第384話
アレクサンドル邸では相変わらず私を見ると正門を開けてくれる。久しぶりなのに嬉しい。
「おはようございます。奥様か騎士長はいらっしゃいますか?」
「奥様がいらっしゃいます。どうぞお入りください」
玄関前にはメイドさんが待っている。
「ようこそおいでくださいました。こちらへどうぞ」
いきなり来てこの待遇。恐縮してしまう。
「どうぞお入りください」
この部屋は? 知らない部屋だな。
「失礼します。どうもお久しぶりです。」
「随分と久しぶりね。たまには顔を出して欲しいものだわ。」
同じアレクサンドル夫人でもこの前のチャーシューババアとは大違いだ。アレクママの上級貴族オーラはやはり凄いな。
「それは申し訳ありません。お義母さんを目の前にすると緊張で震え上がってしまうものですから。今日はお嬢様から手紙を預かって参りました。」
「そう、それはご苦労様。まあ座ってお茶でもお飲みなさい。」
私はお茶を飲む。アレクママは手紙を読む。お茶を飲む音、紙をめくる音がやけに響く。
「相変わらず暴れてるようね。」
「いやいやいや、とんでもないです。ついつい成り行きでそうなっただけかと思います。」
「アレクサンドル本家は王都の東、アレクサンドル領を治める公爵家なの。現当主、一門を支配するのはアルノルフ・ド・アレクサンドル。主人アドリアンの祖父の従兄弟にあたるわ。我が家は随分前に枝分かれして男爵家となっているわ。今回揉めた相手、アナクレイルの家は伯爵家。アルノルフ様の数代前に枝分かれした家系ね。」
「は、はあ。」
「アレクサンドル家は建国以来の名門、それだけに分家を起こすことは簡単じゃないの。王家ですら分家は二つしかないのよ? それがアレクサンドル家には四つもあるの。ちなみにアジャーニ公爵家は三つ。」
「多いんですね。」
「そう。貴族世界で分家とはただのスペア。多くて困ることはない……本当にそうかしら?」
「いや、よく分かりませんけど多いと揉めるんじゃ……」
「その通り。我が男爵家を除く三家はいずれも本家の跡目を狙う野心がある。それ故にアドリアンの祖父の代から我が家は本家に見切りをつけ、独自の道を模索してきたの。その結果がクタナツ騎士長ってわけね。」
「さすがですね!」
「もちろん簡単じゃなかったわ。主人はよく生き残ってくれたと思うわ。つまり何が言いたいのかと言うと、自由にやりなさいってことね。貴方は容赦ないって聞いてるから言われるまでもなく好きにするんでしょうけど。」
「ありがとうございます。容赦なく好きにやります!」
「せっかくだから私も手紙を書くわ。領都に行く前にもう一度寄ってもらえるかしら?」
「分かりました。お嬢様も喜ぶと思います。」
それから多少の世間話をしてアレクサンドル邸を辞した。勉強になった気がするが覚えきれる気がしない。本家と分家か……色々あるんだろうな。やはり上級貴族は大変だよな……
キアラの卒業まで四年を切った。四年後には私も平民か。今の生活と変わりはあるのだろうか。税金が変わるのかな?
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