第108話 弓月の刻、新たな拠点を得る
「あぁ……私の配置が……」
いやー、すっきりしましたね!
散らばっていた本や何の用とに使うのかもわからない
「これからは整理整頓を心がけてくださいね?」
「これじゃ、何処に何があるかわからないじゃないか!」
「ちゃんと纏めてありますよ?」
本は本棚に、
「違う! あの配置だからこそ、調べるのに必要な資料をすぐに見つけられたのだ。それを片付けよって……」
どうやらガロさんは今の配置がお気に召さなかったようですね。
「問題ない。片付けてもどうせ散らかすタイプ」
「そういうものですか?」
「イル姉と同じ」
シアさんのお姉さんであるイルミナさんも同じタイプだとシアさんは言います。
「その割には綺麗なお店でしたよ?」
「従業員のお陰。一人だとずぼら」
「意外ですね」
イルミナさんは創るだけ創ったのはいいですが、その後には次の制作に頭が向いてしまうとシアさんは言います。
「で、これからどうするの?」
「これからとは?」
「ユアン、本気で忘れている訳じゃないよね?」
「はい? 忘れていませんよ?」
片付け終わりましたし、次は掃除ですよね。
「違う。考える事ある」
「封印された魔物に、ルード軍の事ですね」
「他にもエメリア様から預かった手紙の事もあるかな」
「そ、そうでした……急いで掃除を終わらせないとですね!」
掃除するには掃除道具が必要ですね!
えっと、水を入れておける桶にいらない布などがー……。
「違う」
「痛いです!」
いえ、痛くはないですが頭をはたかれ反射的に言ってしまいました。
「シアさん、酷いですよ?」
「ごめん。だけど、今やる事ではない」
「そうね。今はこんな事やってる暇はないよ」
「時間はあるようでないですからね。この間にも少しずつ猶予は減っています」
それはそうですけど。
「まぁ、あれだ。とりあえず、封印された魔物の事でも調べてみるがいいさ」
「そうですね。ここでジッとしていても何も始まりませんね」
「そうだ、だから私の用も済んだことだし、早々に旅立つがいい」
「ですが、まだ夜ですよ?」
「だからこそだ。何が言いたいかと言うと、これ以上荒らされても敵わないから出ていけ!」
「わっ!」
体が宙に浮いたかと思うと、気づけば小屋の外に放り出されていました。
「よいしょ」
「うぐっ」
「きゃっ!」
そして同じようにシアさん、スノーさん、キアラちゃんが家の中から飛び出てきます。
シアさんは着地しましたが、スノーさんとキアラは重なるように地面に倒れています。
「どうしましょか」
「まだ夜」
「少しは休んだ方がいいかな」
「正直、眠いです」
野営の支度だけし、寝ずにここまで来てますからね。僕も正直眠いです。
ただ、何処で休むかが問題になりますね。
「街の好きな家で休むがいい。そこに転移魔法が使えるなら置いておけ。管理は私が少しだけ手伝ってやる。まぁ、私を信用するのならだがな」
「ありがとうございます」
信用できるかと聞かれれば、わからないとしか答えられません。
ですが、ガロさんの能力や強さを考えれば、僕たちをどうにかしようと思ったら、いつでもどうにか出来ると思います。
わざわざ、僕たちを油断させて襲う理由が思い浮かばないので、ガロさんの好意に甘えようと思います。
「だが、転移魔法を使って此処を訪れたら、食べ物は頼むな? それと、家を自由に使っていいとは言ったが、絶対に荒らすなよ? 壊すなよ?」
どうやら目的は僕たちが持っている食料のようですね。ある意味、利害が一致したのではないでしょうか?
お菓子やご飯ならトレンティアで補給できますから僕たちなら無理な事ではないですしね。
そういう訳で、僕たちが止まれそうな家探しですが……。
「外見は綺麗でも中が……」
「汚い」
「色々と物色した跡って感じね」
「どちらにしても片付ける必要がありそうです……」
綺麗な外見で良さそうな家に入ってみるも、物が散乱している家ばかりでした。
「誰がこんな事をしたのでしょうか?」
「盗賊とかかな?」
「違う、ガロ」
シアさんの予想では、散乱しているのはどれも今の世界で手に入る物ばかりだと言います。
確かに、古いですが普通に店で売っているようなものばかりですね。
その反対に珍しいと思える物が一切みつかりません。
「ガロさんの家にあった
「なんか、空き巣みたいなやり方ですね」
「まぁ、管理者だしいいんじゃない?」
それもそうですね。
ガロさんが管理している以上、僕たちがどうこう言っても仕方がありません。
本人は僕たちに荒らすなだの壊すなだの言っていましたが、僕たちとガロさんの立場は違いますしね。
そもそも、ガロさんにとってこの程度のなら荒らしたうちに入らないのかもしれませんけど。
「どこも同じなら、ここでいいですよね?」
「うん」
「転移魔法陣を置ければ問題ないかな」
「そうですね。休むならトレンティアのお家もありますしね」
キアラちゃんの言う通り、ここで休むよりもトレンティアの家の方がベッドもお風呂もありますし快適です。
ちなみに、僕たちが言う家とは洞窟の方の家の事です。湖の家はあくまで借りている状態ですからね。
「問題は、この場所でうまく発動してくれるかですね」
「問題ない」
「ガロさんが管理してくれるって言ってたくらいだし、転移魔法陣は大丈夫なんじゃない?」
「うん、試してみないとわからないです」
それもそうです。
まずは、転移魔法陣を使ってみない事にはわかりません。
散乱している物を手分けして片付け、僕は転移魔法陣を描きます。床にではなく、予備として頂いたフルールさん特性の木の板にです。
「上手」
「はい、少し慣れてきました」
初めて描いた時よりも格段に速く仕上げる事が出来ました。
それでも、失敗するとどうなるのかわかりませんので、慎重にですけどね。
そして、魔力を流せば完成です。
成功していれば、洞窟の家の魔法陣に繋がった筈です。
「それじゃ、ちょっと行ってきますね」
「待つ」
僕が転移魔法陣に乗ろうとすると、シアさんに止められました。
「別にユアンが試す必要ない」
「ですが、自分が描いたのですから、自分で責任をとるのが普通ですよ?」
もし失敗していた時、他の人が犠牲になるのは申し訳ないですからね。むしろ、申し訳ないで済めばいいですが、何処か知らない場所、脱出できない場所に繋がっていたら大変です。
「それなら、ラディに頼みましょう……ラディ!」
キアラちゃんが召喚魔法を使います。
「呼んだ?」
「うん、お願いがあるんだけど」
「……また、おつかい? それよりも、何か変な空気が流れてるね。僕は歓迎されてないみたいだよ」
ラディくんが随分と流暢に話せるようになってますね!
「辛い?」
「そんな事はないけど、契約魔法の繋がりを奪われそうな感じがする」
ダンジョンみたいな場所とガロさんは言っていましたし、その影響でしょうか?
ガロさんもエイプを操っていましたし。
「ごめんね」
「平気。それで、何をするの?」
「転移魔法陣がちゃんとトレンティアに繋がっているか試してほしいんだけど、頼める?」
「……僕の配下でいいなら」
ラディくんが嫌なのも無理はありません。
知識、知恵がある者なら進んで危険があるとわかって事をしたくはありませんよね。
「ラディが出来るならそれでいいよ」
「わかった」
ラディくんが2足歩行で立ち上がり、頷くと、ラディくんの周りに召喚魔法が浮かび上がります。
「ジュッ!」
「ちょっと、そこの魔法陣に乗って、繋がった先を見てきて」
「ジ、ジュジュッ……」
召喚獣が召喚するって凄いですよね。それに、ラディくんの配下も頭がいいようで、ラディくんからの命令に戸惑いを見せていました。
それでも言う事を聞く当たり、ラディくんの命令には逆らえないようですけどね。
「……何処かの倉庫、みたいな場所に出たって」
「外の様子はわかる?」
「待って……うん、そのまま外に……ジュッ!……洞窟、外に川、滝が見える……わかった。戻って良いよ」
ラディくんが配下の魔鼠から情報を受け取り、僕たちに伝えてくれます。
話を聞いた限り、無事にトレンティアの家に繋がったようです。
「それじゃ、安全だとわかりましたし、向こうで休みましょう」
元龍人族が住んでいた街では魔法が妨害されるようでしたが、転移魔法陣は問題なかったようで一安心です。
ガロさんは熟練度と言っていましたが、また別の要素もありそうですね。
転移魔法陣は覚えたてで使った回数も少なく、熟練度で考えればかなり浅いと思いますからね。
ですが、それを考えようにも、あまりにも眠すぎました。
森を移動し、エイプと戦い、ガロさんの話を遅くまで聞いて、掃除までしていましたからね。
僕だけでなく、みんなもそろそろ辛くなってくる頃だと思います。
僕たちは、今日の所はトレンティアで休む事に決めました。
もしかしたら、数日間はここを拠点に封印された魔物の事を調べる事になるかもしれないので、偶然なのか運命なのか、どちらにしても転移魔法陣を設置できる場所があって良かったです。
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