第81話 弓月の刻、魔物と戦う
魔物の姿を改めて観察すると、変異種ではありますが、ゴブリンの上位種である、オーガがベースとなっている事がわかりました。
僕が聞いた事のあるオーガよりもかなり大きいですけどね。
オーガは2メートルほどしか身長はありませんから。それでも、大きいですけど。
っと、見ている場合ではありません。
シアさんとスノーさんが魔物を足止めしてくれている間に僕はやらなければいけない事があります。
「
個人を回復する魔法と違い、範囲内にいる相手を回復する魔法です。
もちろん、魔物には適応されませんのでご安心を、ちゃんと相手を指定し、狙っていますからね。
「僕たちが足止めをしているので、今のうちに避難をお願いします!」
気を失っていた冒険者達がゆっくりと身を起こしたのを確認し、声をかけます。
「助けがきたぞ、早く動け!」
最後まで戦っていた冒険者が起き上がった冒険者の尻を叩いて急かしました。
言葉の意味だけならいいのですが、リアルにやられているので、少し可哀想です。というか蹴られてますね。
「すまない」
「いえ、それよりも後は僕たちに任せて早く避難をしてください。そして、できればギルドに報告をお願いします」
「弓月の刻だったな……この礼は必ずする」
僕たちの事を知っている冒険者みたいでしたね。もしかしたら、初めてトレンティアのギルドに行った時に居合わせた人かもしれません。
リーダーと思われる男性が頭を軽く下げ、仲間に撤退の指示を出し、この場を離れていきます。
僕たち、女性パーティーを見下す冒険者でなくて良かったです。
冒険者によっては、ここで揉めてくる人たちもいますからね。
まぁ、その場合は助ける必要性がないので僕たちが撤退しますけどね。
「ユアン、もういい?」
「はい、存分にお願いします!」
邪魔者と言っては悪いですが、これで周りを気にせずに戦う事ができます。
「私も参加しますね」
「はい、お願いします」
敵がオーガだけとは限らないのでキアラちゃんは主に周囲の警戒をしていました。
もちろん、弓矢で援護をしながらです。
「では、ちゃちゃっと倒しましょう」
「どうやって?」
シアさんがオーガの攻撃を躱しながら訪ねてきます。
「シアさんとスノーさんは引き続きオーガの気を引いてください。僕とキアラちゃんでどうにかします」
「なるべく早く頼むね。一撃一撃が重くてちょっと大変だから」
「遅かったら、私達が倒す」
「それもそうだね」
それでも二人は僕たちと会話をするくらいには余裕があります。
オーガはCランク指定の魔物なので、変異種ならBランクくらいあってもおかしくはないのですが、その相手に余裕を保てるって凄いですね。
「キアラちゃん、再生持ちを倒す方法はわかりますか?」
「えっと、確か……核を壊せばいいんだよね?」
「そうです」
魔物には心臓とは別に核があります。
スライムなんかは核しかない魔物ですが、それは置いておき、核は人間でいう肺のような役割を果たしているようですね。
人間の体は酸素がないと生きられません。
それと同じように、魔物は魔素がないと生きていけないと言われています。
そして、魔物の核は酸素の代わりに、魔素を吸収する役割があるのです。
なので、その核を破壊すれば、魔物は魔素を取り入れる事が出来なくなり、死に至るのです。
後は、変異種の原因が角にあるので角を破壊すれば倒せるとは思いますが、角が再生する可能性もありますし、角は消滅しないため、証拠として残したいですね。
「だけど、核の位置何てわかりませんよ?」
「はい、なのでそこは僕がフォローします」
僕には魔物の核がある場所がわかります。
そして、それを教える魔法も知っています。
「アークライト!」
これは元々は
目に見えない物を浮き上がらせる補助魔法で、この緑色の光に触れた生き物にはマーキングがされ、魔物なら核に消失魔法を使用している者には緑色の光が纏わりつきます。
「キアラちゃん、あれを狙ってください」
「あの緑色の玉ですね」
オーガのお腹の辺りに緑色の玉が見えます。あの位置に核があると魔法が教えてくれいるのです。
キアラちゃんが弓を引き、狙いを定めます。
番えられた矢は木の矢です。
アズールとの時の戦闘が活きました。
ですが、木の矢では強度が足りず、折れてしまう可能性があります。
なので、僕が
効果は単純で、矢をの強度を上げ、貫通性を高めるだけです。
「そこです!」
「ぐがっ!」
オーガが苦し気な声をあげますが。
「惜しいです!」
狙いは完璧だったと思います。ですが、キアラちゃんの矢を察したオーガが身をよじり、玉よりほんの少しずれた場所を貫通しました。
刺さらずに貫通したのは【突】の効果ですね。
ですが、えぐり取られた脇腹が直ぐに修復を始めます。
「再生が追い付かなければいい」
「そういう事だね」
すかさずシアさんとスノーさんがオーガの首を落とし、両足を切り飛ばします。
シアさんとスノーさんは別の方法でオーガを倒そうとしているようですね。
確かに、その方法もありです。
魔素を使って再生をしているのですから、オーガの魔素が尽きるまで何度も再生させるか、魔素での修復が追い付かなくなるまで斬ればいいのです。
簡単に言いますが、大変な作業なのですけどね。
「しぶとい」
「ホント、嫌になる」
飛んだ首をオーガ掴み、すかさず首に乗せると修復が始まります。そして、足からはボコボコと新たな足が生えていきます。
恐らく、首が離れても同じ現象が起きそうですね。
しかし、角があればです。
オーガは首を優先した事からわかるように、角がなければ再生が出来なくなるのだと思います。
「では、私が仕留めさせて貰いますね」
首を両手で掴み、足が生えている間、オーガは無防備な姿になっていました。
それは隙です。
キアラちゃんは3本まで連続して矢を放てます。1本目で仕留められなかったと気づいた時には既に2本目を番えていました。
「が…………」
2本目の矢は寸分の狂いもなくオーガの核を貫きました。
それと同時にオーガが膝から崩れ落ちます。
「負けた」
「悔しい……」
スノーさんとシアさんが悔しそうにしながら剣を鞘にしまいます。
「勝ちました!」
キアラちゃんは嬉しそうにピースサインを僕に向けてきます。
「えっと、勝負じゃありませんからね?」
キアラちゃんの「勝った」がオーガになのか、シアさん達になのかわかりませんが、一応3人に注意はしておきます。
だって、オーガはまだ生きていますから。
「グゴォォォぉ…………くそっ!くそっ!またお前らに邪魔をされるとはっ!」
うつ伏せに倒れたオーガが仰向けに転がりながら叫び声をあげたと思ったら、人の声がオーガから聞こえました。
「しゃべりましたよ!?」
声を上げたオーガにキアラちゃんが矢を向けます。
「大丈夫です、核を破壊しているのでこれ以上は動けませんよ」
核を破壊した事により、オーガの体内にあった魔素は拡散しています。
最後の悪あがきだと思います。
「まぁいい……どうせお前らは直ぐに地獄を見る事になる。今度は邪魔させん」
「今度?」
「せいぜいあがくがいい……」
その言葉を最後にオーガの体が溶け始め、角以外は跡形もなく消え去りました。
「何だったの?」
「僕たちの事を知っているようでしたね」
「ユアン達にオーガの知り合いが居るとは思わなかったよ」
「いませんよ、そんな知り合いは」
魔物と争わないで済むのならその方がいいですが、魔物は問答無用で襲ってくる魔物の方が圧倒的に多いですからね。
「それじゃ、何でオーガが私達の事を知ってるの?」
そんな事を僕に聞かれても困ります。僕が聞きたいくらいですからね。
「たぶん、魔族の召喚獣だからだと思います」
「魔族の?」
「はい、私はラディやキティに聞かないと状況はわからないのは、オリジナルではなく模倣した魔法だからです。ですが、魔族は違います。元は魔族が魔族の為に創られた魔法です、私が使う召喚魔法よりも性能が高いと考えられます」
僕もオリジナルの魔法はあります。
それは、魔法の効果がわかっても、理論がしっかりとわからず、イメージしきれないからです。
勿論練習を積めばオリジナルに近づくことは出来ますが、オリジナルを越える事は中々できないものです。
「つまりは、キアラと違って魔物に聞かなくても状況がわかると」
「はい、もっといえば、魔物を通じて話す事も出来るという事になりますね」
オーガは僕たちの事を認識し、喋りました。つまりは、魔物を本当の意味で自由に操れるという事ですね。
安全な場所から自らの姿を現すことなく。
「面倒」
シアさんの言う通り面倒な相手ですね。しかもかなり面倒です。
魔物を使えば僕たちの行動を幾らでも監視する事ができるのですからね。
「それで、私達に話しかけてきたのは誰っだったんでしょう?」
「心当たりはないかな」
「僕もです」
僕たちの会った相手に、何かを邪魔した記憶はありませんからね。
相手は僕たちを知っていて、僕たちが知らないという可能性もありますけどね。
まぁ、何にしても。
「とりあえず、街に戻りましょう」
「うん、報告は早い方がいい」
「そうだね、オーガを操った奴のいう事がホントなら街で何か起きてるかもしれないし」
「うん、急がないとですね」
角を忘れずに回収し、僕たちは出来るだけ急いで街に戻る事に決めました。
そして、もう一つ忘れてはいけない事があります。
「もちろん、街の方角はわかりますよね?」
「「「…………」」」
戦闘をしたからといって、忘れてはいけない事はありますからね。
「みなさん、後で説教ですね」
「お手柔らかに」
「ユアンって意外と鬼畜なんだね」
「ユアンさん、ひどいです」
スノーさんとキアラちゃんにはひどい言われようですが、大事だから仕方ありません。
僕の案内を元に、僕たちは街へと戻るのでした。
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