第280話

そんな奇妙な放課後を過ごした翌日。

サンドラちゃんとアレクが学校に来ない。


一時間目、二時間目、三時間目……

そして昼休み。


男子三人で弁当を食べようとしているとアレクが来た。


「大変なことになってるわ。今朝早くにサンドラちゃんの両親が逐電ちくでんしたわ。サンドラちゃんと二人の弟は半ば無理矢理連れて行かれたらしいわ。」


逐電? 貴族なのに?


「逐電って何を盗んだの?」


「公金よ。サンドラちゃんのお父さんは財務系の役人。ここ最近は草原の開拓であちこちから資金が流入しているからかなりの金額を扱っていたはずよ。それを持ち逃げされたら開拓は頓挫、いや瓦解しかねないわ。」


嘘だろ。サンドラちゃんのお父さんはあんまり会ったことはないけど優しそうで真面目なタイプに思えた。役人より神父が似合いそうなほどの。


「これって普通に考えたらヤコビニ派の差し金って気がするけど、代官府の見解は?」


「その通りよ。ヤコビニ派がムリスさんの弱みを握ったか脅迫したかと思われてるわ。」


確かにその金がなくなったら大打撃だけど、あまりにもお粗末すぎる。子供の私が聞いてヤコビニ派?と思うぐらいお粗末だ。ならば何か大きな裏があるのか……


前世、日本では犯罪者は北に逃げると言われていたが、クタナツの犯罪者は西に逃げる。

北に逃げても厳しい魔境、東も同様。

となると西か南しかない。

南は行ったとしてもフランティアを脱出するまで小さい村しかなく、必然的にホユミチカのある西に逃げるのが定番なのだ。


今回サンドラパパはどちらに向かったのだろうか……逃走経路はヤコビニ派から指示されているはずだ。そして犯罪あるあるとしては用無しになったムリス一家は口封じされる……


「アレク、騎士団はどの方向に追手を出してるか分かる?」


「正確には分からないけど西と南らしいわ。北と東は密偵を放った程度とか。」


何の根拠もないのにムリス一家は北東に逃げた気がしてならない。北西寄りのオウエスト山も怪しいが、そこは騎士団が捜査するだろう。やはり北東か……


「セルジュ君、スティード君、今の話を聞いてサンドラちゃん一家はどっち方向に行ったと思う? 僕の勝手な思い込みによるとサンドラちゃんの命が危ないんだよ!」


逃げた、ではなく行った……か。我ながら度し難い……


「サンドラちゃんのおじ様は財務系だから最近よくバランタウンへ行き来していたと思うんだ。関係あるかな?」


「少し前にサンドラちゃんと、『スティード君が騎士だったらクタナツでお金を盗んだ犯人はどっちに逃げると考える?』って話をしたんだ。その時僕は普通に西って答えたんだけど、サンドラちゃんは『じゃあ私は東に逃げようかしら』って言ってた。」


ますます分からなくなってしまった。サンドラちゃんなら逃げきれないってことぐらい分かるだろう。ヤバい金に手を出したんだから騎士はどこまでも追ってくることも。そして父親が犯罪を実行したからといって協力するとは思えない。ある程度説得してダメなら何かの機会を伺うはずだ。自分だけ逃げるのか、弟達を逃すのか、それとも父親を……


大穴としてはサンドラちゃんも率先して逃亡に協力することだが……これはない。もしこれをやっていたら追いつけないしヤコビニ派から逃げ切れるかも知れないが。

くそ! 全然分からん!


「ヤコビニ派って本拠地とかあるの?」」


「あるにはあるみたいね。アブハイン川の中域にノノヤフク湖があるの。そこから川の下流域両岸全てと言われているわ。川と海に強いのよ。あの辺りは名目上はいくつもの名門貴族の領地だけど、その盟主はヤコビニ派らしいわ。」


「それって騎士団も承知のはずだよね? だから南には追手がかかってる……」


「もちろんよ。そもそもフランティアから出さない包囲網を敷いてるはずよ。」


サンドラちゃんならパパを口先で操ってうまく誘導するかも知れない。では一体どこに?

ヤコビニ派に見つからず、パパに上手く希望を持たせて逃げさせるには……




タティーシャ村?


あそこならヤコビニ派からの迎えの船が来やすいとパパを説得できるかも……

北が怪しいと思ったがあんな所に迎えの船など寄越せるはずがない。逃げるには逃げやすいので刺客が待ってるだけと見た。

サンドラちゃんも同じ考えをするはず……そして私が何回かあの村に行った話はしている。私がそこに行けば助かる一心でパパを東に誘導しているのでは?


「アレク! 東に行くよ! 危ないけど一緒に来てくれる?」


「もちろんよ!」


「セルジュ君とスティード君は手分けして今の話を僕んちとアレクの家、騎士団に伝えてもらえる? 騎士団には所詮子供の戯言ですと一言付け加えておいて。」


「「分かった!」」


こうして私とアレクとコーちゃんはサンドラちゃん奪還に向かった。果たして間に合うのか? そもそも東に向かっているのだろうか?

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