第220話 弓月の刻、ゴブリンの群れと戦う
「では、それでいきましょう」
「んー……上手くいくかな?」
「ゴブリン相手にそこまでする必要ないと思いますけどね」
「ユアンの指示。従うのみ」
扉を抜け、ゴブリンのいるフロアに入るまではゴブリンは襲ってこないとわかり、僕たちは作戦を練って戦う事に決めました。
まぁ、作戦よいうよりも、自分の力を試すって意味合いの方が強いですけどね。
「ま、気楽にいこう。まずは私がゴブリンの足止めをすればいいんだよね?」
「はい、その後はキアラちゃんとシアさんで数を減らしてください」
「うん。任せてね」
「わかった」
シアさんとキアラちゃんが頷きます。
作戦は大体そんな感じです。
いつも通り戦いつつ、新しい事を試すって感じですね。
えっ、僕ですか?
僕はいつも通りですよ。みんなに補助魔法をかけて、傷ついた仲間がいたら回復魔法を使うまでです。
「それじゃ、いくよ」
スノーさんが扉をあけ、フロアの中に入って行きます。
「一斉に向かってくると、流石にちょっと嫌な感じがするね」
一斉に迫りくるゴブリンを見て、スノーさんが感想を漏らしていますが、今はそれどころではありませんよ。
相手はゴブリンではありますが、想定して戦うのはもっと強い魔物を想定しています。
「話している暇はありませんよ!」
「わかってる! ……精霊よ!」
スノーさんの前方に水の柱が何本か立ちました。
「キアラ!」
「うん! 風の精霊さん、お願い!」
スノーさんが立てた柱がゆらゆらと揺れ始めました。
そして、その揺れは次第に大きくなり、いつしかとぐろを巻くように激しい渦へと変化していきます。
「スノーさん、いいよ!」
「うん。上手くできるかはわからないけど……」
スノーさんが両手を前に掲げると、ゆっくりとですが渦が動き始めます。
まるで竜巻みたいですね。
でも、あながち間違いではないかもしれませんね。何せ、あれはスノーさんとキアラちゃんの精霊魔法を合わせた技ですからね。
「流石に……きついね」
「もうちょっとですよ!」
魔力の少ないスノーさんは魔力の代わりに体力を消耗し、精霊魔法を使っています。
そのせいか、スノーさんの呼吸が少しずつ荒くなっていきます。
しかし、頑張っている成果は確実に出ています。
渦の傍を通ろうとしたゴブリンが渦の中に引き込まれていくのです。
グルグルと渦の中で回るゴブリンを見ているだけで、僕の方が目が回りそうな勢いで渦が激しく回っているのです。
「ユアン、私も戦いたい」
「はい。防御魔法は展開してあるので、僕たちの方は気にしなくて大丈夫ですよ。ただし、スノーさん達の魔法には気をつけてくださいね」
「平気。私はユアンの隣にいるから」
「え? でも、それじゃどうやって戦うのですか?」
「私も魔法を使う。ユアンのお陰で魔力の量は増えた」
「なるほどです。影狼を使うのですね」
シアさんが影狼を使い、戦っているのを見ましたが、普通に強かったですね。
Dランク……もしかしたらCランク相当に該当する魔物くらいの強さがありそうです。
「違う。見てるといい」
でも、シアさんは影狼を使わないみたいです。
「
シアさんが魔法を唱えると、シアさんの体がブレたように見えました。
いえ、ブレたのではなく……これは。
「シアさんが二人になりました!」
徐々にシアさんの体が二つに分かれ、気づけばシアさんが二人並んでいたのです。
「「びっくりした?」」
「はい。声も二つに聞こえるって不思議ですね。どっちが本物ですか?」
「わたし」
右側のシアさんが手をあげました。
「違う、わたし」
左側のシアさんも手をあげました。
「えっと、どっちが本物……でもないですね」
「バレた」
「わかりますよ。シアさんと繋がっているのですからね」
振り向くと、本物のシアさんが後ろにいました。
分身する所を見てしまったので、どっちかが本物だと思っていましたが、契約魔法の繋がりを辿ればすぐにわかりましたよ。
「それじゃ、戦ってきて」
「ズルい」
「私もユアンと一緒にいたい」
「いいから行く」
三人のシアさんが会話をしています。
まるで、本物のシアさんみたいでびっくりしますよね。
どうやら、考えている事が同じみたいですし。
「これも、契約魔法ですか?」
「うん。影狼が進化した」
「という事は、あの真っ黒の狼さんがあの二人という事ですか?」
「そうなるみたい」
みたいって……シアさんもちゃんと理解している訳ではないみたいですね。
まぁ、それも仕方ありませんね。
スノーさんと同じでシアさんも感覚で魔法を使っているみたいなので、理論とはわからない……というよりも興味がないみたいです。
使えればいいって感じみたいです。
「でも、動きは遅いですね」
「申し訳ない」
「謝る事ないですよ、ただ本物のシアさんはもっと速くて、スババババーって敵を倒すのでそれが凄いだけです」
「ありがとう」
シアさんの分身は本物に比べ、動きが遅いです。
ですが、動き自体はシアさんと同じに見えます。
「あ、でも素手で戦うのですね」
「うん。武器は偽物。形だけ」
素手といっても、ただ敵を殴るって感じではなく、敵の攻撃を止め、流し、拳を急所に叩きこむ、体術って感じです。
「かっこいいですね!」
「嬉しい」
剣で華麗に戦うシアさんもかっこいいですが、相手に合わせて流れるように動き、敵を捌くシアさんも惚れ惚れします!
「あの、こっちも頑張ってるんだけど……」
「あ、はい! スノーさんもキアラちゃんも凄いですよ!」
「とってつけたように言われても嬉しくないよ……」
そうはいっても……スノーさん達の魔法は最初こそ驚きましたが、ずっと見ていても変化がありませんからね。
「わかった……キアラユアンを驚かせよう」
「えぇ……あれをやるの?」
「うん。だって、シアばっかり見て悔しいからさ。シアが一番かもしれないけど、仲間には認められたいじゃん」
「ふふっ、負けず嫌いなだけだよね」
「違うしっ!」
「そういう事にしとくね。だけど、スノーさん体力は大丈夫?」
「何とかなると思う。このまま続ける方がつらいし」
「わかりました……ユアンさん、ちゃんと見ててね?」
むむむ……!
どうやらスノーさん達は大技を繰り出すつもりみたいですね。
「キアラ、制御は任せるよ」
「はい! 思いっきりやっちゃって!」
「うん!」
ゴブリンを呑みこんだ、渦の柱の間に追加の水柱が数本たちました。
「キアラ」
「うん、スノーさん」
スノーさんとキアラちゃんが手を繋ぎ、お互いの意志を確認するように頷き合います。
こんな光景を前に見た事があります。
二人が手を繋ぎ、お互いの魔力を呼応させるように、膨大となった魔力を操るといった光景をです。
そして、あの時も確かに精霊魔法でした!
操っている精霊は違いますが、スノーさん達はまるであの時の再現をしているように見えます。
トレンティアでの夜、ローゼさんとフルールさんが扱ったあの強力な精霊魔法を!
「荒れ狂う大海原のように」
新たに出現させた水の柱が、他の水の柱に繋がっていきます。
「全てを呑みこむ嵐となり」
繋がった水が一つになり、大きな渦となりました。
「海の王を目覚めさせる」
そして、それがまた一つの渦となりました。
その姿はまるで……。
「「
伝説の魔物と呼ばれる、レヴァイアサンを彷彿させました。
出会ったら最後、決して生きては帰れないと噂された魔物です。
僕がユージンさん達と倒した
国境で見た、あの封印された魔物と比べても遜色しない強さを持っていると言われているSランク指定……実際に存在するかもわからない、伝説の魔物を連想させたのです。
二人の魔法が次々とゴブリンを呑みこんでいきます。
呑みこまれたゴブリンの姿は見えません。
呑みこまれた瞬間に、姿を魔石に変えているのか、それとも水龍となった魔法の体内が凄まじく荒れているせいなのかはわかりませんが、次々と……いえ、一瞬でゴブリンの群れを消し去りました。
「すごい、すごいです!」
暴れまわる魔法を見て、僕は興奮しました!
精霊魔法は僕には使えませんし、その知識もありません。
なので、目の前で繰り広げられる光景は僕の想像をはるかに上回る光景だったのです!
「あ、そろそろ限界かも」
「えっ! もうちょっと頑張って!」
「ごめん、無理」
「あわわ……気をつけてください! 暴発します!」
「ふぇ?」
キアラちゃんが叫ぶと同時、僕たちの視界は塞がれました。
大量の水に。
「ユアンさんの防御魔法があって良かった……」
凄い事になっています。
僕たちの周りが一面水に覆われています。
防御魔法で水の侵入を拒んでいますが、もし防御魔法がなかったら大変な事になっています。
「はぁ……はぁ……ごめん」
「いえ、大丈夫ですよ」
「けど、どうする?」
「このままじゃ、ダメ……だよね?」
スノーさん達の活躍もあり、ゴブリンの群れは倒せましたが、その代わりに僕たちは水に囲まれています。
これは……場所によっては封印しないとダメかもしれませんね。
室内では勿論の事、人が沢山いるような場所で使ったら周りに被害がでます。
僕の獣化した時の炎と同じですね。
少なくとも、完全に制御できるまでは禁止とさせてもらいましょう。
それはさておき、今はこの水をどうするかです。
精霊魔法を使用した反動で動けなくなっているスノーさんを休憩させるためにも、僕たちは少し話し合いをする事になりました。
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