第19話:セカンドコンタクト③
気配もなく近寄っていた委員長に、思いっきり襟首をひっ掴まれて息が詰まった。その拍子に手元が狂い、緩んだ拘束を振り切ってヨサクが逃走する。
『へいほーっっ』
「あああああっ!?」
「こらタマコ! いきなり何をするかおのれはッ」
「それはこっちの台詞です!! 何なんですの、さっきから二人でコソコソと! せっかく先生が色々工夫して下さった授業に参加しないなど言語道断ですわッ」
「その授業の平和のために行動しておるんじゃ、たわけーっっ」
「――あのう、どうしました?」
なかなかの混沌ぶりを呈していたその場に、穏やかすぎる声が割り込んだ。そろってギクリと身をすくませて振り返ると、教壇を降りてやって来ているアルベルトの姿が……
「えええっとあのその」
「いや何、アレじゃ、ネズミのようなのが走っていきおったから! ちょっと大きかったが!」
「そう! そうですわ! このお二人が捕まえようと無茶をなさってたので止めなければと!!」
クラス中から視線を浴びて、意味もなく焦ってしまう。完全に固まった美羽の両脇から、犬猿の仲のはずの二人がそう言い訳すると、相手はちょっと右に首をかしげて、
「It is an old rat that won't eat cheese.」
「「は?」」
「歳経たネズミは、ワナのチーズを食べない。つまり経験豊富な方は相手の魂胆を見抜くので、お世辞を言われても簡単には喜ばないという意味なんですが――
私はお世辞は言いませんので、素直に受け取って下さいね。皆のためにと動いた勇敢な方も、それを止めようとした優しい方も、双方同様に素晴らしい。このクラスを受け持つことが出来て、とても光栄に思います」
解説と自分の意見と称賛とがきれいに織り込まれたことばと共に、爽やかすぎる笑顔が炸裂した。やや耐性があった美羽と杏珠でもうわっと思ったのに、今日初対面で耐性ゼロの霧生院がダメージを食らわないわけがなく。
「………………はうっ」
「あ」
「きゃあっ、委員長ー!」
「しっかりなさって、傷は浅くってよ!! 保健委員出動ッ」
「了解!!」
「ああ、いえ、私が運びましょう。担架を出すには及びませんよ」
めでたく真っ赤にゆで上がってぶっ倒れた霧生院を囲んで、どこかの野戦病院みたいなやり取りが飛び交う。そんな中、率先して彼女を抱き上げたアルベルトと美羽の目が合った。ぱち、と、軽く目配せが送られる。……ああ、そういうことか。
「……先生、ちゃんと気づいてたんだね」
「うむ、先走って損をしたのぅ……」
どうやら、何も心配いらなかったようだ。委員長を抱えて出ていくアルベルトを見送って、何ともいえない脱力感に襲われる二人だった。
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