第147話 ひと休み

 「魔物?」

 

 上空高く、飛んでいた鳥が僕たちへ目掛け真っすぐ急降下してくるのを視界に捉えました。


 「違う。使い魔」

 「あぁ、キティさんのですね」


 会話をしながらも、回復魔法を使用し、癒せる人は癒すの忘れてはいけません。

 

 「忘れてた」

 「え? 何がですか?」

 「私達の居場所、スノーに伝えるの私」

 「そういえば、そうでしたね」


 といっても、スノーさん達が皇女様の元へと向かい、それが何時終わるのかまではわかりませんからね。仕方ないです。


 「ちょっと、迎えを送る」

 「アレですね。お願いします」

 「…………いけ」


 シアさんとの契約魔法で僕たちはお互いを高めあっています。

 僕は身体能力、シアさんは幾つかの魔法と魔力の器が出会った頃に比べ増えています。

 一般の魔法使い、まではいきませんが、シアさんもかなり魔力の器が大きくなりましたね。主に僕が苦手とする闇魔法がメインになりますけど。

 そして、シアさんが今使ったのも闇魔法の一種です。

 僕たちと並走するように、全身真っ黒の……目玉も口もない狼が走っています。

 まさにこれが影狼ですね。

 そして、シアさんが指示を出すと、影狼が僕たちの陰に潜り込み、その姿を消しました。


 「これでスノーさん達の元に向かってくれるのですね」

 「うん。スノーの匂いはわかる」

 「この状況で……凄いですね」


 僕の鼻に届くのは血の匂いばかりですからね。


 「闇魔法は記憶。その本質がわかれば勝手に探してくれる」

 「面白い考え方ですね」


 闇魔法は記憶、ですか。

 シアさんは直感でそう感じたみたいですね。僕の場合は闇魔法は闇魔法。そういった理論が成り立っている、と思ってしまうのでそういった発想には至りません。

 

 「逆に私は理論がわからない。だから、ユアンよりも効率が悪い」

 「いえ、突き詰めれば変わりますよ」


 魔法はイメージ。僕は理論でイメージを高めます。ですが、シアさんのようにイメージだけで固めるのも効果は高いと思います。

 スノーさんの精霊魔法なんかもそうですしね。


 「うん、頑張る。ユアンの光は未来。光と闇が混ざればきっと可能性は無限」

 「そうですね。僕たちが得意とするのは光と闇。光が未来、闇が記憶……つまりは過去。次元魔法の理論にも当てはまりますね」


 次元魔法は高度になるほど、時を操ると言いますし、シアさんの感覚は間違っていないかもしれませんね。

 僕の収納魔法も次元魔法に当てはまりますが、時間の経過がしません。

 と、そんな話をしている暇はありません。


 「とりあえず、スノーさん達と合流しやすいように、戻りましょう」

 「わかった」


 とりあえず、中央辺りまで戻って来れましたし、上手くいけば僕たちが前衛の間を一往復し終える頃には上手く合流できるかもしれませんしね。

 

 「もうすぐ、抜けます」

 「スノー達はまだ」

 「少し待つしかありませんね」

 「うん。もう一往復する時間はない。直ぐ来る。その間にユアンも魔力回復する」

 「うん、わかった」


 私達は少し休憩ね。

 馬にも無理をさせたし、この後も働かせる事になる。

 ルード軍から距離を少しとり、シアが馬を止めた。


 「シア、これで馬に水を与えてあげて」

 「任せる」


 桶に水を張り、シアに渡す。

 その間、私は効率はあまりよくないけど、辺りに漂う魔素を搾取ドレインで集める。

 少しずつ、私の身体に魔力が集まるのがわかる。

 闇魔法は魔力の消費が多い。それを僅かに上回っている程度、だけどその少しがこの後に大きな影響があるかもしれない。

 これなら防御魔法と組み合わせて、一気に集めても良かったかな。

 だけど、直ぐに移動となった場合、無駄になる可能性もあるし、その判断は難しい。

 ただ、歩くだけなら問題はないけど、兵士達の回復もしなきゃいけないからね。

 持続的に展開するとなるとただドーム型の防御魔法を使うのと違って、常に搾取ドレインも意識しなければならない。

 と考えると、こっちの選択で良かったかな。

 暫く……僅かだけど体感5分ほど搾取ドレインを続けていると馬の世話を終えたシアが私の隣に立った。

 そして、私の事をジッと見つめている。


 「……シア、どうしたの?」

 「うん、今のユアンもかっこいい」

 「いつもと変わらないよ」

 「うん。だけど、かっこいい」

 「ありがとう。シアもかっこいいよ、いつもね」


 ふふっ、シアが照れてる。

 それが可愛くて、私はシアの頭を撫でたくなり、休憩中だし構わないとシアの頭を撫でる。さらさらの髪が指の隙間を通り抜け、気持ちいい。

 撫でるとシアが嬉しそうに目を細めた。

 可愛い。

 もっと、触りたい。

 頬を撫で、首をくすぐる。


 「ユアン、眠くなる」

 

 今にもゴロゴロ喉を鳴らしそう。

 まるで子猫みたい。いや、シアは狼だから子犬……も違うか、子狼ってとこか。

 親や恋人のように甘えるようにすり寄ってくるのが堪らなく愛くるしい。

 

 「何、やってるの?」

 「私達、心配して急いで来たのですけど……」


 気が付くと、いつの間にかキアラちゃんとスノーさんが近くまで来ていました。

 いえ、一応探知魔法で近づいているのはわかっていましたけど、スノーさん達だとわかったので、スルーしてただけです。


 「休憩」

 「はい、ちょっと休憩です。魔力と馬を休ませていました」

 「こんな場所で? まぁ、馬の事はわかるけど」

 「イチャイチャするのは戦場ではなく、家でしてくださいね?」


 別にイチャイチャしてた訳じゃないですけどね。

 立派な休憩ですから!

 

 「それよりも、そっちはもういいのですか?」

 「何か話をすり替えられた気がするけど、ま、いっか。無事に終わったよ」

 「皇女様達はどうするのですか?」

 「様子見、みたいだね。エメリア様達が動かせるのは護衛騎士団くらいしかいないからね。下手に参戦しても邪魔になるし、色々と危険だからね」


 軍を動かす権限は与えられていないみたいですからね。

 何かあった際は自分たちでどうにかするしかないようです。皇子様から手助けがくるという保証もありませんし、仕方ないですね。


 「あと、私。騎士を辞めてきたよ」

 「え?」

 

 スノーさんが騎士を?


 「何でですか?」

 「詳しくは後で説明するよ。ちょっと経緯が長くなりそうだからね」

 「わかりました」


 スノーさんなりに考えた結果ですし、僕がどうこう言う問題ではありませんからね。


 「という事は、スノーさんは……今から」

 「無職」

 「どうしてそうなるのかな!?」


 ぼ、僕の意見ではないですからね!

 僕はそんな事を思っていませんし、ちゃんと違う事を言うつもりでしたよ!

 あ、でもちょっとお家でお菓子を食べて、ソファーに寝転んでいるスノーさんの姿は想像できますね。


 「二人が私の事をどう思っているかよくわかった気がする。ねぇ、キアラ……二人で新しくパーティでも作る?」

 「え? えぇっ!?」

 

 キアラちゃんが困ってます。

 そして、それは僕も困ります!


 「えっと、スノーさん冗談ですよね?」

 「どうだろうね? なんだか、私の事必要としていないみたいだし」

 「そんな事ないですよ! ねっ、シアさん!」

 「必要。スノーとキアラが居れば、戦略広がるし、安心して前に出れる」

 「だ、そうですよ! スノーさんもキアラちゃんも僕たち、弓月の刻に欠かせないメンバーです」


 シアさんと二人きり。

 それはそれで、いい所もあります。

 ですが、そこに二人が加われば心強いですし、何よりも楽しいですからね!


 「だってさ、キアラ」

 「もぉ、私は最初から抜けるつもりはないよ」

 「うん、私もだよ。という事で、今日から正式に弓月の刻の一員として生きていくつもりだけど、いいかな?」


 勿論、答えは決まっています!


 「あれ、反応がないけど」

 「言うまでもないって事、これで十分」


 シアさんが手を差し出します。

 

 「ま、これでいいか。よろしく」

 「なら、僕も」

 「私もです」


 懐かしいですね!

 タンザのギルドで一度やりましたが、あれは仮でしたからね。


 「今回はシアは逃げないね」

 「別に、逃げてない」

 「あれはずるかったです」

 「覚えてない」

 

 あくまで白を切るつもりみたいですね。

 ですが、あの時ちゃんと罰は与えましたし、清算は済んでいます。

 

 「とにかく、今この時より、弓月の刻は本当の意味で一つになりました。まだ、戦いは続いています。無事に終わらせましょう」

 「うん、任せる」

 「そうだね、お祝いはその後だね」

 「みんなで笑う為にも頑張ります!」

 「では、休憩はここまでとして、再び前線に戻ります……準備はいいですか?」


 僕の言葉にみんなが頷きます。


 「では、いきま……!?」


 と思った瞬間、森が震えました。

 そして、森から次々に影が飛び出してきます。

 それも、地上ではなく、上空に向けです。


 「鳥型の魔物」

 「しかも、何かを掴んでます」

 「ゴブリン……あの色は変異種かな?」

 「変異種って事は……」


 通常のゴブリンは緑がかった色をしているのに対し、変異種は灰色の肌をしているのが特徴です。

 トレンティアで戦ったゴブリンと同じ色をしているので、間違いなく変異種だと思います。

 そして、変異種。それが意味するのは。


 「魔族」

 「だろうね」

 「やっぱり関係していましたか」

 「鳥型の魔物とゴブリンが協力するなんて聞いた事がないです」


 そして、その鳥型の魔物とゴブリンは大盾部隊と槍部隊を超え、弓と魔法部隊へと急降下していきます。

 当然、上空の敵とあって、弓と魔法で迎撃していますが、空の魔物を打ち落とせば、それが落下物となり兵士達を襲い、その攻撃を掻い潜った鳥型の魔物たちがゴブリンを次々と弓と魔法部隊の中へ投入していきます。

 そして、更に状況は悪化していきます。


 「オーガも出てきた」

 「あれも変異種ですね」

 「通常個体も混ざってるね」

 「だけど、変異種の再生は厄介です」


 森の地上からはオーガ達の群れが現れました。

 魔物たちは地上と上空の2面で攻撃を仕掛けてきたようです。


 「急ぎましょう!」

 「どっちを助ける?」

 「遠距離部隊かな」

 「接近戦は苦手だと思うから、そっちの方が良さそうですね」


 それに、前線はまだ防御魔法の効果がある筈です。少しの間なら耐えれそうですしね。

 

 「ルード軍の方にも動きがありますね」


 魔物たちの動きに合わせ、ルード軍の後方にも動きがあります。


 「上手く合わせましょう」


 といっても、軍団相手に僕たち4人が出来る事は限られています。

 その中で、何ができるか判断しないといけませんね。

 僕たちは、魔法と弓部隊の援護をするべく、馬を再び走らせるのでした。

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