第158話

アランは久々の帰宅でイザベルに愚痴っていた。


「参ったわ。タチの悪い盗賊がいてな。どうも情報が筒抜けみたいなんだよな。」


「大変そうね。この近辺で盗賊なんてそうそう出ないものね。魔物ばかり警戒していた心の隙を狙われたのかしら。」


「ああ、そうだろう。盗賊にも頭がいい奴がいるものだな。」


「頭がいい……昔どこかの貴族領を荒らし回った盗賊でそんなのがいなかったかしら?」


「……いたな。あれはビーンシュトック伯爵領だったか。あの時はついに捕まらなかったんだったな。当時は盗賊ごときを捕まえられない騎士団はどんだけ無能かと思ったものだが、他人事じゃないな。」


「案外その盗賊がここぞとばかりにクタナツを狙ってるのかもね。そうなると厄介ね。それだけ頭がいいんだったら騎士団が本腰入れる前に逃げてしまうんじゃない? もうそこそこ稼いだ頃じゃない?」


「ありえるな。被害額は分かってるだけで金貨五千枚分ってとこだ。現金だけなら金貨二千枚ぐらいか。私が頭ならもう逃亡してるだろうな。」


私は黙って聞いているつもりだったが、気になったので聞いてみた。


「普通の盗賊って現金以外はどうするの? どこかで換金するものなの?」


「そうだな。武器の類はそのまま使ったりもするが、馬や馬車、女なんかは売り飛ばすな。男も違法奴隷として売り飛ばす場合もあるが今回は皆殺しにされてるからな。」


「そんなのどこで売るの?」


「俗に言う闇商人や闇ギルドってとこだな。大抵の街にはあるんだが、クタナツにはスラムすらないからな。」


「へぇー、じゃあここから一番近いとこだとどこにあるの?」


「そりゃあ領都だな、ホユミチカにも居なくはないが小悪党だしな。盗賊と取引するクラスの悪党は領都ぐらいでないとな。」


「なるほど。その辺に顔が効く冒険者っていないの?」


「ふむ、冒険者か……契約魔法をくぐり抜けられるほど魔力が高く、尚且つ荒らくれた雰囲気を持つ冒険者なら……」


「契約魔法がどう関係するの?」


「ああ、あんな奴らはな初見の人間を決して信用しないんだ。だから契約魔法でガチガチに縛るのさ。そこまでやってようやく会話ができるってわけだ。まあイザベルぐらいなら魔力に任せて契約魔法を破ったり無効にしたりできるがな。」


「そんなすごい冒険者っているの?」


「知らんなー。イザベル並みの魔法使いなんてそうそういるわけないしな。あー困った困った。」


ここは私が一肌脱ぐ! なんてつもりはない。

そんな恐ろしい悪党と関わるなんてとんでもない。

クタナツは悪党のいない平和な街だが、こんな時には後手に回るもんだな。

私も一人で外を出歩いくことが増えたので気をつけよう。

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