第243話

私は再び循環阻止の首輪を付けて修練に励んでいる。現在は一週間外さない制約を付けている。そうやって週に一日だけ外しては効果を確かめている。

もっとも一週間程度で実感するほどの効果が出るはずもない。それでも地道な修練は大事だと思う。


さて、今日は六月最後のデメテの日。アレクと領都に行くのだ。泊まるかどうかは決めてない、領都次第だろうか。

アレクママからは泊まってきなさいと言われたが……

アレクサンドル家の馬車で南の城門を出て少し西に走る。人気が無くなった辺りで銀ボードに乗り換える。

今日は全力で飛ばしてみよう。


「とんでもなく速いのね! 目が追いつかないわ!」


飛んでいるのにとんでもない。どこかで聞いた言葉だ。


「全力で飛ばしてるんだよね。アレクが乗ってるから張り切ってるの。後は魔物と会わないようにね。」


「カースったら…….//」


少しだけイチャイチャしながら私達は危なげなく進んでいる。


そしてノード川を越えて、領都と北の山の間ぐらいに着陸する。前回と同じ地点だ。


「アレクはこの辺って見覚えある?」


「何となくあるわね。領都の北側だったかしら。」


「正解。よく覚えてるね! では歩こうか。城壁は見えてるし、二十分も歩けば着くかな。」


私は歩きながら領都のことをアレクに教わった。


・現在の辺境伯はドナシファン・ド・フランティア 年齢は五十代 十数年前に跡を継いだ

・クタナツのように貴族の力はあまり使えないが、使えなくもない

・人口はおよそ三万人 グリードグラス草原の開拓に伴い増えつつある

・治安はいいがクタナツほどではない


そんな話をしているうちに城門に着いた。

でかい! 城壁も高い! 見上げる首が疲れてしまう。


「はい次。」


見た目は騎士なのに事務的な話し方だ。

私とアレクはギルドカードを見せる。


「子供二人だけ? 親は?」


「今日はいません。二人だけです。」


「そうか。大変だと思うが頑張りなさい。」


意外と優しいのだろうか。何か勘違いしてそうだったが。貴族だと分かっているだろうに。


初めて足を踏み入れた領都。噂には聞いていたが広い! 面積はクタナツの十倍以上あるらしい。このクラスの街はローランド王国広しと言えど王都以外に二、三しかないらしい。


「まずは色々歩いてみようか。適当に案内してくれる?」


「いいわよ。お姉さんの所はどうするの?」


「あー、昼前に行こうか。そしてお昼を奢ってもらおう。」


「うふふ、それはいいわね。」


こうして私達は当てもなく散歩をしている。普段からクタナツ城壁の外を歩き回っているので、何の苦労もない。楽しい散歩デートだ。


途中で服屋を見つけたので入ってみる。クタナツには存在しない既製服の店だ。肌着に下着、意外と肌触りは悪くない。安いので買ってみた。


ちなみにローランド王国ではなぜか女性用下着は充実している。もちろん高級品だし現代日本に勝るとも劣らない品揃えである。素材も豊富でデザインも千差万別。王国の女性はかなりの拘りがあるらしい。

当然高級な専門店でしか売ってない。


アレクにもブラジャーが必要だと思ってはいるが、そもそも着けているのかどうか私には分からない。いつぞやの着衣水泳の際は着けていないようだった。


次も服屋だ。

ここでは流行り物を扱っているらしい。

ウエストコートも置いてあった。


店内を見て回ると意外なことにミニスカートを発見した。

ローランド王国では女性の服装はほぼスカートだ。それも丈の長い物で膝が出ることすら有り得ない。膝や肩を出すことははしたないとされている。それなのにこのミニスカートは一体?


目を奪われた私に店員が寄って来た。

「お客様、お目が高うございますね。こちらは『ミニスカート』と言いまして王都の女性冒険者の間で大変人気となっております。

そもそもの発端は前々回の王国一武闘会です。優勝者の一人、ベルベッタ・ド・アイシャブレ様が着用されていたのです。アイシャブレ様は魔法使いとしては異例とも言える槍術を駆使して戦われます。槍術だけでもかの剣鬼様に手傷を負わせるほどの腕前だとか。そんなアイシャブレ様ですが、準決勝で苦戦をされましてご自慢のワイバーンスカートもボロボロになってしまいました。そこで気付かれたのです! こんな長いスカートを穿いているから動きにくいんだと! そして彼女は闘技場で自らのスカートを切り裂いたのです! それからです! 彼女の猛攻が始まりあっという間に決勝へと駒を進めたのです。

しかし皆が驚いたのは決勝戦です! 彼女は準決勝で自ら切り裂いたスカートをさらに短くし、尚且つ上品に縫い直していたのです! 準決勝と決勝の僅かの間に! 本来なら休息や武器の手入れに時間を使うところを! そして圧倒的な強さで瞬く間に優勝を決めたのです!

表彰式にて陛下からのスカートの名をご下問された際に「ミニスカートです。」と答えたことから名が広まりました。

その後、準決勝での決断の早さ、勝利を求める貪欲さ。決勝での圧倒的な強さ、それでいて女性らしさを忘れない配慮、縫い物の腕、美的センス! それが相まってこのミニスカートは強く美しい女性の象徴となりました。」


長かった……

セールストークにしては力が入りすぎなので、純粋にファンなんだろう。


もちろん欲しくなったが、このまま買ってもアレクにはミニスカートにならない。クタナツに帰ってから注文だな。


「ところで、アレクはこの話を知ってるんだよね? 流行に敏感なアレクがミニスカートを穿いてないのは何か理由でもあるの?」


「ば、馬鹿! バカース! こんなに脚を出したスカートなんて穿けるわけないじゃない!」


あ、そりゃそうか。流行ってるのも女性冒険者の間って話だし。残念。


「残念。アレクになら似合うと思ったのに。そろそろお昼だし、移動しようか。」


「に、似合う……カースがそう言うなら私……穿いてみても……」


何か言ってる。では喜んで穿いてもらおう。


「じゃあクタナツに帰ったら採寸して作ろうよ。エビルパイソンロードの皮が余ってるし。」


「う、うん……」


「じゃあ行こうか。魔法学校の寮は知ってる?」


「ええ、行きましょう。」


服を作る楽しみは自分にだけではないと言うことだな。

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