第129話

あれから、カースは復調するまで一週間ほどかかった。

学校に行ったのは十月二十日であった。


その頃にはオディロン達『リトルウィング』も全員元気になっていた。


カースの木刀はフェルナンドが帰りに拾ってくれていたが、鉄板は気付かれず放置された。


アランは職務放棄が上司にバレずに済み、部下達には娼館や酒などをサービスすることになった。


これにて一件落着と思われた。





しかしギルドではある噂が流れていた。


「どうもマジらしいぜ」

「マジで? グリードグラス草原だぜ?」

「ああ、俺は昨日行ってきたからよ、見たぜ」

「俺も見たぜ。ありゃもう草原じゃねぇよな」

「マジかよ! やばいな!」

「グリードグラス草原って少々焼いたり刈ったぐらいだと二日もあれば生えてくるよな?」

「だよな?それがまるっきり生えてねーんだよ!」

「マジかよ! やばいな!」

「確か中西部だよな? あのルートを通ったら一日もかからず草原を通過できるらしいじゃねーか?」

「ああ、普通草原を抜けようとしたら三日はかかるからな。それが一日もかからんルートの誕生だ。今のうちに二度と生えないようにしておきたいもんだよな」

「あんな真似、剣鬼だって無理だよな? 今クタナツに来てるらしいじゃねーか」

「マジかよ! やばいな!」

「見たところ焦げ跡があったらしいぜ。 化け物のような魔法使いが焼いたのか、本物の化け物が焼いちまったか」

「先週ぐらいに魔女が一人で魔境に出たらしいじゃねーか。案外魔女が八つ当たりとかでやらかしたんじゃねーのか」

「マジかよ! やばいな!」

「魔女か……ありえるな。ん? 先週っつったらオディロン達の件も先週だよな?」

「おい! 誰かサイクロプスの奴らあれから見たか?」

「いや、知らねー。オメーらは?」

「そういや見てないよな? まさか……」

「マジかよ……」


ギルド内は一気に静寂に包まれる。

確証もないのに誰もが確信してしまったのだ。

サイクロプスの咆哮が魔女の逆鱗に触れ、奴ら諸共グリードグラス草原を焼き尽くしたのだと…….


そこにリトルウィングが現れる。

四人とも一回り成長したようで、九等星に昇格間近だと言われている。


納品を終え報酬を受け取りギルドを出ようとする彼女らを先輩達が呼び止める。


「おうお前ら、調子良さそうじゃねーか。」

「オディロンよう、聞いてねーか? グリードグラス草原のことをよう?」


「聞いてはいますけど、うちの母じゃないと思いますよ。だって『燎原の火』であれは無理でしょう?」


「あーあれだけの広範囲だもんな。『燎原の火』だとしても広すぎるわな。それに火力が足りんだろうしなー。」


そう。ここの先輩達は一流近い腕を持つ冒険者。普通クラスの燎原の火なら範囲も火力も把握している。魔女と呼ばれるほどの魔法使いが使ったらどうなるかも想像はついている。


「逆に知りたいんですが、どうやったらあんなことが起こるんですかね?」


もちろんオディロンには分かっているが、とぼけてみる。


「そりゃここいらであんなことができるのは魔女ぐらいなもんだろうよ。」

「燎原の火の範囲を二十倍にして、火力を五倍にすりゃあできるんじゃねーの?」

「なんだそりゃ? じゃ俺も今の十倍強くなれば剣鬼に勝てるぜ!」

「マジかよ! やばいな!」

「俺なら五倍だな!」

「俺だって聖剣があったら勝てるぜ!」


オディロンは見事に話題を逸らすことに成功した、のだろうか? しかしイザベル犯人説は消えないだろう。

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