第258話 補助魔法使い、告白される
「えっと、今回の納品はこれで全部ですよね?」
「うむ。毎度ありがとうな」
「いえいえ、ではまた届けに来ますね」
今日はお仕事でポーションを届けにトレンティアまで来ています。
今はローゼさんの立ち合いの元、納品を終わらせたところですね。
「ユアンや、まだ時間はあるかの?」
「はい? 少しくらいなら問題ありませんよ」
いつもの通り、納品も終わりナナシキに戻ろうとすると、ローゼさんに珍しく呼び止められました。
時間もまだある事ですし、僕はローゼさんの屋敷に案内され、応接室みたいな所に入りました。
「いまお茶を用意させるから、少し待っとくれ」
「ありがとうございます」
うぅ……なんか緊張しますね。
ローゼさんとの関係は良好で、普段から接する機会が多いのですが、どうしてもこういった場所で対峙するとソワソワしてしまいます。
「なに、ちょっとした世間話じゃ、そう緊張するでない」
「わかっていますけど……」
大きさだけ見れば僕の住むお家の方が大きいのですが、家具や装飾を見ると、一つ一つがとても豪華にみえます。
「はい。どうぞ」
「いつもありがとうございます」
「いいのよ。これも私の仕事だからね」
お茶を提供してくれたのは当たり前ですが、フルールさんでした。
ローゼさんが居る所にフルールさん在りって感じになってますね。
「それで、少し聞きたい事があるんじゃが」
「聞きたい事、ですか?」
「うむ」
今更聞かれるような事なんかあったでしょうか?
少し考えるも、僕には思い浮かびませんでした。
「ユアンよ……リンシアと恋人になったというのは本当か?」
「ふぇ?」
「私も聞きたいわ。あの日以降の事をまだ聞いていないからね。折角、協力してあげたのに放置ってのも酷いんじゃない?」
予想外の方向の話でした!
うー……。
確かにフルールさんには相談に乗って頂きました。
恥ずかしくてちゃんと報告をしていなかった僕が悪いのですが、こんなただでさえ緊張するような場所でしなくてもいいと思います!
「シアさんとは、その……ローゼさんの言う通りそういう関係になり、ました」
「ふふっ、おめでとうね」
「その、ありがとうございます」
恥ずかし過ぎます!
もう、顔が熱いです!
別にシアさんと恋人になった事は恥ずかしくありませんが、それを報告する事が恥ずかしいです!
「そうか……」
「どうしたのですか?」
祝福してくれるフルールさんに対し、ローゼさんは何故か難しい顔をしています。
「もしかして、まだローラの事で悩んでいるの?」
「仕方ないじゃろ。可愛い孫なのじゃからな」
「ローラちゃん、ですか?」
どうやら、ローゼさんが難しい顔をしていたのはローラちゃんの事のようでした。
「ローラちゃんに何かあったのですか?」
「いや、まだ何もないのじゃが……」
むむむ……まだと言っている辺り、何かあるのは間違いなさそうですね。
ローゼさんが相変わらず難しい顔をしていると、誰かが扉に近づいてくるのを探知魔法でとらえました。
そして、その反応はドアの前で止まり、コンコンとドアを二回ノックしました。
「おばあ様、ユアンさんが来ていると聞きましたが、挨拶の為、中に入ってもよろしいですか?」
ノックの主は今しがた話の話題にあがっていたローラちゃんでした。
「ユアン、良いか?」
「はい、構いませんよ」
ダメなんて言える筈がありませんし、ローラちゃんですし大歓迎です。
ローゼさんとフルールさんだけよりもローラちゃんが一緒の方が緊張は和らぎますしね。
「入って良いぞ」
「はい、失礼致します……ユアンさん、お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。元気そうで何よりですね」
部屋に入ったローラちゃんはスカートの裾を少し持ち上げ、立派な挨拶をしてくれました。
色々と勉強をしていると言っていましたが、それが良くわかりますね。
「まぁ、座れ」
「はい、失礼致します」
ローゼさんに座るように促され、ローラちゃんもソファーに座りました。
それも、僕の隣にです。
それを見て、ローゼさんがまた困った顔をしています。
「ローラちゃん、今日はおめかししているのですね」
「はい! ユアンさんが来ていると聞きましたので……変ですか?」
「そんな事ないですよ、綺麗ですし、可愛いと思います」
「わぁー! ありがとうございます!」
話を聞くと、自分でメイクをしたみたいですね。
けど、ローラちゃんの年では少し早いと思いますけどね。
「それで、今日は何しに来てくれたのですか? もしかして、私に会いに……?」
「いえ、今日はお仕事ですよ。それで、ちょっとまだ時間があったのでお邪魔させて頂きました」
「そうですか……ゆっくりしていってくださいね!」
「ありがとうございます」
ローラちゃんは僕が来ると、いつも歓迎してくれるので嬉しいですね。
たまにですが、ローゼさんとお仕事にもついてきて仕事を学んでいますし、小さいのに偉いと思います。
「ローラ、今は儂とユアンが会話しておる、少しはしゃぎ過ぎじゃぞ」
「はい、申し訳ございません」
ローラちゃんがローゼさんに叱られてシュンとなっています。
「それで、ユアン……」
「はい? シアさんの事、ですよね?」
「うむ……」
ローラちゃんが入って来る前の話題は僕とシアさんの事でしたね。
「二人の仲はどうじゃ?」
「悪くないと思います」
「ふふっ、ちゅーくらいはしたの?」
「ふぇ!? それは……」
うー……子供の前でそんな話をしなくてもいいと思います!
「え……ユアンさんがリンシアさんとちゅー? どういう、事ですか?」
ローラちゃんは僕とシアさんの関係は知りませんので、驚くのは仕方ないですよね。
「ローラよく聞くのじゃ」
「はい」
「ユアンとリンシアは恋仲にある」
「え……ユアンさん、それは本当ですか?」
「はい、そうですよ」
別にローラちゃんにまで話さなくともいいと思います!
「そんなぁ……」
それを聞いたローラちゃんが何故かがっくしと肩を落としました。
「えっと、大丈夫ですか?」
ローラちゃんが肩を小さく振るわせてプルプルと震えています。
「ひぐっ……ぐすっ」
「えっと……あの、ローゼさん?」
状況がわかりません!
ただ、シアさんとの関係を報告しただけなのに、ローラちゃんが泣き出してしまいました!
「すまんな。ローラはな、ユアンの事を好いておったのじゃよ」
「え?」
ローラちゃんが、僕をですか!?
まさか、そんな筈がありません。
「冗談ですよね」
「うぅ……冗談じゃないです……私、ユアンさんの事が好きです」
えぇ!?
小さな声ですが、ローラちゃんの口からローゼさんが言った言葉と同じことが出ました!
「ど、どうして僕なんかを……」
「だって、ユアンさんは優しいし、私を助けてくれたし、可愛いし……」
うぅ……すごく申し訳ない気持ちになります。
ですが、僕にはその気持ちに応える事はできません。
「ごめんなさい。ローラちゃんの気持ちは嬉しいですが……」
「大丈夫です」
泣きながらですが、ローラちゃんが笑ってくれました。
「ユアンさんはリンシアさんの事が好き、なのですよね?」
「はい……シアさんは僕にとって特別な人ですから」
その気持ちには嘘はつけません。
その場を取り繕う事も出来るかもしれませんが、嘘でもシアさんが一番ではないだなんて言えません。
「わかりました……私、化粧直しをして参ります。お見苦しい姿を見せして申し訳ございません」
泣いているローラちゃんが立ちあがり、僕とローゼさんに礼をし、部屋から出ていこうとします。
僕にはかける言葉ありませんでした。
だって、僕がシアさんが大好きなのに、シアさんは他の人の事が好きで、その人と恋仲にあるのに、そんな中で気を遣われたと思うと辛いです。
「ユアンさん」
「は、はい」
ローラちゃんが部屋を出る前に扉の前で立ち止まり、僕の方を真っすぐに見つめました。
「一番になれないのなら、せめて二番を目指しますので、待っていてくださいね!」
「ふぇ?」
失礼致しますと、ローラちゃんは部屋を後にしました。
「ふふっ、ローゼの心配は無駄だったわね」
「そうじゃな。一安心じゃわい」
「そうね。諦めの悪い所はローゼの血が入ってるってよくわかるわね」
「阿呆が、あのしつこさはフルールの血じゃろうが」
「そうかしら? それにしても、ユアンも大変ね?」
「何がですか?」
「これからローラのアピールが積極的になるじゃろうな」
「え? ローラちゃんは諦めてくれたのじゃないですか?」
だから、悲しくて出ていってしまったのですよね?
「違うな」
「違うわね」
「違うのですか?」
でも、ローゼさんもフルールさんも違うと言います。
「ローラが二番目を目指すと言っていたわね?」
「言っていましたね。どういう意味かはわかりませんけど」
一番が駄目なら二番?
けど、恋人というのは一人だけですよね。
「ローラはな、ユアンの第二夫人を目指すと宣言したのじゃよ」
「第二夫人ですか?」
「えぇ、ようはユアンの二番目の奥さんって事ね」
ローラちゃんが僕の二番目の?
「え、困りますよ!」
「困るじゃろうな」
「だけど、ローラはそのつもりよ?」
「いや、どうにかしてくださいよ!」
僕にはそんな真似はとてもじゃありませんができませんからね!
「それに、ローゼさんとフルールさんの可愛いお孫さんが第二夫人だなんて許せませんよね?」
「私はユアンとならいいと思うわよ?」
「儂もじゃな。ユアンならローラを預ける事もできるし、政治的な意味でも悪いとは思わんな」
二人までそんな事を言っています!
「僕は無理ですからね! シアさんとはやっとラブラブ出来ているのですから、そんな余裕はありませんよ!」
「ほぉ、二人はラブラブか。若いっていいのぉ」
「その感じだと夜の方も楽しんでそうね」
「うむ。その反応は間違いないな」
うぅ……勢いに任せて言わなければ良かったです!
お陰で、色々とバレちゃってそうですよ……。
「まぁ、ローラの話は先の話として、本題に移ろうかの」
「はい、そうしてください」
「それでな、儂が聞きたいのは影狼の事じゃ」
「話が変わっていませんよ!」
結局、シアさんの話に戻るじゃないですか!
「違うわい。リンシアの事ではなく、影狼の事じゃ」
「影狼と言いますと、影狼族の事ですか?」
「うむ」
どうやら僕の勘違いのようでした。
「何かあったのですか?」
「ここ数日、影狼族の者がトレンティアによく訪れる」
「そうなのですね」
影狼族ですし、各地を巡っているので別に可笑しな話ではないですよね?
「それがな、一夜だけトレンティアで過ごした後、朝にはトレンティアを出ていくのじゃよ」
「まぁ、影狼族ですしね」
「だけど、報告によるとみんなアルティカ共和国の方を目指していると言うのよ」
「それがどうしたのですか?」
「どうもせん。じゃが、こんな事は初めてで気になってな」
影狼族の人がトレンティアに訪れる事は珍しくないと言います。
アルティカ共和国から最初にある街がトレンティアですので、休む場所としては最適なので当然ですね。
ですが、ルード領からアルティカ共和国に戻る影狼族の数が不自然なほどに多いとローゼさんとフルールさんは言います。
「そういえば、最近僕の街にもシアさんのお母さんが訪れました。何か関係しているのですかね?」
「わからぬ。じゃが、何かが裏で起きている可能性がある」
「影狼族の動向には気をつけた方がいいわよ」
「わかりました。気にしておきます」
「儂らの方でも何かわかったら報告をする」
「ユアンの方でも何かあったら教えてくれると助かるわ。あの国境での出来事以来、ルードが落ち着くのはまだ先。少しでもトラブルになりそうな事は知っておきたいからね」
「わかりました」
元皇子であるシノさんが消え、エメリア様が頑張っているみたいですが、落ち着くには時間がかかるみたいです。
まぁ、今までシノさんが目を光らせていた場所をエメリア様が引き継いだのですから当然ですよね。
当然、エメリア様に対する反発もあるでしょうし、新たにエメリア様にすり寄る人だって多いでしょうからね。
中にはエメリア様の派閥で幅を利かしているローゼさんに媚びを売る人も多いみたいですしね。
「では、僕はこれで失礼しますが……」
「うむ。ローラの事は任せるがよい」
「はい、お願いします」
「ちゃんとローラの後押しをしてあげるから楽しみにしていてね?」
「それはやめてくださいね?」
僕にはシアさんが居ますのでそれで十分ですからね。
けど、影狼族ですか……。
ローラちゃんの事で大変な事になりましたが、最近の出来事を考えると気にしておいた方がいいですね。
シアさんにも伝えた方がいいのでしょうか?
でも、伝えたらシアさんが気にしちゃうような気もします。
とりあえず、スノーさんには報告ですね。
シアさんにはその後にどうするか話し合って伝えるかどうか決めようと思います。
後はシアさんのお母さんですね。
あの人も何か隠しているのは間違いありません。
ラディくんに少し探って貰った方が良さそうですね。
そんな事を考えながら、ローゼさんからポーションの代金を受け取りナナシキ街へと戻るのでした。
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