第127話 十月十三日、朝

自宅に帰ったカース。朝食を少しだけ食べて自室に引っ込む。イザベルから治癒魔法を受けたので後は眠るだけなのだ。


子供達が学校に行く時間、比較的マーティン家の近くに住んでいるサンドラが訪ねてきた。


「おはようございます。カース君はどうしてますか?」


「おはようございますサンドラ様。申し訳ありません。カース坊ちゃんですが朝方帰って参りまして、就寝中です。どうやら旦那様が悪い遊びに連れ回しているようですので、くれぐれもご内密にお願いいたします。今週いっぱいは学校もお休みされるかと思います。」


「悪い遊び……ですか。」


「ええ、聡明なサンドラ様ならお分かりかと思いますので正直にお伝えいたしました。くれぐれもご内密に。」


「は、はい。言いません!」


サンドラは顔をやや赤くして馬車に乗り込み学校へ向かった。





「サンドラちゃんおはよう。カースはどうだった?」


「アレックスちゃんおはよう。それがね……寝てるみたいなの。たぶん今週は学校に来ないみたい……」


「病気なの? カースに限って有り得ないとは思うけど……」


「分からないわ。でもカース君のことだからきっと問題ないと思う……」


「全く! 何から何まで変なヤツなんだから!」


「そうよね。古い言葉で『愚者と貴族は風邪病ふうじゃびょうかからない』って言うもんね。」


「あははは、サンドラちゃんはひどいわね! カースは愚者ね!」


「アレックスちゃんの方がひどいわよ。カース君は貴族じゃない?」


カースの悪口で盛り上がる二人。

そして何事もなかったかのように授業は始まる。


クタナツでは学校を休むのに届け出など必要ない。休もうがサボろうが自由だ。

当然補講などないし授業に遅れても救済措置はない。自力もしくは友人の助けで追いつくしかないのだ。

教師に金を積んで補講をお願いするのも自由だし、それを教師が断るのも自由である。

年に一度のテストで良い点を取れば評定に響くこともない。

もちろん評定を金で買おうとするのも自由だ。ただしほとんどの場合、金だけ払って『評定を金で買おうとした』という記録が追加されるだけに終わる。

金を払った貴族が教師に文句を言うこともある。そんな時、教師は決まってこう言うのだ。

『お金を渡すことは評定に大きく影響するとお伝えしましたよね?』


そんな訳で成績上位陣はカースに差をつけるチャンスだと少し張り切っていたりもする。

スティードも槍術で差をつけようと燃えているし、セルジュは自分も休もうかと思案している。

少しだけ一組の雰囲気が暗いのはカースがいないからなのか。アレックスも元気がない。

朝はサンドラと楽しくおしゃべりをしていたが、弁当をつつくカースがいないことで寂しさを再認識してしまったのだ。

どうするアレックス?

どうなるカース?

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