第285話
朝早くに起こされた私は父上に言われるがまま馬車に乗り込みクタナツを出た。
執事服を着た怪しげな男も同乗している。
そいつが言うには父上が悪い事をしたので逃げないと捕まってしまうらしい。その上、金貨五万枚の借金があるとか。意味が分からない。下級貴族にそんな大金を貸せるはずがない。明らかに父上はハメられている。
北に逃げたら海で船が待っているので、それに乗りさえすればアジャーニ公爵家が助けてくれるとか。母上は完全に信じている。弟達は怯えるだけ。私がしっかりしないと……
「北はやめた方がいいですよ。私の同級生には騎士長の娘がいるから分かるんです。でも西と南も当然だめ。だから東に行った方がいいですよ。」
執事服の男は子供が何を言っているんだと言いたげな顔をしていたが、いくつかもっともらしい言葉を重ねるうちに気が変わってきたようだ。
私が秋の大会、学問部門で二年連続優勝したことも関係あったのだろうか。
そしてこの男、アジャーニ公爵家と言うくせにどう考えてもおかしい。きっとアレックスちゃんが言っていたヤコビニ派の意向を受けているのだろう。
進路を東に変えさせることには成功した。また北で待っている船がこのままでは危ないので何とか連絡する方法はないか尋ねたらないと言う。伝書鳩すら用意していないと言うのだろうか。ならば東に逃げてどうするのだ?
言い出したのは私だが。そして実際には本当に東に向かっているのかすら分からないのに。
そうして東に進むこと数時間。外が見えないので時間がよく分からないし気分が悪い。カース君が馬車は嫌いと言った気持ちが分かる。男は大声で父上に進路を北に向けるよう伝えた。やはり最終的な目的地は北なの? 私の意見があったから大回りして向かっているのだろうか? 本当に船が待っているとでも言うの?
カース君が助けてくれたのはそれから三十分も経ってないと思う。たまたまスティード君と話した内容に『東に逃げる』とあったことをヒントに探してくれたのではないだろうか。だからどうしても東に向かって欲しかった。北にはきっとロクな物が待ってない。私達は助かったのだ。
嘘つきで泣き虫で変人、そして誰よりも頼りになる男の子。少しだけ好きだったよ。
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