第175話

グリーディアント……

その一言でギルドは騒然となる。


「組合長を呼べ!」

「代官府には連絡したのか!?」

「俺らは出撃できるぜ!」

「どこまで来てんだ!?」




くそ、マジかよ……


「アレク、よく聞いて。今すぐ帰ってこのことをお義母さんに伝えるんだ。そして指示に従うんだ。分かったね?」


「分かったわ。カースの邪魔になんてならないんだから!」


本当によく分かってる。惚れ直しそうだ。

ゴレライアスさんはさっき出てしまったから、この場での最高位は……


「アステロイドさん! 」


「ん? どうした坊主? 早く帰れよ。」


五等星、アステロイドさんだ。


「はい! 帰ります! 帰って母上を、魔女を呼んできます! 母上の『燎原の火』なら蟻なんて丸焼きです!」


「そうか、坊主はマーティンか。よし、頼んだぜ! 聞いたかオメーら! 魔女のご加護だ!それまで守れば勝ちだ!」


一気にギルドが盛り上がる。

急いで母上に伝えなければ!

あのクソ蟻が! 何で今頃!





「母上! グリーディアントが来てるって!」


「分かったわ。行くわよ。カースも来るのね? 」


「もちろんだよ! 僕も『燎原の火』は使えるんだから!」


「マリー! 後は任せたわよ。」


「承知いたしました。ご武運を。」


母上は五分もしないうちに準備を整えた。

いつものドレスのような服の上からローブを羽織っている。かっこいい……

まさに歴戦の魔法使いだ。


母上を鉄ボードに乗せて北の城門へと飛ぶ。

こんなことなら早めに改良しておくんだった……


門番の騎士も事情は心得ているのだろう。あっさり通してくれた。

城壁の上では騎士達が何やら作業をしている。


城門から飛び立ってわずか五分、もう見えた。グリーディアントの大群だ。

くそっ! 何て数だ。数え切れない。足が震える。もしこいつらがオディ兄の腕を狙ってるんだとしたら、一匹も生かしてはおけない。


「やるわよカース!」


「押忍!」


大群の中心部に近付き詠唱を始める。

母上が北半分、私が南半分を担当する。

これだけの大群だ、生き残りの人がいるかどうかなんて気にしても意味がない。


『燎原の火』

『燎原の火』


二人同時に呪文を発動する。

私の方が威力、範囲ともに母上を上回っている。嬉しいが何か悲しい、妙な気分だ。


「やったか!?」


蟻の外骨格は頑丈だ。なまくらな剣では傷もつかない。だから魔法だ、蒸し焼きになりやがれ!

高度を上げ様子を見る。

隠形を使ってないので上空も警戒する。


見たところ、南側の蟻は全滅のようだ。胴体は無事だが手足は燃え尽きており、ピクリとも動かない。

一方、北側で絶命したのはおよそ半分。

範囲外の蟻は生き残っているようだ。

ならば……


「母上! あの生き残りが集まるのを待ってまた燎原の火を使おう!」


「ええ、そうね。威力、範囲とも私を遥かに超えるなんて、カースは本当に偉いわ。自慢の息子よ。」


「それだけど、今回のこれ母上がやったことにしてもらえない? 母上ならこれぐらい出来て当然って評価だけど、僕がやったのが知られると面倒な気がするんだよね。」


「もちろんいいわよ。そんな風に考えることもできるなんて本当に偉いわ。よしよし。」


そう言って母上は私の頭を撫でてくれた。

なんだかメチャクチャ嬉しい。


そんなことをしている間に蟻どもは私達の近くに集まってきた。

これぐらいの数なら私一人で大丈夫だ。


「僕がやるよ。」


『燎原の火』


これで全滅だろう。奴等の巣はどこにあるんだろうか。巣ごと焼き払ってやりたいが。


「やっぱり大物が来るかな?」


「そうね、私達二人もいるものね。来るかも知れないわ。どうしたい?」


「蟻のこともあるしこのまま待ちたい。この間のコカトリスは怖かったけど、今日は母上がいるしね。」


「そうね。いい判断だと思うわ。」


そして私達は地上に降りてしばし休憩。魔力探査は母上に任せておこう。

もう日も暮れたので虫だけは警戒しておく。それにしてもバランタウンはどうなったのだろう。




待つこと二十分と少し。南から冒険者の集団がやってきた。


あれは……


「おーいアステロイドさーん!」


やはりアステロイドさんが中心となっているようだ。


「おお坊主、無事だっ……もう全滅させたのか……とんでもないな……」


「うちの母上は凄いんですよ!」


すかさずアステロイドさんは膝をついた。


「お初にお目にかかる。五等星アステロイド・アスタロートと申す。高名な魔女殿に拝謁できるとは恐悦至極。」


母上は黙って右手の甲をアステロイドさんに差し出した。

するとアステロイドさんはそれを手に取り口付けた。騎士とお姫様がやるアレだ。


「よく来てくれましたアステロイド。大きな魔法を連発したので大物が来るかも知れません。後は任せていいですね?」


「お任せを。此度はご助力かたじけない。」


大物は惜しいが帰るとしよう。

こうして私達は鉄ボードに乗ってクタナツへと帰ったのだった。




冒険者の面々は……


「何万匹いたんだよ……」

「あれから一時間も経ってねぇぞ?」

「魔女ってあんなに美人だったのか……」

「アステロイドの奴うまくやりやがって!」


「うるせー! 喋ってないでやるぞ! これだけの蟻だ! 魔石も素材も取り放題だ! しっかり稼げよ!」


「おう!」


結局大物は来なかったらしい。




帰り道にて。


「さっきの母上すごかったね! カッコよかったよ!」


「うふふ、そう? 初対面は大事なのよ。ビシッと決めないとね。」


「あっ! オディ兄って今バランタウンにいるんじゃないの!? ヤバくない?」


「危険ね。カース……行くの?」


「行く、母上を下ろしてからね。」


「じゃあウリエンを連れて行きなさい。呼んで来るから城門で待ってなさい。」


なるほど。近寄る敵は兄上が斬る、遠い敵は私が魔法で倒す。素晴らしいコンビネーションだ。

オディ兄が無事だといいが……

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