第37話 カース、五歳

いつの間にか秋、なぜか夏を過ごした記憶がおぼろげだ。

海にも湖にも泳ぎに行けないし、プールすらない、暑いだけの夏だった、よな?


もう二週間もすれば五歳になるが、あれから

水滴みなしずく』や『微風ほのかぜ』以外の初級魔法を覚えた。


土芥つちあくた

土を出す魔法。始めは手から水気のない土がポロポロ落ちるだけの魔法だった。

今は毎分一キロムは出せる。役に立つかはまだ分からない。


点火つけび

火を出す魔法。始めは手からマッチ程度の火が起こる魔法だった。熱いので一秒ぐらいしか維持できない。

体から離して発動できないため苦戦している。両手の全指から同時に発動させることまではできるようになった。熱い!


鉄屑かなくず

金属を出す魔法。始めは手から砂鉄のようなものがほんの少し出る魔法だった。

今は毎秒三グラムぐらい出せる。

なお品質はいろんなものが混ざりすぎており何にしても使いにくいらしい。

今のところゴミを出すだけの魔法だ。



以上五つが初級魔法だ。

五つ全てを四年生になる前に使えれば上出来らしい。

ということは下級魔法をほぼ全て使えるオディロン兄は結構すごいということだ。


下級魔法は数が多くまだ一割も覚えていない。


水球みなたま

名前の通り水の球を出す魔法。

始めは水のパチンコ玉を掌に出す程度だったが、今はサッカーボールぐらいだ。

遠隔操作はできないが、プロ野球投手並みの速度で飛ばすことはできる。

フェルナンド先生はこれを投げずに対象の真上に作り出したんだよな。奥が深そうな魔法である。


風球かざたま

風、というより空気を球のように集める魔法。

空気だからどれぐらい集まっているか見えない、だから感じるしかないのが大変だ。

他人が使っていたらさらに分かりにくいだろう。

この球系統の魔法ってめちゃくちゃ圧縮したらお手軽な爆弾になりそうだ。

少年らしい好奇心でマリーのスカートめくりに使う予定だ。


風操かざくり

風を操る魔法。手から風を出すのではなく、自分に向かって吹かせたり、木の葉を揺らしたり、応用範囲がかなり広そうな魔法だ。

夏には重宝したものだ。

これこそまさにスカートめくりに向いた魔法と言えよう。


どうも水と風の魔法との相性がいいようだ。

下級魔法は全て使えるようにしておくことが、貴族や魔法使いの常識らしい。

そして中級から上は相性や好み、または必要に応じて習得するようだ。


私としては現在覚えている魔法を同時に発動したり組み合わせたりすれば結構応用が利くのではないかと考えている。

それには風操の制御が肝になりそうだ。

大きなものから小さなものまで精密に動かす力が必要だろう。

まるでサイコキネシスのように。

そこまでがんばってみよう。


そんなある日、母上から衝撃発言が。


「春の終わり頃、あなた達に弟か妹ができるわよ。可愛がってあげるのよ。」


おおー、ついに私もお兄ちゃんと呼ばれるのか。

しっかり可愛いがってあげよう。

本も読んであげよう。



ついにカースも五歳。

次の春が来れば学校に行く歳だ。

魔力を鍛え、体力を鍛え、頭を鍛える。

しかし心を疎かにすると足元を掬われるかも知れない。

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