第17話:セカンドコンタクト①

 「――皆さん、初めまして。今日から語学の授業を担当します、アルベルト・リッジウェルと申します。

 桜華国最良の季節といわれる春、しかもこんなに麗らかな良い日にスタートを切れて嬉しく思います」

 時は流れて、本日二限目。

 家政の授業から戻ってきた一同にあいさつしているのは、言うまでもなく新任教諭そのひとだ。美羽は昨日すでに聞いているが、相変わらず恐ろしくきれいな桜華語である。

 教室に入ってきたときは、金髪碧眼の容姿に一瞬『えっ、ことば通じるかな!?』という雰囲気のざわめきが走ったものだが、達者すぎる自己紹介に早くも安堵の空気が流れ始めていた。……と、いうか。

 「ねえ杏珠。なんかみんな、目がぼーっとしてない?」

 「うむ、間違いなくそうじゃのぅ」

 こっそりこぼした美羽のことばに、どこか楽しそうに同意してくる友人だ。

 教壇のアルベルトに注目する級友たち、なにやら一様にとろんとした目つきで頬を赤くしているのである。しかも、授業中の言動については人一倍厳しい霧生院まで、だ。

 (うーん、そりゃあ見とれるほどきれいなのは認めるけど……)

 皆落ち着け! この人がすごいのは容姿だけじゃないぞ、今の時点でぼーっとなってたら授業が終わるころには再起不能だぞー!! ……と、昨日初対面で死にかけた人間として忠告してあげたい。良くも悪くも西洋式フォーマルに忠実すぎるから、この先生。

 美羽がそんな心配をしているとはつゆほども知らないだろう当人、ひとしきりスピーチしたところでぽんと手を叩いた。改まった調子から一転して、昨日のような朗らかな口調になって続ける。

 「さて、堅苦しいあいさつはここまで。教科書をしまって、ついでに机を動かしてもらってもいいかな?」

 「えっ、あの、しまっていいんですか?」

 「はい、今回は使いません。肩慣らしにちょっとしたゲームをやろうと思います」

 思わぬ提案に首を傾げつつ、素直に全員で移動を開始する。班ごとに机をくっつけて島を作ると、アルベルトは持参していたカードの束をそれぞれに置いていった。二十枚ほどがひと揃いで、表側にアルファベットで短い文章が書いてある。なんとなく目で追っていた美羽はあ、と唐突に気付いた。

 (この字の感じ、栞の文章といっしょだ!)

 授業に使うために作ったといっていたの、どうやらこのカードだったようだ。行きわたって机の上に適当に並べたところで、再び解説が入る。

 「今お渡ししたカードには、イングローズのことわざや格言が書いてあります。私がひとつずつ音読していきますから、同じ言葉が書いてあるカードを見つけて取ってください。――そうですね、ちょうど桜華のカルタ遊びみたいな感じです」

 「お、それは楽しそうじゃ。たくさん取れたものが勝ち、ということで良いかのー?」

 「そうですねえ。ただし、あとで答え合わせをして、間違ったカードを取っていたら減点になります。一枚につき一点。

 班ごとに一人、いちばんたくさん取れた方には賞品を進呈しますので、頑張ってくださいね」

 「よし! そーいうことなら頑張ろうぞ、皆の衆!!」

 「「「はーい!」」」

 こういうとき、真っ先に乗っかって雰囲気を作るのは杏珠の十八番だ。彼女が明るく声をかけると同じ班の子たちがすぐに応え、それが周りにも伝播して、教室内の空気が俄然やる気に満ちたものに変わる。号令する役目を取られた委員長が、一瞬だけものすごく悔しそうな顔をしていたが。

 「では、さっそくやってみましょうか。The best swimmers are frequently drowned.――」

 比較的ゆっくり、よく通る声で読み上げてくれるのを頼りにカードを探す。美羽もカルタは好きで、実家で年の離れた弟とよく遊んでいたが、ことばが違うとなかなか思うように見つけられないものだ。そうこうしているうちに他のメンバーが先に取り、まわりから拍手が起こる。

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