさい。たぶんその日は私がアレックスに負けた日かも……それでこの子達は変に気を使ったのかも……」


「アイリーンちゃんはいいんだよ。アレクの友達だよね? それよりこいつらだよ。ほら、喋ってみろよ。正直にな?」


「うるさいうるさい! 下級貴族のくせに私達にこんなことして! 騎士団を呼んでやるわ!」

「そ、そうよ! アイリーン様! 助けてください! こいつ頭がおかしいんです!」

「狂人の暴走、至急救済を求む」


ちっ、人が集まって来やがった。アレクも来る頃だ。


「お前ら、正直に言ったら金貨二十枚だ。約束だ。もちろん許してやるし、後で文句も言わない。アイリーンちゃんが証人だ。ただし先着一名だけな。どうだ?」


「わ、私は……」

「この子が売ろうって言ったんです! うっ」

「あっ、あの時……」


早いな。こんなに早く白状するとは。


「はい君。君だけ無罪ね。さあ詳しく話してね。」


「そ、そんな」

「はい! あれからアレクサンドリーネ様の部屋に向かおうとしていたんです! でもその途中でポーションの質を見て、この子が売ろうって言い出したんです! 金貨二十枚で売れました! そしたら言い出したのは自分だからってこいつが金貨十枚もとって! 私達は金貨五枚ずつしかもらってなかったんです!」

「無念、強欲許すまじ」


金貨三十枚相当の品を持ち逃げってかなり悪質だよな。奴隷役だと何年なんだろ?


「アイリーンちゃん、このケースってどのくらいの罪になる?」


「被害金額の三倍程度を払って被害者が許せば終わり。私からも謝るから許してあげて欲しい。もちろんきっちり払わせる。」


そう言って頭を下げるアイリーンちゃん。いい子だ。


「いいよ。じゃあ解決ね。喋ってくれた子は無罪の約束だから何もしなくていいよ。他の二人だけ払ってもらおうか。金貨三十枚と金貨十五枚ね。」


「あ、は、でもお金が……」

「手元不如意」


「では約束だ。お前は金貨三十枚、そっちのお前は金貨十五枚。俺に借金だ。利息はトイチの複利。十日ごとに少しでいいからギルド経由で払え。それがない場合はいつまでも魔力が回復せず減るだけになる。分かったな?」


「あ、う、はいっぐっ」

「渋々了承っな」


さて、こいつら三人の友情はどうなるかな? 一人だけ無罪放免だもんな。まあ知ったこっちゃないね。


「あ、あの、金貨二十枚は……」


「ああ、ほれ。これが金貨二十枚だ。しっかり見ろ。見たな? じゃあもう行っていいぞ。」


「え、え? 金貨二十枚くれるって……」


「言ってねーぞ? 金貨二十枚としか言ってねー。お情けで見せてやったんだ。これに懲りたら次から舐めた真似すんなよ。」


「そ、そんな……」


無罪で済んだだけでもありがたく思えよな。






「カースお待たせ! 会いたかったわ!」


「僕も会いたかったよ!」


ちょうどいいタイミングでアレクが勢いよく抱きついてくる。いい匂いがする。ふう。


「あ、例のポーションの犯人! こいつらよ!」


「うん。丁度終わったところだよ。お金で弁償してもらうってことで解決した。アイリーンちゃんが間に入ってくれてね。」


「そうなの。ありがとうアイリーン。手間をかけたわね。」


「いや、この三人がしたことだし……無事に済んでよかった。本当に。」


アイリーンちゃんは少し顔を赤くしている。


「カースは容赦ないから。無事に済んで本当によかったわね。」


アレクに関わることだからだよ。本当に許せなかったんだ。


病気で死に掛けてる母親のためにやっとの思いで高額な薬を手に入れて、自分では届けられないものだから仕方なく誰かに頼んだら、そいつは欲に目が眩み売り払った。

それはブチ切れるよな。殺人も許されるレベルだろう。





「ところでカース君、知ってるか? アレックスが賞品になってしまっている。悪名高い辺境伯三男の仕業だ。抗議するなら及ばずながら協力する。」


あー、世間はそう見るのか。ダミアンが辺境伯の権力を盾に無法を働いてると。


「うーん、心配ありがとう。明後日が本番だからそれまで秘密でお願いしたいんだけど……これって実は僕がダミアンとアレクに頼んで段取りしてもらったんだ。賞金も僕が用意するんだよね。僕が主催してもイマイチ盛り上がらないだろうしね。」


「よく分からない。なぜそんなことを?」


「いやー、アレクってモテモテじゃない? それは可愛いから仕方ないんだけど。少しでも寄り付く男を減らそうと思ってね。自作自演で恥ずかしいけど。」


「よく分からない。きっと君は壮大な器を持っているんだろう。」


ほほう、嬉しいことを言ってくれるね。


「カースはすごいんだから!」


「せっかくだからうちでお茶でも飲んでく? スティード君も三ヶ月に一度ぐらいは来てくれるよ。」


うちは来客が少ないからな。たまには新しい客を呼んでもいいだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る