第18話:セカンドコンタクト②

 気が付くと、他もけっこう和気あいあいとゲームを楽しんでいるようだ。ときどきお手付きをして一回休みになったり、先生にどういう意味か解説してもらって興味深そうにうなずいてみたり。なかなかいい雰囲気だなぁとうれしくなりながら眺めていた時、ふと気が付いた。

 (あれ? ……もらったのの文章、ないかも)

 いただいた栞に書いてあった、ちょっと口にするのが気恥ずかしい格言みたいなもの。わざわざあれを選ぶくらいだから、きっとお気に入りの言葉だろうと思ったのだが、いま机に並んでいるカードには書かれていないようだ。他のところにはあるのか、と思うも、セット内容が違ったらそもそも勝負にならない。軽く首をかしげていた時、

 「――、ん!?」

 目の端を、なにかが高速で駆け抜けた。とっさにぱっと振り返るが、そこにはきゃっきゃとはしゃぎながらゲーム真っ最中の級友たちがいるだけだ。

 「美羽、どうしたのじゃ? 急にきょろきょろして」

 「や、いま何か通ったような……あっまた」

 こっそり話しかけてきた杏珠の背後を、再び何かがさーっと通り過ぎる。今度は自分が勢いよく振り返って、しかし何もいないと目の当たりにした杏珠が難しい顔をしていう。

 「……何かおる、か? やっぱり」

 「みたい……どうしよう、みんなに何かあったら」

 「まあ落ち着け、害があると決まったわけではないじゃろ。とりあえずまた動くのを待って」


 たかたかたかたか。

 

 皆までいうヒマを与えず、足音が背後をまっすぐ駆け抜けた。行く先はちょうど美羽の死角、右斜め後ろ側だ。杏珠と『止まった?』『うむ』と目だけで交わし合い、二人で同時にそうっと振り向くと――

 「……あれ? 可愛い」

 「ちっちゃいのう。あれもうちの妖怪か?」

 斜め後ろの班の、くっつけた机の足元。生徒たちが右往左往して洋風カルタに興じる間を、ひざ丈にも満たないほどの小さな影がちょろちょろ動き回っている。

 だぼだぼの三角頭巾、つぶらな瞳におちょぼ口。背丈はおそらく一尺ない、頭が半分以上を占めるころんとした二頭身体形だ。そんな姿で机の脚の間や、みんなの足元をとことこと歩き回っては、なにやら熱心に手を動かしている。実に機嫌のよさそうな歌が聞こえてきた。

 『へいへいほ~~~♪』

 「な、なんか山で木を切ってるみたいな歌だね……」

 「そうなのか? ならばとりあえずヨサクとでも呼ぶか、うむ」

 そんな会話の最中にも、小人さん改めヨサクはせっせと作業中だ。正直全く怖くないのだが……紗矢さやみたいにカンの鋭い子が見てしまうと、また騒ぎになるかもしれない。せっかくいい雰囲気なのだ、このまま楽しい授業で終わってほしいじゃないか。

 いったん目を反らして、ゲームに集中しているフリをする。三度足音がして、愉快な歌がちょうど足元にきた瞬間、

 「えいっ」

 『ほっ!?』

 ぱっと勢いよくしゃがんだ美羽の両手が、ヨサクの胴体をがっちり掴んだ。

 「よし、捕まえ――」

 「立花さんッ!! さっきから何をやってらっしゃるの!?」

 「たっ!?」

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