第32話 カース、気付く
さあ今日は四歳の誕生日、夜は少し豪華な食事が食べられる。
それまでは母上に修行の成果をお披露目する時間だ。
「さあカースちゃん。最近お母さんはエリに付きっ切りだったけど魔力放出はバッチリ続けていたわよね。またまたすごい所を見せてね。」
そう言って母上は私の額とヘソに手を当てる。
ふふふ、やってやるぜ。
全力で全身から放出してみよう。
「押忍! うーん、はぁっ!」
別に声はいらないが、無言でやるのも寂しいから出してみた。
もうほぼ空になったぞ。
「もう驚かないわよ。カースちゃんは天才だもの。予想以上にすごいけど驚かないんだから……」
「もうほとんど空っぽだよ。どうかな?」
「すごすぎるわ。放出された魔力は感知できないけど、体内の魔力の流れからするとほぼ全身から放出したのね。どこからそんな発想が……」
「右手から出せるんなら他からも出せるかなーって思ったの。がんばったよ。」
「えらいわ。本当にえらいわよ。
魔力量も私並みに増えてるし、本当に学校に入る頃には教えることが無くなるかも知れないわ。」
ほほお、今で母上並みなら成長に連れてどこまで伸びることか。
「母上ってクタナツだと何番目なのー?」
「うーん、難しい質問ね。魔力量だけなら知ってる人の中では一番よ。でも知らない人もたくさんいるから分からないわ。
もちろんフェルナンド様やアランよりも多いんだから。」
「すごーい! 先生や父上より!」
「うふふ、そうよ。でも勘違いしてはだめよ。魔力量が多ければ強いわけじゃないの。
それも含めて今から教えるわね。」
「押忍!」
ついに魔法を教えてもらえるのか。
「最初は水の魔法よ。『
最初はこの本を見ながら呪文を唱えるのよ。
発音もなるべくお母さんの真似をしてね。」
「押忍!」
やっぱり呪文があるのか。
英語と一緒で基本の例文は大事だもんな。
『キーミョーム・リョージュ・ニョーライ
水よ その姿を表せ 水滴』
あれ? 言いやすそう。
「キーミョームリュージュニューライ
水よ その姿を表せ 水滴」
あれ?
何も起こらない?
「だいたい合ってるわ。少し間違えてるから、ここをよく見てゆっくり読んでみましょうね。
そして、手から魔力をゆっくり出しながら魔力が水になるよう意識するの。
そしたらこんな風に水が出てくるのよ。」
すると地面に向けた母上の手の平から水がドボドボ流れ落ちていく。
「母上すごーい! 僕もやる!
キーミョーム・リョージュ・ニョーライ
水よ その姿を表せ 水滴』」
今度は出た!
本当に水滴だ。
冬の夜に水道管が凍らないように出す水、いや霧の朝に木の葉から落ちる水滴のようだ。
「やっぱりカースちゃんね。できるのが早すぎるわ。驚かないんだから!」
なんだ? これで成功なのか。
ほんの少しでも『できた』ことが重要なのだろうか。
「さあ、ここからまたしばらく教えることがないわ。この水滴の魔法でお母さん並みの水を出せるまで一人で頑張るのよ。できるわね?」
「押忍! できるよ!」
「うふっ、えらいわカースちゃん。
今夜はご馳走だからね。それまでしっかり頑張ってご覧なさい。」
あっ!?
もしかして毎日風呂に入れるのが贅沢な理由って魔法が使えないと不可能だからか!?
この世界は努力すれば誰でも魔法が使えるはず、ならば市民が風呂に入らないのは魔力量が足りないからとか?
農民はどうなんだろう?
母上並みに魔法が使えたら水の心配はいらなさそうだが。
やはり若いうちに魔力量を増やすのは重要なんだ。
きっとそれさえあれば新しい魔法とか細かい制御とか後からでも解決できるのだろう。
もう四歳にもなろうというのに気付くのが遅過ぎるカース。
家に水道が無い時点で気付くだろうに。
同じ下級貴族であっても毎日風呂に入れる家庭は一割にも満たない。
知識では贅沢だと知っているが、それがどんなに贅沢な事なのか正しく認識できていないカス野郎。
これが将来に禍根を残すのか残さないのか……
季節は秋、本日四歳になったカースであった。
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