第232話

放課後、私は一人でギルドに来ている。ずいぶん久しぶりだ。


おっと、アステロイドさんだ。


「お勤めご苦労様です! この間はお裾分けありがとうございました!」


「おうオメーか。ありゃ魔女様がほとんど倒したんだから当然だ。俺らは解体しただけだからよ。それでも稼がせて貰ったからな。あのぐらい届けておかんと仁義に反するってもんよ。」


先日の蟻を全滅させた件でアステロイドさんは母上に金貨五十枚を届けてくれたのだ。母上ってクタナツの危機の度にこうして活躍してるだろうから我が家ってもしかしてお金持ちなのでは?

その割りにキアラの服はほぼ全て姉上のお下がりらしい。よく分からん。


「それでもわざわざありがとうございました。母もアステロイドさんのように『腕も立つし仁義も弁えてる。彼のような一流の人間になりなさい』って言ってました。」


「へへ、そうか? 魔女様が俺のことを……」


魔女様か。信者になってしまったのかな。

さすが母上。


さて依頼依頼。



受付にて。


「六等星のスパラッシュさんにガイドの依頼をしたいのですが、どれぐらいかかるものでしょうか。」


「護衛ではなくガイドなら一日あたり銀貨二枚です。もちろん実費は負担していただきます。しかし護衛は含まれませんし、彼が倒した獲物は全て彼の物となります。よろしいですか?」


安い! こんなに安くていいのか?

まあ魔石が手に入ったらボーナスを弾めばいいか。


「いいですよ。次にスパラッシュさんがここに来るのはいつ頃ですか?」


「今週末ぐらいですね。日数や開始日についてはそちらでご相談されてください。」


やはりスパラッシュさんは忙しいんだな。



「カースじゃないか。平日に居るなんて珍しいねぇ。最近どうしてたのさぁ?」


きれいなお姉さんことエロイーズさんだ。十代後半のイケメンを連れている。彼が今日のお相手か! くっ、羨ましくなんか……


「お疲れ様です。少々依頼を出しに来ました。ここ一ヶ月ほどは忙しかったもので。」


「そうかい。で、アンタも来るかい? この子一人だと可哀想だからねぇ。」


ん? どういうことだ? 彼は今からエロイーズさんに可愛がってもらうんじゃないのか?


「あ、あの付かぬ事をお伺いしますが一体どんなプレイをされるんで?」


「くくくっ、その年でプレイと来たかい。知りたいんだったら宿まで来ればいいさぁ。じっくり教えてあげるわよ?」


くっ、凄く行きたい! しかしこれは罠だ!

行ったが最後、引き返せなくなる!

そしてエロイーズハーレムの一員として末永く囲われてしまうんだ……


いいかも知れない……


「そ、それより今日はゴモリエールさんは? お姿が見えないようですが。」


「おや、私よりゴモリの心配かい? 妬けるねぇ。あいつなら最近の若い子は精力と筋肉が足りないって言ってオークの巣を探しに行っちまったさ。」


「オークの巣ですか? そんなの探して何するんですか?」


「さあねぇナニするんだろうねぇ。まあいいさ、カースが来ないのなら今夜はこいつに一人で頑張ってもらおうかねぇ。」


そう言ってエロイーズさんはギルドを去っていった。一体どんなプレイを……

しまった! 宿だけでも聞いておけば後で覗きに行けたのに! 私の隠形なら気付かれることはあるまい。


依頼も終わったことだし帰るか。

マリーとお風呂に入りたいなー。


「おいそこのガキ!」


まさか私のことか?

違うよね。無視だな。


「待てって言ってんだろ!」


いや、それは言ってない。

後ろから私の肩を掴もうとしているが、自動防御があるので触れまい。首輪をした状態で自動防御を張るのは結構大変なのだがね。


奴等は私の前に回り込んできた。

無視されたので仕方なく前に回り込む動きってかなり下っ端っぽいよな。


「てめー何よ?」


いきなり何と言われても返事に困ってしまうな。一応首輪を収納しておこう。


「ギルドに洒落た格好で来やがってよぉ」


アステロイドさんもいないか。誰か助けてくれないかなー。


「何キョロキョロしてんだよ? 誰もてめーなんか助けやしねーよ!」

「おら! ビビってねーで何とか言えや!」


本当にビビってたら何も言えなくて当然じゃないか。そもそも何で今頃絡んでくるんだ?

さっきアステロイドさんがいた時に絡んで来いよ。エロイーズさんだっていたのに。


いや、逆か。

あの人達がいたから絡んで来れなかったのか。小物め。こんな可愛らしい九歳児に絡んで恥ずかしくないのか。


「誰だオメーら?」


「ナメた口きいてんじゃねーぞガキぃ!」

「おら! 俺らを知らねーのかよ!」


知るわけないだろ。


「挨拶ぐらいしろよ。頭わりーな。」


「ガキだからって調子に乗りやがって!」

「おら! 泣かすぞコラ?」


話が進まない……


「あーもういい、何の用だ?」


「てめーが調子に乗ってっからシメに来たんだよ!」

「おら! 訓練場に来いや!」


「なんだ? 模擬戦がしてーのか? いくら賭ける?」


何だかこのパターンえらく多いな。


「てめーの有り金全部に決まってんだろ!」

「おら! シャキシャキ歩けや!」


「バカかオメーら? 俺が有り金賭けたらオメーら何賭けるんだ? 身売りしても足りねーぞ?」


カード残高は金貨四十枚ぐらい。

手持ちは金貨十五枚ぐらいだ。


「チッ貴族野郎が! 道楽で冒険者かよ! いい身分だなぁ!」

「おら! テメーも有り金見せろや!」


奴等はそう言って懐から金を見せる。

それぞれ金貨五枚か。こんな若造にしては持ってる方だな。泡銭と見た。


「足りねーな。どっちが相手すんのか知らんが出直して来い。」


そう言って私は金貨十五枚を見せる。


「俺は金貸しカース、足りない分は借金でもいいなら受けてやるが?」


「ガキが! 調子に乗ってやがる! クタナツで貴族風吹かしてんじゃねぇぞ!」

「おら! さっさと来いや!」


「では約束だ。金貨十五枚を賭けた模擬戦を二回行う。逃げても負けだ。オメーらが負けたら各々俺から金貨十五枚の借金だ。いいな?」


「口だけは達者な貴族のガキが! やってやらぁがっ!」

「おら! やるから早く抜っけぐぉっ!」


すっかりパターンと化してしまった。

となるとこの後のセリフも……


「何しやがったガキぃ!」

「おら!模擬戦のルールも守れねーのかよ!」


「知らねーのか? 契約魔法をかけただけだ。俺は金貸しだと言ったはずだ。口約束なんかしないぜ。ほら、どっちからやるんだ?」


ようやくここまで来た。長かった。



げ、こいつら二人同時に来やがった……

マジで恥ずかしくないのか?


まあやることは同じなのだが。


一人の剣でもう一人の足の甲を突き刺す。味方に刺されて驚いたそいつの剣でやはり刺した奴の足の甲を刺させてやった。

片足ずつ地面に縫い付けられた男二人が絡み合う気持ち悪い光景が見える。


それから水壁で首から下を覆って終了。


「まだやるか?」


「クソガキが! 油断なんかしてなけりゃてめーなんか!」

「おら! さっさと出せや!」


うわー。頭が悪過ぎる……


「じゃあ負けは認めないんだな?」


そう言って私は水温を上げる。


「負けを認めたくなったら言え。」




奴等はそれから五分ぐらいぎゃあぎゃあ喚き続けた。模擬戦だから殺されないと思ったのだろうか?


「てめーぜってー殺すからよぉー俺らにこんな真似してタダで済むと思ってんのかよぉ!」

「おら! 俺らは剣鬼さん知ってんだぞ! あの人が来ればてめーなんてぶった斬りだぞ!」


面白くなってきたから会話に乗ってみよう。


「えっ!? マジで!? 剣鬼ダッサルさん知ってんの? 無限流の?」


「ふふん、今なら許してやるからよぉ。さっさと出せや?」

「おら! あの剣鬼さんだぜ? おめー殺されんぞ?」


こんな奴等が先生と知り合いなはずないよな。


「なあなあ、俺さ、剣鬼さんに憧れてるんだよ! 紹介してよ! 剣鬼さんってどんな人? 無限流ってどんな剣法?」


「紹介して欲しかったらさっさと出しな。そんで金払えや!」

「おら! さっさとしろや!」


ちなみに現在水温は五十度を超えている。まだまだ上がるぞ。

それなのに意外と元気なんだよな。足だって痛いだろうに。


ん? 誰か来たかな。

あ、ゴレライアスさんだ。ここで会うとは珍しい。


「お疲れ様です! もしかしてうるさかったですか?」


「いや、剣鬼って聞こえたからよぉ。気になって来てみただけだ。面白そうなことしてるじゃねぇか。」


「いやーこいつらがですね。あっさり負けたくせに負けを認めないんですよ。だから大人しく待ってるって訳です。あっ、これお裾分けです。食べてやってください。」


シーオークとトビクラーの肉を渡す。


「いつもすまんな。軟骨は美味かったぞ。で、剣鬼がどう関係してくるんだ?」


「こいつらのバックには剣鬼ダッサルさんがいるみたいなんです。面白いから話を合わせてたんですが、そろそろ面倒になったところにゴレライアスさんがいらしたと。」


「剣鬼ダッサル? 誰だそりゃ?」


そりゃ知らないよな。


「おいおーい剣鬼さんを知らねーのかよ。これだからクタナツの田舎もんはよー」

「おら! さっさと出さねーとそこのでけーのも剣鬼さんがやっちまうぞ?」


こいつら本当に元気だな。

しかもゴレライアスさんに喧嘩売りやがった……熱さで朦朧としてるわけではなさそうだが……


「ゴ、ゴレライアスさん! できればこいつらの命だけは……金貨十五枚ずつ賭けてるんで死なれると……」


「バカ、このぐらいで殺すわけねーだろ。それにしても金貨十五枚かよぉ。豪快に賭けてんじゃねぇか。」


もうすぐ水温は六十度。頑張るなー。


「そろそろ面倒になってきたから降参するかしないかすぐ決めろ。しないなら顔まで覆って温度も上げる。」


「やれるもんならやってみろ! 剣鬼さんがおめーを殺すからな!」

「おら! やってみろ!」


じゃあお言葉に甘えて。

頭まで水壁、温度は百度。

おー暴れてる暴れてる。

私の水壁はその程度じゃ壊れないけどね。

二十秒経過。

少し顔を出してやろう。


「どうする? このまま死ぬか?」


「待て! やめろ!」

「おら! やめろや!」


元気だな。


ではもう一分頑張ってもらおう。



ゴレライアスさんと談笑してたら一分経過。


「そろそろ帰るぞ。朝までそうしてな。」


「待て! 分かった! 負けだ!」

「おら! 負けを認めたんだ! さっさと出せや!」


「じゃあオメーら二人とも俺から金貨十五枚借金な。利息はトイチの複利だからよ。十日に一度少額でもいいから入金しろ。それがない場合十日ごとにお前らの関節が一つずつ曲がらなくなる。約束だ。いいな?」


「分かったがら! ぐぉっ」

「おら! 分かっだ!っがっ」


やっと終わった。本当に何なんだこいつら。手間をかけさせやがる。


「すいませんゴレライアスさん。お時間取らせてしまいました。」


「まあ面白かったからいいさ。剣鬼がどうするのか楽しみだな。ダッサルとか言ったか?」


「ええ、知ってる人ですから問題ないです。ご心配ありがとうございます。」


さて、帰ろう。

結局あいつら何がしたかったんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る