第299話
週末前、ケルニャの日の放課後。
私とアレクはクタナツとタティーシャ村の中間辺りの森に来ていた。
以前トビクラーを狩った辺りだ。
「よーし到着。ではやってみるよ。」
ちなみに前回灰にした場所は見当たらない。もう回復したのか?
クタナツを出発する際に『魔切』はかけてある。目標は目の前の大木。トレントでも何でもない、普通の木だ。実験台にして申し訳ない。
太さは直径二メイル。高さは二十メイルぐらいかな。真っ直ぐな杉のような木だ。
では早速。根元を目掛けて……
『金操』
何だこれ……
スムーズ過ぎる……
何の抵抗も無かったぞ?
木の重みに挟まれる前に抜けたと考えればいいのか?
普通は有り得ないがミスリルだしな。
やがて風が吹き、切られたことを思い出したかのように木は倒れた。
刃渡りが二メイルもないのに……
魔法がすごいのか、ミスリルがすごいのか、両方だろうな。
「すごいのね。あっさりと。これってミスリルが凄いだけじゃないわよ。カースの金操の速度と角度の正確さも関係してるわよ。」
「ああ、ありがとう。びっくりしたよ。」
せっかく倒したのだから持って帰ろう。軽く枝を刎ねてから収納。
「こんな木って売れるかな?」
「さあ? 燃料ぐらいにはなるんじゃない? もしくは真っ直ぐだし建築にも使えたりするのかしら?」
「そうかもね。よし、次行くよ。」
今度は直径四メイルの木を狙う。これは檜に近いのかな。少し堅そうだ。
先ほど学んだことだが、先に枝を刎ねておいた方がいいな。倒れた木の枝に近付くのは危ない。
『金操』
やはりスパっと切れる。しかしこの太さを一回で切り倒すのは無理だ。
ならば木樵方式、受け口を作る!
地方によってはコマとも言われているやつだ。
先ほど水平に切ったので、そこに合わせて斜めにギロチンを入れる。すると『ム』や右に傾けた『レ』の字のような受け口ができる。
後はその反対側のやや上部を切ってやれば、受け口側に倒れるって寸法だ。
本来なら追い口を作って地道に倒すのだが。
これは恐ろしい武器を手に入れてしまった。マジでギロチン、いやそれ以上だ。マギトレントのことしか考えてなかったが、すごいことになりそうだ。
一応ノコギリも実験しておこう。
先ほどと同じような直径四メイルの檜だ。
まずは水平に動かす。このサイズの木をノコギリで倒すなんて正気とは思えないが、ノコギリのサイズも正気ではない。
また本物のノコギリと違って厚みがあるため三割も切り込まないうちに木の重みがかかってきてノコギリが動きにくくなる。
仕方ない、色んな方向からノコギリでゴリゴリ行こう。
ノコギリの刃が木屑を掻き出す角度になってないので、結構大変だ。ただの四角錐だもんな。
改良が必要か、難しそうだなー。
やがて木は自重で最初に切った方向に倒れた。残念ながら切り口はかなり汚い。だいぶ割れてしまった。しかし実験は成功。
もしもギロチンが効かない木があれば地道にノコギリで倒してくれよう。
金操でノコギリの動きをするのは結構大変だったので、なるべくやりたくはないが。
それにしても大木が勢い良く倒れてくる様は迫力があるな。少し怖いぐらいだ。
さて、合計三本の木を持って帰ろう。
売れるのか?
「お待たせ。上手くいってよかったよ。帰ってタエ・アンティでも行こうよ。」
「ええ、いいものを見せてもらったわ。木ってああやって倒すものなのね。」
「達人はぴったり狙った所に倒せるらしいよ。僕は適当。アレクのいない方に倒すのが精一杯だよ。」
「カースったら……」
ちなみに木は檜タイプが良い値で売れた。
家具を作るのに需要があるらしい。一本金貨四枚。
杉タイプはお情けで銀貨一枚。アレクの読み通り燃料になるらしい。
なおギロチンのメンテナンスをしようとしてみたら刃が少しも欠けてなかった。わずかな歪みすらなかった。軽く拭いて終わり。ミスリル恐るべし。
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