第212話 補助魔法使い、ローゼさん達を迎えに行く

 「えっと、この後はローゼさんを迎えに行けばいいのですよね?」

 「うん、よろしく。私は、アリア様を出迎える準備をしなきゃいけないからよろしくね」

 

 うぅ……何故か、凄く忙しい事になりました!


 「ユアンさん、その前に椅子と机を収納魔法から取り出して置いてください。移動は私達でやっとくので」

 「忘れてました……これで足りますかね?」

 「うん。大丈夫だよ……足りなかったらシノさんの所から借りてくるね」


 年の終わりに、街の領主として何かをしたい。

 スノーさんの思い付きで大変な事になりました。


 「ユアン。転移魔法陣の設置場所は終わった。今は、魔鼠たちと魔鳥達に守らせてる」

 「ありがとうございます。ローゼさん達はそちらの方から街に入って頂きますので、北の入り口の警備隊の配置をお願いしますね」

 「わかった」


 ふぅ……これでようやくローゼさんを迎えに行けますかね?

 少ない人数で沢山の人をおもてなしするのはとても大変です。

 しかもですよ?

 相手は王様であったり、貴族の人であったりするのです。

 例え知り合いであったとしても、失礼な事は出来ません。

 それに、前に顔を合わせているとはいえ、ローゼさんはルード帝国から来てくれるので、国同士のやりとりがあったとして記録される事になるみたいです。

 そして、ようやくローゼさんを迎えに行けると思った時、今度はリコさんに呼び止められました。

 

 「ユアンちゃん、このままだと食材が足りなくなりそうだよ」

 「それは大変ですね! えっと、これだけあれば足りますかね?」

 「うん、大丈夫かな? おーい、こっちも下ごしらえよろしく~」

 「おし、任せとけ!」


 厨房に威勢のいい声が響き渡りました。

 そして、冬の寒い時期にも関わらず、厨房の中に入るだけで汗が滲み出そうなくらい熱気が溢れています。

  僕たちがこの家に住みはじめてから、厨房がフル回転しているのを見るのは初めてですね。

 下ごしらえをする人、鍋を振るい料理を作る人、出来上がった料理を綺麗に盛り付ける人と分担して作業をしてくれています。

 

 「感謝しきれないですね」


 この光景をみて、僕はそう思わずにはいられません。

 実は、この人達はアリア様から派遣して頂いた料理人……ではなく、街の人なのです。

 元々、ナナシキの街に住んでいる人は、フォクシアの都で働いていた人ばかりだそうで、今手伝ってくれている人は、言ってしまえば宮殿料理人みたいな凄い人だった人です。

 今日まで本格的な料理を作る事はしてこなかったみたいですが、僕が見てもプロの人達とわかります。

 

 「では、後はお願いしますね」

 「お任せあれ~。っても私は見てるくらいしか出来ないけどね!」

 「僕たちの希望を伝えてくれるだけでもすごく助かりますよ」

 「そっかそっか。ま、自分の仕事はしっかりとこなしますかねぇ」


 それにリコさんは僕たちの家の事をよくわかってくれています。

 配膳の指示などもお願いしてありますので、決して見てるだけではないですからね」

 

 っと、僕ものんびりとはしていられませんね。

 日が落ちる前にローゼさんを迎えに行かないと行きませんからね。

 

 「やっと来たわね」

 「お待たせしました」

 

 転移魔法陣でトレンティアにある洞窟の移動をすると、既にフルールさんは綺麗なドレスを身に纏い待っていました。

 この様子だと、本当に待たせてしまったかもしれませんね。


 「大丈夫よ。ローラはさっき起きたばかりだから」

 「良かったです……ってさっきですか?」

 「そうよ。ま、珍しく夜更かしするつもりみたいだしね」

 「そういう事ですか」


 夜に備え、仮眠をとっていたみたいですね。

 

 「ローラちゃんに無理をさせているみたいで申し訳ないですね」

 「気にする必要はないわ。確かに、成長期って意味でなら良くはないかもしれないけど、一日くらい夜更かしたくらいじゃ影響はないわよ。それよりも、貴族のパーティーに参加する事の方が今度の経験に繋がると思うわね」


 貴族のパーティーだなんて大袈裟な……と思いましたが、確かにこれは貴族のパーティーとも言えますね。

 メインは街の人に楽しんで頂けるためのお祭りのつもりでしたけどね。


 「それじゃ、ローゼたちを連れてくるから少し待っていてくれる?」

 「はい、大丈夫ですよ」

 「ありがとう」


 いよいよですね!

 僕はトレンティアにくる頻度はとても高いです。それこそ、ほぼ毎日のようにトレンティアを訪れるくらいです。

 それでも、いつもとは違った理由ともなれば緊張せずにはいられませんよね。

 

 「お待たせしたのぉ」

 

 そんな事を考えながら待つ事、数十分。

 ローゼさんが僕の家にやってきました。


 「あ、ローゼさん。こんばんは……っと!」


 ドアの開く音で僕はローゼさん達が来たことに気付き、挨拶をしたのですが、それとほぼ同時に軽い衝撃を受けました。


 「ユアンお姉ちゃん!」

 

 その正体はローラちゃんでした。

 僕がローゼさんに挨拶をすると同時に、僕に飛びつくようにローラちゃんが突進してきたみたいです。


 「ローラちゃんもこんばんはです。でも、いきなり飛び出したら危ないですよ?」

 「すみません。でも、ユアンお姉ちゃんが約束を守ってくれないからです」

 「約束?」

 「むー……! また来てくれる、って言ったじゃないですか」

 「そういえば、そうでしたね」


 僕がトレンティアに来るとき、謂わばお忍びのような形で訪れていました。

 転移魔法陣の存在を悟られないためにです。

 なので知っているのはローゼさんとフルールさん。

 そして、ローゼさんの娘さんのロールさんだけです。

 なので、トレンティアを旅立ってからロールちゃんには会っていませんでした。

 この様子からすると、ずっと遊びに来るのを待っていてくれたのかもしれませんね。


 「すみません。色々と忙しかったので」

 「知っています。おばあちゃんから色々と聞きましたから」

 

 どうやら、僕たちの事は少しだけみたいですが耳に挟んでくれていたみたいです。

 そして、ローラちゃんがこの場に来たという事は……。


 「ローゼさん、ローラちゃんに……」

 「うむ。そろそろ頃合いじゃと思ったからな」

 「わかりました」

 「どうしたの?」

 「なんでもありませんよ。では、移動をしましょうか」


 内緒にしておいた転移魔法陣の存在をローラちゃんに教えると決めたみたいですね。

 それと同時に、僕たちの秘密となる事を教えるくらいに成長したとも捉えることも出来そうですね。

 何せ、転移魔法陣の存在は使い手が少なく、場合によっては危険ですからね。

 もし、無暗に話してしまうような事があれば、僕たちの関係性が崩れてしまう可能性も大いにあります。

 

 「けど、こんな時間に出発をしても大丈夫なのですか?」

 「大丈夫ですよ。あっという間ですからね」

 「でも……もうすぐ夜になっちゃいます」


 ローラちゃんが少し不安そうにしています。

 どうやら、転移魔法陣の事は何も教えていたいみたいですね。

 僕が単独でここまで迎えに来たくらいにしか思っていないようです。

 きっとですが、ローゼさんの悪い癖が出ているのだと思います。

 転移魔法陣を使い、驚くローラちゃんの様を見よう……そんな意図を感じます。


 「ローラちゃん、今から起きる事は、不思議な事かもしれませんが、僕の事を信じてくれますか?」

 「はい! ユアンお姉ちゃんには沢山さん助けて頂きましたので、今更です」

 「ありがとうございます。では、ご案内しますね……ローゼさん、ロール様とフィリップ様はいいのですか?」

 「構わぬぞ。あの二人は二人でこの街の年越しを取り仕切る必要がある。トレンティアでも年越しを祝う風習があるからな」


 そんな中で、ローゼさんとローラちゃんは僕たちの誘いを受けてくださったみたいです。

 有難いと思いますが、良かったのか不安になりますね。


 「構わぬよ。ローラの勉強にもなるじゃろうからな。それに、たまには他の街で年を越すのも一興じゃ」

 「そういう事ですね」


 表向きはローラちゃんの勉強とし、本当はいつもと違った年越しを過ごしたいといった本音が聞こえた気がします。


 「けど、護衛もつけずに大丈夫なのですか?」

 「平気よ。私が居るからね」

 「確かに……フルールさんが居るのなら、どんな相手が来ても大丈夫ですね」

 

 そんじょそこらの護衛よりもよっぽど頼りになる人が護衛なら心配はいりませんね。

 フルールさんに勝てる人なんてこの世界でどれくらい居るのかわかりませんし。

 それこそ、Aランククラスのドラゴンでもきっと一捻りで倒してしまいそうですし。


 「ユアンが私の事をどう思っているか良くわかったわ。その期待に応えて搾取ドレインの使い方をよ~く教えてあげるわね?」

 「な、何でそうなるのですか! 僕はフルールさんが強い人だから安心しただけですからね!」

 「あら、そうなの? てっきり、私を化物みたいな目で見ている気がしたけど気のせいだったのかしら?」

 「気のせいですよ!」


 うー……怖いです。

 僕が関わる人は何故か勘が鋭い人が多い気がします。

 みんなは僕は顔に出やすいと言いますが、実際は違うと思いますよ。たぶん。

 それはさておき、時間が遅くなると何も知らないローラちゃんを無駄に心配させてしまいますし、移動しなければいけませんね。


 「ローラちゃん、今から起こる事は僕たちの秘密になりますので、誰にも言わないと誓えますか?」

 「はい! 大丈夫です、誰にも言いません!」

 「約束ですからね。それじゃ、僕と一緒にこの魔法陣に乗ってください」

 「わかりました……」


 僕が転移魔法陣に魔力を流すと、転移魔法陣がうっすらと発光しました。

 僕もこうみえて成長しています。

 前は転移魔法陣はそのまま置いてあったのですが、最近は誰かに見つかる可能性を出来る限り減らす為に、隠蔽バニッシュと組み合わせて転移魔法陣を隠すようにしています。

 一応、複合魔法になりますので実は普通の転移魔法陣よりも難易度が高かったりもしますが、それは別のお話ですね。


 「ユアンお姉ちゃん……」

 「大丈夫ですよ。ちょっと体ふわっと浮くような気がするだけです。僕を信じてくださいね」

 「はい……手を握ってもいいですか?」

 「はい。どうぞ」


 差し出した手をぎゅっとローラちゃんが握ります。

 可愛いですね。

 本物の妹が居たらこんな感じでしょうか?

 

 「ローゼさん、先に向こうに行きますが、もう一度戻ってきますので、少しだけお待ちください」

 「構わぬよ。ローラを一人にさせるわけにはいかぬから、そっちで待っといてくれ」

 「わかりました。繋いだ先はいつもと違いますので、移動先の景色が違う事だけ気をつけてくださいね」

 「わかったぞ」


 僕の家の地下だと思って飛んだら、森の中だったとなると、驚く可能性がありますので、そこは伝えておかないとですね。

 という訳で、ローゼさん一行をナナシキの街にご案内です!

 と言っても、たった三人ですけどね。

 けど、その三人はルードでも重要な人物とこれからそうなっていくであろう子です。

 ここでのおもてなしは、かなり重要になるとアカネさんは言っていましたので、責任は重大です。

 

 「では、お先に失礼します。ローラちゃん、準備はいいですか?」

 「何が起きるかわかりませんが、よろしくお願いします……手は離さないでくださいね?」

 「大丈夫ですよ。では、行きますね」


 転移魔法陣に魔力を流します。

 目指すはナナシキから北にある森の中です。

 年を跨ぐまであと数時間。

 僕はローゼさん達をナナシキに案内するために再びナナシキへと戻るのでした。

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