第267話 契約者

 「それは、本当ですか?」

 「本当よ。正確にはユーリ様と契約を交わしたのだけどね」


 それでも、二人とも主だと思っているとイリアルさんは言います。


 「僕のお母さんと……あれ?」

 

 まさか、僕のお母さんとシアさんのお母さんが繋がっているとは思いませんでした。


 「契約していたという事は、もう契約はしていないのですか?」

 「今はね。二人がご結婚されたのを機に私は村に戻ったから」


 出会ったのは、お母さん達がフォクシアを出てから直ぐの頃だったようです。

 なので、オルフェさんの事も知っていましたし、ルード帝国で色んな街や村を守っていた事でお義母さん達は有名ですが、その影でイリアルさんの活躍もあったのかもしれませんね。


 「シアさん達は知っていたのですか?」

 「知らなかった」

 「知らないわね」

 「初耳だよ!」


 その事についてはシアさん達に教えていなかったみたいですね。

 けど、それを聞くと僕とシアさんが出会ったのって運命だと思えませんか?

 だって、僕のお母さんとシアさんのお母さんが従者の関係で、僕達も同じなのですから。

 これは、シアさんと出会うのは運命的に決まっていて、必然的だったとも言える気がします!

 っと、その事を喜ぶのは後にして、今はイリアルさんから聞かなければいけない事がまだありますね。


 「イリアルさんが転移魔法を使える理由がわかりました。それで、この場所を知っていたのはやっぱり……」

 「主様から教えて頂いたからよ」

 

 そうですよね。

 でなければ、この場所の事を知れる機会は早々ないと思います。


 「私も若い頃、影狼族の在り方に疑問を持ったことがあったの。影狼族のやっている事はおかしいってね」


 シアさんとほとんど同じような事を思っていたみたいです。

 誰かと契約をし、村に戻り無理やり結婚させられる事がおかしいと感じていたみたいです。

 その事をお母さん達に相談し、もし困った時があったのなら影狼族の手の及ばないこの場所を使えばいいと言われ、この場所に子供達を匿う事にしたみたいです。


 「でも、シアさんのお父さんは影狼族なのですよね?」

 「そうよ」

 「結局は影狼族の掟みたいなものに従ったのですか?」

 「そういう事になるわね。だけど、私の旦那も同じ疑問を抱いていたわ。謂わば同志……長に従うふりをして、今は同じことをしている」


 イルミナさんはお父さんは敵かもしれないと言っていましたが、真実は味方みたいですね。


 「良かったです。シアさんのお父さんと敵にはならなくてすみそうですね」

 「そうだといいわね」


 僕が安心をしているとイリアルさんの表情が曇りました。


 「お父さんから……長から与えられた期限は短い。私達が姿を隠した今、確実に旦那の元にお父さんは向かうでしょうね」

 「旦那さんもこの場所に連れて来てはいけないのですか?」

 「ここは例え旦那でも教えてはいけない場所。ユーリ様とアンジュ様を裏切る事に繋がりそうだから」


 旦那さんの事は大事ですが、それ以上に主と認めた方に迷惑をかけるのは許せないらしいです。


 「だけど、このままじゃ旦那さんも、旦那さんの元に集まった影狼族の方も操られてしまいますよね?」

 「そうなるわね」

 「それはマズいですよね?」

 「えぇ。だけど、仲間が動いてくれているわ」

 「他にも仲間がいるのですか?」


 協力者が他にもいる事に驚きました。


 「たまたまだけどね。昔、旦那とパーティーを組んでいた人がアルティカ共和国に向かっていたの」

 「すごい偶然ですね」

 「そうなのよ。それが面白い話でね。その人はルード帝国のとある村でギルドマスターをやっていたのだけど、ナナシキのギルドマスターに赴任する為に向かっていた所だったのよね」


 何とナナシキのギルドマスターさんみたいです!

 本当にすごい偶然ですよね!

 

 「もしかして、ナノウ?」

 「そうよ」

 「え、ナノウさんですか?」


 ナノウさんと言えば、シアさんと出会った村でギルドマスターをやっていた方です。

 そういえば、ナノウさんとお話した時に、シアさんのお父さんとパーティーを組んでいて、シアさんもお父さんの知り合いだから訪れたみたいなことを言っていた気がします。

 なんか、世界は広いですが世間は狭いって言うのが良くわかる気がします。

 色んな所で知らない繋がりがあるみたいです。


 「でも、ナノウさんが協力者なのは心強いですね」


 実際に戦った所は見ていませんが、凄く強そうな人でした。

 何というか、強者のオーラを肌で感じる人です。体も大きかったですしね。


 「だけど、お父さんと戦うのは戦力的には不安なのは事実よ。お父さんが血の契約を使った瞬間、全ての影狼族が敵に回るのだから」

 「それは確かに危険ですね」

 「だから、出来る事ならユアンちゃんとシノちゃんにも手伝って貰いたいのだけど、どうかしら?」


 改めて、イリアルさんから協力して欲しいと言われました。

 さっきまではイリアルさんは敵だと思っていましたので、協力する気は微塵もありませんでしたが、イリアルさんのやろうとしている事がわかった今、断る理由はありませんね。

 

 「スノーさん達に相談しないと弓月の刻として手伝う事を約束は出来ませんが、僕だけでも手伝いますよ」

 「私も。影狼族の事、他人任せには出来ない。もう、血に怯える事もない。ユアンとの繋がり。負ける気はしない」

 「ありがとう」


 それに、魔族がやってきたことは僕も許せませんし、魔族を潰して欲しいとお母さん達に言われています。

 これは僕の役目の一つでもあると思います。


 「僕も出来る事はさせて貰うよ」

 「おじいちゃんたちをぶっ飛ばすんだよっ!」


 シノさん達も協力をしてくれるみたいですね。


 「私は引き続き、契約の血に抗う魔法道具マジックアイテムの制作を進めるわ」

 「お願いね」


 僕たちの方針は決まりました。

 その為には準備が必要ですね。

 まずは、僕達が何をすればいいのかを明確にしなければいけませんね。

 ですが、その前に。


 「あの子供達はどうするのですか?」

 「そうね……もういいわよ!」


 イリアルさんが操られた子供達に声をかけると、子供達が一斉に顔をあげました。


 「お疲れ様。少しは遊べたかしら?」

 「はい! 久しぶりに体を動かせて楽しかったです」

 「演技も楽しかったー」

 

 子供達がイリアルさんの元に駆け寄ってわいわいとはしゃぎはじめました。


 「えっと、もしかして子供達は……」

 「うん。最初から操って何か居なかったわよ」


 ですよね。

 子供の口からはっきりと演技と聞こえましたからね。


 「おいおい、そんな危ない事を子供達にやらせてたのかよ」

 

 ユージンさんがイリアルさんに怒っていますが、それも仕方ないですね。


 「子供に何かあったらどうするつもり?」

 

 僕よりも年齢が低い子供ばかりですからね。

 ユージンさん達が手加減をしたから無事ではいますが、ユージンさん達が本気を出していたら怪我ですんだ保証はありません。


 「ごめんね。だけど、この子達の為でもあるの」

 「この子達の? どういう意味?」

 「ちゃんと説明してもらわないとわからねぇなっ!」

 「ロイは黙ってて。説明されてもわからないだろうから」

 「それもそうだなっ!」

 「だが、ロイの言う通り、説明して貰わない事には納得はー……」


 ユージンさん達がイリアルさんに詰め寄っていると、影狼族の女の子がユージンさんの服を引っ張りました。


 「おじちゃん強いね」

 「ん? あぁ、ありがとうな? だけど、俺はおじちゃんではないからな?」

 「そうなの? それよりも、これ」

 

 女の子が短剣をユージンさんに掲げました。

 ユージンさんが首を傾げながらその短剣を受け取りますが。

 それって……。


 「うぉ!?」


 ユージンさんの足元に魔法陣が展開されました。

 

 「えへへっ、よろしくね主様?」


 影狼族の契約魔法ですよね。

 と教えようと思いましたが、遅かったようです。


 「お姉ちゃん。僕に魔法教えて?」

 「私に?」

 「うんっ! これ!」


 ある男の子はルカさんに杖を。


 「お姉さんかっこよかったです。これを」

 

 ある女の子はエルさんに弓を。


 「おじちゃん! 凄い筋肉! 武器も僕と同じだね!」


 ある男の子はロイさんの斧を渡しています。


 それをみんな受け取ってしまい、それぞれの足元に魔法陣が展開され驚いています。


 「これで、契約はできたわね」

 「おい、これはどういう事だ?」

 「影狼族の契約。この子達の事をよろしくね」

 「そんな勝手に決められても困るぞ!」


 最初はびっくりしますよね。

 僕もシアさんから剣を受け取って、凄く驚きましたからね。

 

 「おじちゃん、嫌だったの?」

 「あ、別に嫌という訳ではなくてな?」

 「良かった。あの、手を繋いでもいいですか?」

 「あ、あぁ……別に構わないが」


 だけど、いざ契約してみると決して嫌な事ではないとわかりますよ。


 「お姉ちゃん抱っこして?」

 「お姉さん、頭撫でて欲しいです」

 「わーっ! たかーい!」


 ユージンさんは女の子と手を繋ぎ。

 ルカさんは男の子を抱っこし。

 エルさんが女の子の頭を撫で。

 ロイさんは腕に男の子をぶらさげています。

 ユージンさんは兎も角、他の三人は満更でもなさそうですね。

 特にルカさんとエルさんは顔が緩んでいますし。


 「いいなー……」

 

 契約できなかった子供達が羨ましそうに契約した子供を見ています。


 「貴方たちもあと少し大きくなったら契約できるようになるからそれまで我慢しなさい」

 「はーい」


 聞き分けのいい子たちばかりですね。

 みんな揃って手をあげている姿は凄く微笑ましく思えます。


 「という訳で、暫くの間だけど、この子達はこの街で過ごさせて貰うけどいいかしら?」

 「大丈夫だと思いますよ」

 「ありがとう。それで、この子達の面倒なのだけど……」


 ようやくシアさん達の問題は一段落しました。

 だけど、ここからが本番なのですよね。

 その為にもスノーさん達にまずは相談しなければいけません。

 きっと心配して待っていてくれますからね。

 ちなみにですが、影狼族の子供達の面倒はユージンさん達にお任せしました。

 転移魔法陣を渡してあるので、いつでもこの場所に来れるようにしてあげましたよ。

 もちろんダンジョンの事は一応伝えましたよ。知らないで入ってしまったら大変ですからね。

 ですが、挑まないようにお願いはしてあります。

 ユージンさん達は頷いてくれたので多分大丈夫ですよね?

 だって、ユージンさんの周りには影狼族の子供達がいっぱいいますし、それどころじゃないと思いますからね。

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