第270話

ぞろぞろと移動する。さすがに貴族だけあってあの場で剣を抜くことはなかった。少し見直した。


「構えろ!」


あまり意味はないが虎徹を構える。

奴も剣を抜いて中段に構えている。

私の虎徹を見てニヤリとしやがった。かなり弱そうだけど油断はしないぞ。


「この銀貨が落ちたら開始だ!」


奴が銀貨を上に弾く。作法通りで好感が持てる。


銀貨が地面を叩き、高い音を鳴らす。


「死ねガキ!」


せっかく中段に構えていた剣を大きく上に振り上げている。そりゃ駄目だよ。

やはり金操で振り上げた剣を後ろに動かして仰け反らせる。そしてがら空きの胴体、鳩尾に突き。剣を振り上げた姿勢のまま前に倒れてくる。頭が近寄ってきたので、そこにも一撃。終わりだ。一応距離を開けて待つ。


「さて、終わりだが、お前らもやるか?」


「この卑怯者が!」

「無効だ! こんな結果はありえん!」

「そうだ! 貴族の誇りを何だと思ってる!」


「やるのか? やらないのか? 怖いんなら逃げていいって言ったよな?」


「ふん、大言を吐きおって! 平民にしては腕自慢のようだが我ら三人を相手にしても勝てると言うのか?」


大言なんて言ってない。


「賭け金次第だな。一人金貨百枚、今度は俺が自分に百枚賭ける。俺が勝ったらお前らは一人百枚ずつ寄越せ。お前らが勝ったら百枚くれてやる。それならやってやるぞ?」


「ナメやがって! 先程倒したフヒソなど我らの中では一番の小物、お前ごときに負けるなど恥さらしよ!」

「おお、やってやる!」

「貴族の誇りを教えてやるぞ!」


どこかで聞いたセリフだ……


「待ちなさいよ! 私もよ。さっき勝った金貨百枚をそのまま賭けるわ! 」


倍プッシュか、やるね。私が負けたらどうするんだ?


「好きにしろ。せっかく儲けた泡銭をこんなにも早く溶かすとはな。そんなことだから勘当されるのだ!」


「では約束だ。こちらは一人金貨百枚ずつ、お前達は一人金貨二百枚ずつ賭ける。いいな?」


「いいだろう。くっ」

「分かった。ぐぉ」

「やってやるぞごっ」


「いいわよ、あんっ」


「それが契約魔法だ。もう逃げられない、尋常に勝負といこうか。」


おっ、こいつら三方から私を囲みやがった。頭も使えるのか。


「今度は私が銀貨を投げるわよ。構え!」


ベレンガリアさんが投げてくれるのか。

銀貨が地面に落ち、きれいな音がする。


「死ね!」

「くたばれ!」

「ガキぁ!」


全員突いてきやがった。これは楽でいい。


次の瞬間、貴族一は貴族二を、貴族二は貴族三を、貴族三は貴族一を突き刺していた。


「な、なぜ……」

「ぐはっ……」

「ばかな……」


こいつらは私を中心に時計の十二時、四時、八時の位置にいた。そこで同じタイミングで突いてきたものだから少し角度をズラすだけであら不思議。正三角形のように互いを刺した間抜けの出来上がりだ。


全員がバラバラの動きをしていたら金操で操るのも大変だったことだろう。


「さて、このまま死ぬか? まあ俺は治癒魔法なんか使えないから放っておいても死ぬけど。」


「た、助けてくれ!」

「だ、頼む!」

「じに、死にたくない!」


「正直でよろしい。じゃあ俺の命令は絶対服従な、約束だぜ?」


「わかったっや」

「それでいいっごは」

「分かっとはぁ」


「ベレンガリアさんは治癒魔法使える?」


「だめなの。軽い回復魔法だけなのよ。」


それは残念。なら仕方ない。

私は魔力庫から高級ポーションを三本ほど出す。一本金貨五枚!


「好きに使え。」


それを奴らに放り投げる。

傷も治れば体力も回復する。骨折も治せないことはない。


奴らはそれを傷口に半分かけて、残りを飲み干した。


「さて、よくもやってくれたな!」

「怪我さえ治ればこっちのもんだ!」

「覚悟しやがれ!」


まだやるのか? 舌の根の乾かぬうちにってこの事だよな。何て恥ずかしい奴らなんだ。


「座れ。」


一斉に座り込む。さっき約束したことをもう忘れたのか?


「そうじゃない。正座だ、こう座れ。」


正座の見本を見せる。ちなみにこの座り方は奴隷座りと言われている。正座なんて誰も言わない。


「ぐっ」

「ぬぅ」

「くそ」


「お前らさー、頭悪すぎだろ。ついさっき絶対服従の契約魔法をかけたばっかりだろ。でなけりゃあんな高いポーション使わせるかよ。さて、金の話をしよう。寝てるあいつは金貨百一枚、お前らは二百枚。出せ。」


三人が財布と魔力庫から金を出す。

さすが貴族、持ってるねぇ。しかし足りない。

貴族一は金貨百三十枚、貴族二は百六十枚、貴族三は九十枚。


「足りない分は借金にするか、装備を売っ払うか……面倒だ。お前ら足りない分の装備やら持ち物を売ってこい。急いで行って帰ってこいよ!」


奴らは痺れた足で走り出した。

かなり儲かってしまった。


何度か首輪を外そうかとも思ったが、何とか外さずに勝つことができた。私も成長しているのだろう。夏休みも頑張らねば。

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