第93話 哀れパトリック
「おお、ベレン! 無事だったか! 大変だっただろう?さあ早く帰ろう。お前の好きなプティングも用意してあるからな。」
「兄上、私はもう勘当された身です。ダキテーヌ家の門をくぐることはありません。この場では一応兄上と呼ばせていただきます。」
「何を言っている? 一緒に帰ろう。今なら父上も許してくれる。私も一緒に謝ってやるから。」
その時ボリスの怒号が飛ぶ。
「いい加減にしてもらおうか! そんな話は外でやってくれ。誘拐だと言うからここまで騎士団が時間を割いているのだ。ベレンガリア嬢、貴女は誘拐されたのか?」
「いいえ、自分の都合で家出をしました。勘当されたのも当然だと思います。」
「ばかな! ベレン! その男に誑かされているのだな? 怖がることはない、正直に言うといいんだ。」
また話がおかしくなる。
同じ展開を繰り返し、誰もが、パトリック以外全員がうんざりしている。
「パトリック殿、どうすれば君は納得するのかな? 本人を含めこの場の全員が同じことを言っている。君だけが現実を認めようとしていない。それは貴族として潔くないのではないか?」
「違う! みんなマーティンに騙されているんだ! 私は間違ってない!」
そこで本日初めてアランが発言をする。
「ところでパトリック君、先日君は私かオディロンに決闘を吹っかけてきたけど、まだ取り消してないよな?」
「当然だ! 受けて立ってみせるか!」
その瞬間、全員の表情が凍る。
事もあろうに騎士団の詰所で決闘を宣言してしまったのだ。
「じゃあ終わりだ。」
そうアランが言うが早いかパトリックの首が飛んでいた。
「さて、ダキテーヌ卿、彼の死体を引き取ることは許可しましょう。存分に弔ってあげるといいかと。」
斬られたパトリックの首からは血が出ていない。傷口がもう乾いているのだ。
またアランの剣や飛び散った箇所からいつのまにか血が消えていた。おそらくオディロンの仕業だろう。
「くっ、マーティン卿の寛大な心に感謝する。」
そして目の前で兄を殺されたベレンガリアは、顔を紅潮させ息も荒い。その場にへたり込んでしまっていた。
「ベレンちゃん。帰ろう。君の宿まで送るよ。」
ベレンガリアはオディロンに手を引かれるまま詰所を出ていった。
外に出せばこうなることを父、ポール・ド・ダキテーヌは分かっていた。だから地下に閉じ込めておいたものを。なぜ母、ヘイゼリアは解き放ったのか。
栄達を求めクタナツに来たのは間違いだったのか。そんな思いがポールの胸中に渦巻いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます