第235話 弓月の刻、力を合わせる

 「さぁ、どんどん進みますよ!」


 昨日はゆっくり寝たお陰か、凄く体が軽く感じます!

 朝寝て、お昼過ぎに起きて、昼食をとり、ちょっとお仕事をして、また帰宅して夕飯を食べて、お風呂に浸かって……。

 その後はまたシアさんと一緒に寝てと、寝てる時間の方が多かったですが、そのお陰もあってかいつも以上に力がみなぎってくる。

 そんな感じがして、どんな魔物が現れても負ける気がしませんね!

 

 「すっかり元気になったね」

 「その方がユアンさんらしくていいと思うよ」

 

 二人には随分と心配をかけてしまいましたね。

 二人は気にしなくていいと言ってくれますが、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 けど、それ以上に感謝ですね。

 僕達の事を応援してくれて、僕とシアさんの仲が深まるようにアドバイスもしてくれました。

 その結果シアさんとは……。

 っと、今からダンジョンを進むのにそんな事ばかり考えてはいられませんね。


 「では、ダンジョンに移動しましょう!」

 「おー」

 

 僕の掛け声にシアさんが合わせてくれます。

 シアさんもやる気に満ち溢れているみたいですね。

 スノーさんとキアラちゃんが苦笑いしていますけど、やる気がある事は良い事です。

 空回りしなければですけどね。

 ですが、今の僕たちなら大丈夫。

 根拠はありませんが、そんな気がしてしかたありませんでした。

 そして、それは現実のものとなります。


 「ユアンの道を邪魔するな」


 シアさんが迫ってきた猿型の魔物を一振りで倒します。


 「シアさん、かっこいいです!」

 「うん。もっと頑張るから見てて」


 猿型の魔物は群れをなしていますが、今のシアさんを止める事はできず、一体一体と次々に切り捨てていきます。


 「すごいです!」

 「まだまだこんなものじゃない」


 猿型の魔物を倒し、全長十メートルはありそうな蛇の首を落とし、突如水中から現れたワニの頭を突き刺し、次々と魔物を倒していきます。

 うー……すごく、頼もしくてかっこいいです!


 「あの、ユアンさん……」

 「はい?」

 「私達の出番がないんだけど」

 「そうですね。だけど、シアさんが頑張ってくれているので、今はスノーさん達はボスエリアに備えて休むのも有りだと思いますよ」


 そうしないとシアさんのかっこいい姿が見られませんからね!


 「なんか、これはこれで……」

 「複雑だね」


 そう言われましても、スノーさん達もシアさんがメインで戦う事を了承してくれましたからね。

 それに、今は良くてもシアさんもいずれかは疲労が溜まります。

 その時に動けないのは困りますが、シアさんもそこまで頑張らないと思いますので、今はシアさんを頼りに進むべきです。

 乗ってる時に進むのが一番効率がいいと思いますからね。

 僕だってちゃんと考えていますよ?

 ただ、シアさんのカッコいい所が見たいだけではありませんからね!

 こんな感じで順調に川にそって上流に向かうと、半日ほどで次の階段へとたどり着きました。


 「あっという間でしたね」

 「迷宮に比べるとね」

 「魔物が出現する分、距離は短く設定されていたのかな?」

 「ありえる」


 けど、階段を降りた先にはボスエリアもありませんでしたし、セーフエリアでもありませんでした。

 その代わりに広がっていたのは……。


 「あっつ……」

 「砂がいっぱいですね」


 一面に広がる砂場でした。


 「砂漠」

 「これがですか?」


 砂漠は聞いた事がありますね。

 草木があまり生えない場所で、水を確保するにも一苦労で、夜になれば酷く冷え込み、日中との温度の差が凄い有る場所だと聞きました。

 ルード帝国の南側にリアビラという国があるのですが、その場所に行くのに砂漠があると聞いた事があります。

 僕はその国には行きたくありませんけどね。

 奴隷制度が普通にある国で、タンザの領主が女の子を掴まえて、そこに売ってお金を稼いでいた街と聞きましたから。


 「日差しが辛いね」

 「肌がヒリヒリするよ……」

 「流石に日差しは防御魔法で防げないのでローブを着る必要がありますね」


 けど、それはそれで暑いですね。

 少し歩いただけでも汗が滲み出てきます。


 「私に任せる」

 「シアさんにですか?」

 「うん。私も便利……見てて」


 シアさんが僕と契約した黒い剣を掲げました。


 「闇に溶け込め」

 「わっ!」

 「夜になった……?」

 「真っ暗です」


 僕たちの視界が黒一色に染まりました。


 「これで日差しは気にならない」

 「すごいです!……けど、前が見えませんね」


 シアさんの魔法で日差しは防げましたけど、本当に真っ暗で光が全くありません。

 自分の手が見えないほど真っ暗なのです。


 「これじゃ、進めないよ」

 「むぅ……けど、暑くなくなったのに」


 スノーさんの言う通り、これでは向かう方角もわかりませんし、目視での魔物の接近にも気づけませんね。


 「大丈夫よ、シア。私が手伝ってあげる」


 そんな時には私の出番ね。

 シアが展開した魔法に手を加えてあげればいい。

 ふふっ、シアとの共同での魔法か……いいわね。こういうのも。

 魔力の質を確かめ、何を改善すればいいのかを考える。

 その前にやらなければいけないのは、シアの魔力と同調させる事。

 そうすれば、私の魔力を使用できるから、シアの負担も減る。

 シアが展開した闇魔法に私の魔力を流し、シアからの魔法の権限を奪い取る。


 「楽になった」

 「うん。魔力は私に任せて、シアはその魔法を展開する事だけ考えて」

 「わかった」


 シアが素直に頷いた……気がする。

 見えないけど、シアからそんな気配が伝わってきた。

 問題は……視界をどう確保するかね。

 闇魔法は苦手。

 知識も光魔法に比べ薄い……。

 だから改善するのも難しい。

 なら、ここはちょっと試してみるのもありですね。

 

 「闇魔法と光魔法を組み合わせたら、いつも面白い事が起きますからね」


 収納魔法も転移魔法も光と闇魔法の組み合わせです。

 古代魔法の多くにこの組み合わせが見られるので、試してみる価値はありそうです。

 

 「シアさんの魔法は防御魔法に近いですし、僕の防御魔法を合わせてみましょうか」


 展開するのではなく、シアさんの魔法に組み込むのが大事です。

 重ねるのではなく、混ぜ合わせるように……。


 「きゃっ!」

 「眩しっ!」

 「明るくなった」

 「成功、ですかね?」


 僕たちを覆っていた闇が消え去りました。


 「だけど、日差しが辛くないね」

 「そうだね。それに暑くもないよ」

 「快適になった」


 みんなも肌で感じてくれているようなので成功みたいですね。

 日差しを遮断し、視界も確保できて、暑さも防いでくれているみたいです。


 「あ……」

 「ユアン? 何かあった?」

 「いえ……急にですが、この魔法を思い出しました?」

 「思い出した?」

 「はい……僕はこの魔法を知っていた、気がするのです」


 けど、思い出したとは違う気がします。

 どちらかというと、今この場で知識と共に覚えたと言った感じでしょうか?

 とても不思議な感覚です。


 「わかる。ユアンとの契約で私も魔法を覚えた時、きっとそんな感じ」

 「私もだね。精霊魔法を覚える時にふとこんなのが使えるかもって思ったりするし」

 「私もわかるかも。精霊魔法もそうだけど、契約魔法を使った時に、使える感覚を覚えたから」

 「よく、ある事なのですかね?」


 僕の感覚としては初めてですが、みんなも同じ経験があるようなので珍しい事ではないのかもしれません。

 そして、覚えた魔法は光と闇の複合魔法で、防御魔法の一種みたいです。

 太陽の熱や気温、風などを遮断できるみたいですね。

 もしかしたら、課題であった衝撃波も遮断できる可能性もあります。

 魔力は多く消費しているのはわかりますが、その分、普段展開しているドーム状の防御魔法よりも強度も高そうですので、上位互換と言えそうですね。

 ちなみにですが、僕はこの魔法を聖域フォースバリアと名付ける事にしました。

 

 「ともあれ、これで快適に進めますね」

 「けど、カラカラしてる」

 「流石にそこまでの調整は出来ていませんからね」


 ここに搾取ドレインを組み合わせれば魔素の調整が出来て、水魔法を組み合わせればもっと快適に過ごせるかもしれませんが、ただでさえ光と闇の複合魔法なので少し大変なのに、搾取ドレインの闇魔法や水魔法を組み合わせたらバランスの維持が大変です。

 ちゃんと調整するには時間がかかるので、今は厳しいかもしれません。

 そういうのは安全な場所で周りを気にせずやりたいですからね。


 「なら、そこは私に任せて……精霊よ」


 スノーさんは精霊魔法を使用すると、ちょっと涼しく感じました。


 「私も精霊魔法を練習してるからね」


 どうやら、空気中に水分を精霊魔法で散りばめたみたいですね。


 「なら、私も! 精霊さん、お願い!」

 

 キアラちゃんも負けずと精霊魔法を使用しました。


 「風があるお陰で更に涼しく感じますね」

 「家の中より快適」

 「ホントにね」

 「お昼寝したら気持ちよさそう」

 「なら、ちょっとだけ日差しがあった方がいいですかね?」


 場所が場所なだけに出来ませんけど、もっと心地よく過ごすのなら日差しは大事です。


 「ぽかぽかして涼しい」

 「窓際で日向ぼっこしてるみたいになったね」

 「逆に快適過ぎて眠くなっちゃう……」

 「これは、やり過ぎましたね」


 4人それぞれの得意な魔法を使うだけでこんな事になるとは想像がつきませんでした。


 「改めて思うけど、私達って相性良いのかな?」

 「そうかもね。私は最初から思っていたけどね」

 「前衛と後衛がハッキリしてるのは戦いやすい」

 「魔法の組み合わせも偏っていないですからね」


 パーティーのバランスを考えて組むのは大事ですが、実際に組もうとすると中々組めない者です。

 僕たちの知っているパーティーでいえば、火龍の翼の皆さんが居ますが、前衛二人、後衛二人と良いバランスをしています。

 ですが、前衛のユージンさんは魔法を少し使えるみたいですが、ロイさんは全く使えませんので、僕達のように全員が魔法を使えて、得意な属性も分かれいるのは珍しいと思います。


 「もしかして、僕たち最強ですか?」

 「うん。最強」

 「最強かな?」

 「最強だね!」


 更にはキアラちゃんの召喚魔法でラディくんやキティさん、そしてその配下も召喚出来ますし、数での戦闘も出来ます。

 このままいけばAランクパーティーも夢じゃないかもしれませんよ!

 といっても、僕たちにはそんなつもりはありませんけどね。

 今の生活がかなり気に入ってしまいましたから。

 街で生活をしつつ、今のようにたまに冒険者として活動するのが一番のライフワークだと思います。

 

 「では、進みましょうか」

 「足元だけ気をつける」

 「ちょっと慣れておかないと戦闘に支障がでそうだね」

 「砂漠の中に魔物が潜んでいると思うから、ユアンさんよろしくね?」

 「わかりました。ですが、砂の中ですと探知魔法に引っかからない可能性もあるので、みなんさも気をつけてくださいね」


 つい調子に乗って最強とか言ってしまいましたが、僕たちは完璧ではありません。

 ユージンさん達に劣っている事がありますからね。

 それは、経験。

僕たちは何よりも実践という経験値が少ないです。

 森の中での戦闘は自信がありますが、こういった砂漠や水辺などの戦闘経験はゼロに等しいです。

 なので、油断だけはしない。

 そして、戦闘や移動、進む目標とするものを経験する必要があります。

 だからこそ実感できることはありますけどね。

 みんなと一緒に成長をしているのだと。

 ダンジョンはまだ先に続いています。

 もしかしたら、これは僕たちが成長する為に挑んでいるのかもしれませんね。

 だけど、そうだとしたら何のために?

 結局のところは答えは見つかりません。

 答えが何なのかを知るために、僕たちは砂漠を快適に進むのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る