第204話
アジャーニ君の発言は少し意外だった。
思えば私達と一緒に昼食を食べる者は誰もいなかった。誘いもしなかったが、誘われもしなかったからな。
「アジャーニ君、呼び捨てにしないで欲しいわ。不愉快よ。」
「これは失礼。懐かしさの余りついつい愛称で呼んでしまった。君も立派な淑女なんだからそうもいかないか。
では改めて、アレクサンドリーネ。一緒にお昼をいかがかな?」
こいつ、分かってないな。それとも分かってて無視してんのか? まあ気にせず食べよう。私はペコペコなんだ。
「あっ、カースずるい! 自分だけ食べるなんて。」
そう言うなりアレクも無視して食べ始めた。そりゃそうだ。呼び捨てするなって言ってんのに無視したんだから、こっちも無視だな。
「アレクサンドリーネ。それはないだろう。それとも辺境で暮らしているうちに礼儀も無くしてしまったのかい?」
「礼儀を無くしたのは貴方でしょう。私は呼び捨てにしないでと言ったわよ? 私を呼び捨てにしていい男はこのカースだけよ!」
げっ、何てことを。面倒な展開になってしまうじゃないか。
「ふふん、そんな男が君を呼び捨てにしてるのか。許せないな。」
そんな男って言われてしまった。別にいいけどね。今日のスティード君のお弁当は美味しいな。
「スティード君、この肉はえらく美味しいけど何?」
「あぁそれはオークだよ。詳しくは聞いてないけど特殊なやつらしいよ。」
「あら? これってアルビノオークの雌じゃない? クイーンオークほどではないけど珍しいわよ。」
「さすがアレク。詳しいね。」
「お前達! カリツォーニ様を無視するな! ただではおかんぞ!」
護衛一号君が怒ってる。
一言、「アレックスちゃん、一緒にご飯食べよう。」って言えばいいだけなのに。
「そこのお前、今『アレク』と呼んだな? 下級貴族か平民か知らんが調子に乗らない方がいいぞ。」
「だからアジャーニ君、呼び捨てにしないでって何回言わせる気? 私をアレクと呼んでいい存在はカースだけ。貴方じゃないの。」
「くっ、ここまで言われて反論もしない男のどこにそんな価値がある。君に守られているだけじゃないか。」
何やら話が大きくなってきてないか?
アレクサンドル家の威光に守ってもらえるなら最高だな。
「お話し中に失礼します。私、イボンヌ・ド・クールセルと申します。かねてよりアジャーニ様の才気煥発なお噂を聞き、ご指導ご鞭撻賜りたいと思っておりました。ここで出会えたのは望外の喜び。お時間を頂けないものでしょうか。」
乱入者イボンヌちゃん。黒髪ストレートの清楚風美少女。頼んだ! こいつを連れて行ってくれ!
うわっ、こいつもう目の色が変わってやがる。どいつもこいつも、私達はまだ九歳だぞ? 子供らしくできんのか。
「ほほう。このような辺境まで私のことが伝わっていたか。いいだろう。話を聞かせてやろう。」
イボンヌちゃんお見事。完全に自分の都合だろうけどありがとう。そして哀れエルネスト君……
護衛一号君は私を睨みながらアジャーニ君についていった。二号君はイボンヌちゃんを睨んでいる。
「アレク、眠くなったから膝枕してよ。」
私は教室の隅に銀ボードを出しローブを敷いた。昨日のアレで食後の昼寝の気持ち良さに目覚めてしまった。昼寝なのに目覚めたって何だかな。
「仕方ないわね。泣き虫の上に甘えん坊なんだから。」
嬉しそうな顔してえらくディスってくるじゃないか。そんなとこも可愛いけど。
「僕も寝ようかな。」
「私も。セルジュ君、お腹貸して。」
「いいよ。春の昼寝は最高だよね。」
こうして傍若無人な私達は教室のざわつきなど気にせず四時間目が始まっても眠りこけていたため、社会の授業を後ろで立ったまま受ける羽目になってしまった。
バルテレモンちゃんがニヤニヤとこちらを見ていた。アジャーニ君は憎々しげな顔で私を見ていた。
やはり昼寝は素晴らしい。みんなの雑魚寝用に布団か何か用意しておこうかな。
今回は教室で寝たから先生に起こされたけど、校庭で寝てたら五時間目までずっと寝てただろうな。鉄ハウスは使うべきではないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます