第283話
それから三十〜四十分後、私はクタナツ北門に到着した。
「お疲れ様です。今朝のムリス逐電事件の参考人を捕まえて来ました。取り調べをお願いします。ムリス一家の居場所も分かっております。私はカース・ド・マーティンと申します。」
門番の騎士さんにそう伝える。
「そ、そうなのか……マーティンさんの息子さんだね? 少し待ってもらえるかな。」
二分後ぐらいに少し上役っぽい騎士さんが出てきた。
「やあカース君。少し見ないうちに大きくなって。カース君がサンドラちゃんを探しに行ったことはスティードから聞いたよ。まさか本当に見つけるとは。全然子供の戯言じゃないね。」
よく見るとスティード君のお父さんだ。
「おじさんお久しぶりです。場所はグリードグラス草原中東部です。本人を連れて来ることもできます。」
そう言って私は地面に大まかな地図を描いてみせる。
「なるほど、そんな所まで逃げていたか。よし、こちらから一人連れて行ってもらうことはできるかい?」
「ええ、大丈夫です。」
「ではノシテール、行ってこい。ムリス以外の家族の護衛だ。」
「はぁ、行けと言われればそりゃ行きますが……」
「お前はボケっと座ってれば着く。じゃあカース君、すまないが頼むよ。無事に帰ってきてくれよ。」
「はい! 行ってきます!」
こうして私ともう一人は再び現場に戻る。あんまり目印がないから一旦はグリードグラス草原の中央部まで行って、そこから東に向かう。発見。
ん? 何か揉めてるのか?
「私達はもうお終いよ! どうしてくれるのよ! あなたが売女なんかに手を出すから!」
「何を言っている! お前こそ浪費を何とかしろ! ドレスに宝石だ? 私はついに公金にまで手をつけるハメになったんだぞ!」
「そもそもあなたがあんな女に引っかかったから! 一体いくら貢いだのよ! キィー悔しい!」
「あいつの方がお前よりよっぽど可愛いらしいんだから当然だ! 私の顔を見れば新しいドレスを買え、あの宝石が欲しい! どんな大貴族でも干上がってしまうわ!」
「結婚する時、君はどんな宝石より美しいって言ったくせに! バリバリ働くから贅沢をしておくれって言ったくせに!」
「限度があるだろう! 嫌なら付いて来るな!」
夫婦喧嘩……なのか?
こんな時に……?
「そこまでだ! サミュエル・ド・ムリス、公金横領並びに逐電の罪で連行する! 神妙に縛に就け!」
おお、ノシテールさんかっこいいぞ。さっきまで気分悪そうにしてたのが嘘のようだ。
「くっ! いつの間に騎士が! 聞いてくれ! 私は違うんだ! 私はあの女と金貸しにハメられたんだ!」
「よし、分かった。大変だったな。話を聞かせてくれるか?」
そう言ってノシテールさんはサンドラパパに近付き、あっという間に捕縛した。油断させておいて瞬殺。手錠のような物を両手にかけて、全身に縄を打った。早業だ。これが騎士か。
「さてカース君だったな。まさかこんなに早く来れるとは思わなかった。メイヨールさんが激務でボケたのかと本気で思ってたよ。それなのに悪いがこいつをクタナツまで運んでもらえないかな。私は馬車でみんなを乗せて帰るから。」
「いいですよ。じゃあアレクも乗って。ここからなら三人でも問題ないから。」
コーちゃんは軽いしね。
「分かったわ。じゃあサンドラちゃん、後でね。」
「カース君もアレックスちゃんも本当にありがとう。いつも助けてくれて……」
サンドラちゃんにしてはしおらしいな。でも助かってよかった。あのままどこを目指していたんだろう? どこに行ったとしても一家皆殺し、もしくはサンドラママとサンドラちゃんは売り飛ばしコースだったはずだ。
こうして気まずいながらもサンドラパパをクタナツに連行し、一旦は収束したかに見えるが……どうなんだ?
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