第268話

せっかくだからギルドで先輩方に挨拶をしておこうと思ったが、知ってる先輩がいない。

私が登録をして一年と経っていないが、だいぶ人数が増えたようなのだ。


たまには訓練場で一人素振りをするのもいいかも。夏休みに入ったらスティード君とお泊り稽古もするだろうから。

家で勉強が捗らない時に喫茶店で勉強する方式だ。

あわよくば通りかかった先輩に指導してもらおうという魂胆はあるのだが。


水壁でウォーターバッグを作り、素振りと言うか巻藁と言うか、そんな稽古だ。


スティード君との稽古を思い出しながら型通りの動きで虎徹を振る。手前味噌だがこの歳にしてはいい感じなのでは?


時々思い出したかのように蹴ったり頭突きしたり噛み付いたり。柄頭を叩き込んだり膝蹴りしたりタックルしたり。


側から見るとストレス解消か何かで暴れてるだけにしか見えないかも。実はそうだ。ストレス解消ではないが、暴れている。コボルトのアンデッドに下敷きにされ跳ね除けることができなかったので、次からはどうにか無理矢理暴れてやろうと考えているのだ。


さすがにゾンビ相手に噛み付きたくはないが。


「面白いことをやっておるな。それは組合長にでも習ったのかえ?」


「あっ、お疲れ様です! オークはどうでした? 発見できました? この動きは適当に暴れているだけですよ。」


五等星、ごっついお姉さんことゴモリエールさんだ。


「ほう、変わった動きに見えたものよ。聞いておったか。いたわえ、中々に手強いのがのう。あれならわらわの相手に相応しいというものよ。」


そうなのか。オークなんて弱そうなイメージだが。強いオークもいるんだろうな。


「熱い戦いであった。奴らは精力の限りを尽くして妾に打ち込んできおった。まさに獣よ。妾はそれを全て受け止めた。時には二匹、三匹と同時に相手をすることもあったが、それもまた良いものよ。カース、強く大きくなれ。さすれば相手をしてやるからの。」


「ありがとうございます!」


しかし接近戦では勝ち目がないぞ?


「それよりカースよ、それを使わせてもらえるか? 面白そうよの。」


「もちろんです。どうぞどうぞ。」


私はウォーターバッグが飛んでいかないように足元に魔力を込めてさらに固定しておく。


ゴモリエールさんが殴っている。ジャブのように速い。バッグが大きく揺れる。私だとプルプルとしか動かないのに。

次の瞬間、ゴモリエールさんの手がバッグを突き抜けていた。凄すぎる。


てことは何か?

もしゴモリエールさんに殴られるとしたら相当厚く魔力を込めないと防げないってことか?


次に回し蹴り、バッグが両断された。何という恐ろしい蹴り……


最後に手の平を当てている。何だろう?

次の瞬間、ウォーターバッグが爆発した。

これはアレだ! 発勁だ!

すごい! 初めて見た!


「最後のアレ、どうやったんですか!?」


「魔力をの、高圧で大量に流したまでよ。大抵の魔物には効かんがの。スライムなどには効果抜群だわえ。」


魔力なのか。母上は魔力は魔法という形を与えなければ何にもならないと言った。つまりこれは母上も知らない新しい発見……? ゴモリエールさんは自分でこれを見つけたのか……すごい!


「ゴモリ、ここにいたのかい。カースと二人っきりだなんて妬けるねぇ。」


エロイーズさんだ。いつ見てもきれいだなぁ。


「おおすまぬな。刻限を過ぎておったか。すぐ行こう。ではカース、精進を怠るでないぞ。またの。」


「はいっ! 今日はありがとうございました! またご指導お願いいたします! エロイーズさんも……」


エロイーズさんは艶めかしい視線を私に向けてから行ってしまった……あの人は声もいいんだよな。『極楽に行かせてやろうかい?』なんて言われたい。

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