第334話

辺境伯家のお屋敷に帰った私達は先に風呂に入ることになった。アレク達は家族用の大浴場。私は案内された客室の風呂。客室にも風呂があるなんてさすがは辺境一の大貴族。

しかもマギトレント製! 客室がいくつあるのか分からないがとんでもない贅沢だ。


コーちゃんを水で洗って外に送り出した後。次は自分を洗おうと思っていると、おもむろに薄衣のメイドさんが入ってきた。そんなサービスまであるのか? さすがにいらないぞ。


「お背中をお流しいたします。」

「いえ、必要ありません。すでに洗いましたので。もう少し浸かったら出ます。」


間髪入れず断った。こいつは臭ぇ、ハニートラップの匂いがプンプンするぜぇー。一体なぜ?

逆にサービスを受けなかったことで小物と思われてしまうだろうか? もしかして失礼だったりするのか? まあ構わないけどね。だって怪しいから。マリーならいいのに。


メイドさんは大人しく出て行ってくれてよかった。そして再び何食わぬ顔で呼びに来た。夕食だ。どんなメニューなんだろう。




「カース、遅かったじゃない。お風呂好きだもんね。」


「あはは、そうなんだよ……」


よかった、私の席はアレクの隣だった。ミスリルの髪留めが眩しいぜ。

そこに高齢の女性が姿を現した。

私とアレクは立って出迎える。


「お久しぶりでございます。アレクサンドリーネでございます。」

「お初にお目にかかります。カース・ド・マーティンと申します。こちらは精霊のコーネリアスです。」

「ピュイピュイ」


「よく来てくれたわね。アレクサンドリーネさん。何年振りかしら。男の子のお客は珍しいわ。それに可愛らしい精霊さんね。ようこそ我が家へ。ソルダーヌの祖母シュザンヌよ。」


おばあちゃんか。王都には私の祖父母がいるんだよな。会ってみたくなってしまった。そのうち行ってみなくては。

それから他の子供達も入ってきた。たぶんソルダーヌちゃんの兄弟なんだろう。


「ごめんねアレックス。母上は今夜パーティーらしいわ。父上に同伴する必要があったみたい。」


「そんなのいいわよ。辺境伯夫人なんだから忙しいに決まってるわ。」


そして食事前のお祈りをして夕食開始となった。このお祈りは以前アレクの家でやったものと同じだった。


メニューはよく分からないが旨い!アレクがあれこれ解説してくれた。やっぱり頼りになるなぁ。

コーちゃんにも同じメニューが用意されている。今日は多めに魔力を込めてあげよう。ちなみにコーちゃんは皿から直接食べるわけだけど、溢したりしない。とてもきれいに食べるのだ。すごいぜコーちゃん。


食事も終盤に差し掛かり会話が弾む。


「アレックスちゃんは少し会わない間にすっかりレディになったね。その髪留めもよく似合っているよ。」


「ディミトリお兄様こそご立派になられて。この髪留めはこちらのカースからの贈り物ですわ。優れた材質に斬新なデザインが気に入ってますの。」


軽く会釈をしておく。ソルダーヌちゃんのお兄さんなんだな。


「ちょっとアレックスそれミスリルじゃないの! さっきは気付かなかったわ。カース君やるわね!」


「それはすごい。ミスリルを髪留めにするなんてクタナツには不届きな店があるんだね。」


「お店じゃないんです。カースの手作りなんですの。それにこれも……」


そう言ってアレクは汚銀のバングルも見せる。私と同じ左手首につけている。


「ミスリルを手作りですって!? 確かにあまり見ないデザインよね……」


「彼は小さいのにすごいんだね。でもそれは汚銀だよね? アレックスちゃんが身に着けるにはどうかと思うよ?」


「私は冒険者もやっています。これに込めた僅かな魔力が生死を分ける場合もあります。魔力ポーションを飲めない状況もありますから。」


少し耳が痛いな。私も気を付けよう。


「そんなことやってるの? 実戦で鍛えたのね。だからあんなにも強く鋭くなっちゃったのね。それならカース君の魔法の腕も見たいなー。」


「よくご両親がお許しになったね。女の子は君一人なのに。」


「カースと一緒だから……だから護衛なしで領都に来るのも許してもらえるんです……//」


おお、風呂上がりの上気した顔がさらに赤くなった。普段の真っ赤具合とは少し違うな。これはこれで色気があっていいな。


「はいはいすごいのね。どれだけ信頼されてるのよ。あのお二人は甘くないのに。あーあ私も強い男がいいなー。」


「同級生で誰かいないの? 前にも聞いた気がするけど。」


アレクが水を向ける。


「いるわけないわよ。辺境伯家よ? 昼間の二人のように逃げるか、寄って来ても軟弱な貴族だけよ。」


やはりバラデュール君は望み薄か……


「そうだわカース君、昼間に私が困ったら助けてくれるって言ったわね? 困ってるわよ。アレックスのことが羨ましくて困ってるわ。何とかして。」


無茶言うな。スティード君なんかオススメだけどサンドラちゃんのことがあるからな。だからセルジュ君もだめだ。あの三人はどうなるのだろう? オディ兄もだめだしウリエン兄上もだめ。やはりいい男は余るものではないな。


「こらこら彼が困ってるじゃないか。こんな小さい子に無茶を言ってはいけないよ。強い男がいいなら僕の同級生を紹介するさ。」


「うーん、兄上の同級生って魔法学校のですか。それなら学年首席ぐらいでないと……」


ちなみにお兄さんは四年生らしい。姉上の一つ下だ。


そこにおばあ様が声をかける。


「ソルダーヌ。貴女ももうすぐ卒業なのよ。遊ぶのはいいけど後腐れないようにしなさいな。」


そういうものか。大貴族はそうなのか。


「ディミトリもよ。貴方の兄達のように無様な遊び方をしてはいけませんよ。上手く遊びなさいな。」


「はっはっは。分かっておりますとも。放蕩な兄さん達とは違いますよ。」


あっ! 思い出した! 辺境伯の馬鹿四男! あいつは見た感じ二十歳を過ぎてそうだから、このディミトリお兄さんは五男か六男かな。

こんな場所で会うと気分が悪いからな。いなくて良かった。


「じゃあ私のお部屋に行きましょうか。ではおばあ様、お先に失礼いたします。」


「ご馳走になりました。本日はありがとうございました。」


私も似たような挨拶をし、コーちゃんもピュイピュイ言いながらピョコピョコと頭を下げている。さあソルダーヌちゃんの部屋はどんな感じなんだ?

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