第209話 補助魔法使い、ギルド職員に会う

 今日あたりには、ギルド職員の方が到着するとスノーさんから聞かされていますが、一体どんな人が来るのでしょうか?

 冒険者活動をしてきましたが、実は冒険者ギルドの事って僕は詳しくないのですよね。

 もちろん冒険者なので依頼ボードを見て、依頼を受けては来ましたが、僕が受けてきたのは薬草の採取など、戦闘能力が低くてもこなせるような依頼ばかりでした。

 それに、僕は何だかんだBランクまでランクが上がっていますが、上がったのは弓月の刻をシアさんと組んでからですしね。

 オークを討伐し、それまでの功績を含めて認められ一気にCランクにあがり、スノーさんとキアラちゃんが参加してBランクに上がりました。

 その間、僕たちは依頼ボードを利用していないので、気づいたらBランクだったという感じです。

 なので、ギルドって正直よくわかりません。


 「ユアンちゃん、今日もありがとうね」

 「はい、こちらこそです」


 まぁ、ギルド職員を案内するのは僕だけでなく、弓月の刻全員で受ける事になるので気にしても仕方ないですよね。

 という訳で、僕が今やる事はお仕事の方が大事ですよね。

 いつも通り、僕の元を訪れてくる街の人とお話をし、列がどんどんと短くなっていきます。

 今日の午前中のお仕事も終わりですね。

 朝、チヨリさんとポーションなどの品物を準備し、その後に街の人の診療をし、休憩を少し挟んだ後に、午後にはトレンティアに魔法水を貰いに行き、そのついでにポーションを卸す。

 これが何もない日の僕の日課です。

 もう少しでご飯が食べられる。

 そんな時でした。


 「あ、あれ!? なんで、ユージンさん達がいるのですか?」


 列の最後尾に、気づいたらユージンさん達、火龍の翼の皆さんが並んでいました」

 「久しぶりだな」

 「はい、お久しぶりです。元気そうで何よりです」

 「がはははっ! それだけが取り柄だからな」

 「ちょっと、それだと私達までそれだけが取り柄だと思われるじゃない」

 「確かに心外。ロイと一緒にされるのは困る」


 相変わらず、仲良さそうで何よりですね!


 「それで、皆さんは何しに来たのですか?」

 「そりゃ、嬢ちゃんに礼をするためさ」

 「ユアン達、気づいたら居なかったからね」

 

 あ……そういえば、あの時に何かを忘れていると思いましたが、ユージンさん達の事でした!

 戦いが終わり、白天狐の皇子様に呼ばれ、領地を渡され、色々ありすぎて完全に忘れていました!


 「なんか、すみません」

 「気にするな。俺達も気にしていないからな」

 「うそつき。ユアン達が居なくなってへこんでた」

 「そんな事ないからな?」


 エルさんが言ったのは冗談かもしれませんが、一緒に戦った仲なのにちょっと酷いことをしてしまいましたね。


 「ま、これから暫くはこの街に滞在する事になるから本当に気にしなくていいからな」

 「え、そうなのですか?」

 「そうよ。ついでに、私達の拠点も考えているわね」

 「拠点?」

 「何処かいい場所があったら家を買うつもり」

 「出来ればでかい家の方が助かるな!」

 「いらないわよ。そもそも男女はしっかり分けるからね」


 驚きました!

 なんと、ユージンさん達はこの街に拠点を構えるつもりみたいです!

 しかも、男女で分かれると言っていましたし、二軒も買うつもりでいるみたいです。


 「あ、あの……お金の方は大丈夫なのですか?」

 「嬢ちゃんにその心配をされるとは思わなかったが……これでもAランク冒険者だぞ」

 「あ、そうですよね」


 逆に心配する方が失礼でしたね。

 ユージンさん達は数少ないAランク冒険者ですので、何かを依頼をすると自然と高くなりますので、お金が貯まるのは当たり前でしたね。

 

 「それに、この前の一件で皇女様から結構な額を貰ったしね」

 「余裕で一軒家が建つ」

 「むしろ余るくらいだな!」


 僕は言葉を失いました。

 あの一件だけで、家が建つほどのお金ですか……僕たちが半年以上かけて貯めたお金をそれだけで稼ぐ。

 これがAランク冒険者とBランク冒険者の違いかもしれませんね。

 僕たちもお家はありますが、アリア様とシノさんのコネで頂いたような物で、自分たちで買った訳ではありませんからね。

 そんな中、ユージンさん達の後ろからひょっこりと顔を出し、僕の事を見ている人がいました。


 しかも、僕たちが前にお世話になった人です。


 「あ、……確かー……ミノリさんでしたよね? えっと、もしかしてこの街のギルド職員になる人ってミノリさん達ですか?」

 

 そうです。

 タンザの街で、僕に行方不明になった人を探すのは危ないとこっそり教えてくれたり、その事件が終わった後にスノーとキアラちゃんが弓月の刻に加入する手続きをしてくれた受付のお姉さんでした、

 こんな所でまた会えるなんて、凄い偶然ですよね!

 顔馴染みの人に久しぶりに会えると、ちょっとワクワクするのは僕だけでしょうか?

 もちろん、嫌な思い出がある人と出会うと嫌な気分になりますが、ミノリさんは僕たちに親切に接してくれましたので、会えて嬉しい人です。


 「えっと、誰?」


 ですが、ミノリさんは僕の事を覚えていなかったみたいです……。


 「僕ですよ僕!」

 「うーん……何処かで会った事あるような気もするけど……」


 むむむ……本当に思い出せないみたいですね。

 そういえば、前にも同じような事がありましたね。

 あの時もタンザでした。

 ザックさんのお店に行った時に、ルイーダさんに僕の事を忘れられていた時がありました。

 その教訓を活かす時が来たようです!


 「それじゃ、これでどうですか?」


 最近は髪留めを外しているので、僕は髪留めをつけ、髪の色を金色に変えます。


 「あ…・・・あぁ! 弓月の刻のユアンさん!」

 「はい、ユアンです!」


 やっぱりですね!

 あの時もフードを被っていたからその印象が強かったとルイーダさんに言われました。

 きっと、ミノリさんと会った時、僕は金色に髪を変えていたのでそのせいかと思いましたが、正解だったみたいです。


 「お久しぶりですね!」

 「お久しぶりです。まさか、ユアンさんが居るとは思いませんでしたよ」

 「僕もです。ギルドの人が来るとは聞いていましたが、まさかミノリさんだとは思いませんでした」


 不思議な縁というものがありますね。

 

 「それで、ユアンさんが何故、黒天狐…・・・忌み子と呼ばれる存在の真似なんかしているのですか?」

 「え?」


 その瞬間でした、僕の周りの空気が冷えついた気がしました。

 そして、まるで魔物の群れに囲まれたような緊張感があたりに漂っています。

 どうやら、街の人達が僕たちのやり取りに耳を傾けていて、街の人が聞いてしまったみたいです。


 「受付嬢さんよ、それは禁句だ。すぐに訂正して謝った方がいい」

 「そうね。今のは明らかに失言よ」


 すかさず、ユージンさんとルカさんが受付嬢さんのフォローに回ってくれました。

 この緊張感の中、臆せず冷静に状況を判断するのは流石ですね。


 「申し訳ございません。人族の歴史にとらわれ、皆さまのご気持ちを踏みにじるような発言をしてしまったことを、お詫び申し上げます」


 ミノリさんが深々と僕に向かって頭を下げています。

 

  「大丈夫ですよ。ミノリさんはルード領で僕たちに良くしてくれた一人ですからね。ちょっとした勘違いはよくある事ですからね」


 街の人に言い聞かせるように、ミノリさんは悪い人ではないとみんなに伝えます。

 そのお陰か、少しだけピリついた雰囲気が和らいだ気もします。


 「受付嬢さん。この街で、いや……この国で上手くやろうと思ったらその国の歴史を知る事だ」

 「ちょっとした偏見が誤解を生む。くれぐれも忘れない事ね」

 「肝に銘じておきます」


 ユージンさんとルカさんがミノリさんを叱っています。

 けど、その理由はわかります。

 同じ人族の人が怒る事で、街の人が怒りにくい状況を作ると同時に、ミノリさんの発言に悪意はなかったと知らせる為だと思います。


 「ユアンさん、これからお世話になると思いますが、よろしくお願いします」

 「はい! こちらこそです。僕たちとしてもミノリさんが来てくれたのなら安心ですからね」


 街の人に伝えるという目的もありますが、これは本音です。

 僕たちのパーティー結成を見届けてくれた人でもありますからね。何よりも、あの一件で気に掛けてくれたのは本当の事です。


 「チヨリさん、この後ですが……」

 「うむー。任せておけ。ちゃんと説明しとくなー」

 「ありがとうございます」


 仕事を抜ける事をあっさりと許してくれますし、街の人にも説明してくれるみたいです。

 チヨリさんは子供みたいな見た目ですけど、本当に頼りになる方で助かります。


 「では、ここで立ち話するのもアレなので、ご案内しますね。ユージンさん達はどうしますか?」

 「邪魔でないならついて行ってもいいか?」

 「はい! お家を探しているのですよね? ついでにそちらもご案内しますね」


 空気が若干和らいだとはいえ、まだ街の人はミノリさんを厳しい目で見ている気がします。

 そんな場所にいつまでも居るのは辛いですよね。僕だったら耐えられない自信があります。

 なので、僕はミノリさん達とユージンさん達をスノーさんが待つ領主の館に速やかに連れていく事にしました。


 「ユアンさん、本当にすみません」

 「気にしてませんよ。ミノリさんに悪意がないってわかっていますし、何よりも慣れてますからね」

 「それでもです……後で、詳しく教えて頂けますか?」

 「…………ミノリさんが黒天狐という存在が嫌でないのなら」


 これは大事です。

 別に、僕が忌み子と呼ばれるのは構いません。

 ですが、さっきの反応から街の人はどうやら忌み子というワードに敏感みたいですからね。

 今後、ミノリさんが僕を嫌がるようでしたら、ミノリさんが嫌な思いをする事になると思います。


 「問題ありません。それに、私達は他に行く宛はありませんので」


 どうやら、ミノリさんはミノリさん達で問題を抱えているみたいですね。

 その辺の話も聞いておいた方がいいかもしれませんね。

 お互いの間に妙な壁があるように感じます。

 正直、こういう雰囲気は苦手です!

 好きなら好き、嫌いな嫌いとはっきりしている方が楽です。

 僕はミノリさんの事が嫌いではありません。なのに壁があるとどうしていいのかわからなくなります。

 そんな時は、仲間を頼るのが一番ですね。

 僕は、スノーさん達の元に向かう為、少しだけ歩く速度を速めました。

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