第71話 弓月の刻、冒険者ギルドに向かう
ギルドの前に辿り着いた感想は良くも悪くも普通のギルドでした。
いえ、最近は開拓中の村だったりタンザのギルドだったりと、少し迫力のあるギルドを目にしてたのでそう思うだけかもしれません。
トレンティアにあるので、造りもトレンティア風の造りになっているので、初めてみたのなら衝撃を受けたと思います。
宿屋もそうですが、慣れって恐ろしい。
「では、いきますよ」
女性だけのパーティーは侮られる事が多いです。しかも、僕とキアラちゃんは背が低く余計に侮られる可能性が高いので、気を引き締める必要があります。
ギルドに入ると、僕たちは視線を集めました。
僕たちの実力を測るような値踏みする視線が多いですね。
時間帯のお陰か、カウンターに並んでいる人は少なく、すんなりとカウンターに辿り着くことが出来ました。
カウンターには少し気怠そうな雰囲気のお姉さんが座っていました。
「こんにちは、受付のカタリナです。ご要件は?」
ギルド職員にも色々といます。すごく丁寧な人や乱雑な人、性格は人それぞれありますので仕方ないと思いますが、今回の受付の人は少し雑な感じがしますね。
「依頼完了の手続きをお願いします」
「はいはい、護衛依頼ですね」
報告の手紙をカタリナさんは開け、中を確認すると、目を開けて驚くかと思いましたが、意外な事にそうでもありませんでした。
自分たちで言うのも変ですが、領主さまの護衛依頼です。普通の護衛依頼よりも重要度が高いと思いますけどね。
「確認できました。ギルドカードの提出をお願いします」
「わかりました」
ギルドカードを4人で提出し、依頼達成の印を刻んでもらいます。刻むと言っても、水晶に
「他にご用件は?」
「いえ、ですが少しの間なりますが、この街に滞在しますのでよろしくお願い」
「わかりました、弓月の刻ですね。街からお発ちになる時はもう一度、報告してください」
僕たちに目を向けず、手元にある登録票のような物に僕たちのパーティー名を記載していきます。
パーティー名、パーティーメンバー、職業、特徴、そして任せられそうな依頼難易度……Bと細かく記載しています。
態度とは裏腹に仕事はきっちりとこなすタイプのようですね。
「何か?」
作業の様子をジッと見つめていたのが原因か、僕はカタリナさんに睨まれてしまいます。
「いえ、意外と評価していただけているようで逆に驚きました」
「領主さまの依頼をこなしてますし、パーティーバランスも良いですからね。当然です」
「そうですか」
「他にも何か?」
突き放すようにカタリナさんが言います。それにシアさんが眉をひそめます。
「失礼」
そして、カタリナさんに冷ややかな目を返してしまいます。
「シアさん、カタリナさんは仕事をしていますので、僕たちが仕事の邪魔をしてしまったのですから仕方ないですよ。カタリナさん、申し訳ございませんでした」
ギルド職員と揉めてもいい事はありませんからね。僕はシアさんを落ち着かせます。
「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした。どうやら私の勘違いのようですね、申し訳ございません」
僕が謝ると、カタリナさんは姿勢を正し、頭を下げてくれます。そこには気怠そうな雰囲気はなくピシッとした仕事の出来る人のオーラのようなものを感じます。
「いえ、カタリナさんが謝る事ではないので」
「いえ、私の判断不足で不快な思いをさせてしまいましたのが原因ですから」
「判断不足?」
「はい、獣人の方が二人いらっしゃいましたので、てっきり堅苦しくされるのは嫌かと思いまして」
「そうなのですか?」
「はい、トレンティアは国境沿いの街ですので、獣人の冒険者の方が多く訪れます。そして、獣人の方は気さくな方が多く、堅苦しく接すると敬遠される方が多いので……」
種族によってカタリナさんは接し方を変えているようでした。
冒険者は常に危険が伴う仕事です。なので依頼内容を説明するのですが、堅苦しく接した結果、話をまともに効かず依頼を受けてしまう冒険者が多いようです。特に獣人の方がその傾向にあるようで、敢えてそういう風に振舞っていたようです。
依頼の確認の重要性は火龍の翼の方から聞いてます。
カタリナさんなりの気遣いのようでした。
「いえ、納得しました」
「改めて、トレンティアのギルドにようこそ。不明な点などございましたら、気軽にギルドにお越しください。私達が出来る範囲でサポートさせて頂きますね」
「はい、よろしくお願いします!」
「では、依頼報酬は別での受け渡しになりますので、受け取りカウンターにてお願いします」
カタリナさんの事情もわかり、シアさんもお詫びをいれ、僕たちはカウンターで依頼報酬を受け取りました。
報酬はなんと金貨20枚でした。もちろん、この前に受け取った50枚とは別にです。ただ護衛しただけなのに驚きです。
パーティー資金の運用はお小遣い制となっていますので、大半はパーティー資金になりますが、今のうちにみんなに金貨を1枚ずつ渡しておきます。
「私……金貨持ったのなんてすごい久しぶりです……」
キアラちゃんが凄く珍しそうに金貨を眺めます。
「あまり見てると後で襲われる」
僕も感覚が狂い始めていますが、金貨は大金ですからね。
シアさんとスノーさんは受け取った瞬間にポーチにしまいました。それを見て、キアラちゃんも金貨をポーチにしまいます。
「僕はこのまま孤児院に送金してきますね」
孤児院と言っても、僕が育った孤児院です。旅立ってからまだ一度も送金できていなかったので、ついに恩を返す時が来ました。
ギルドには冒険者の財産を管理する、銀行のような所があります。
僕はそこに行き、今までにお小遣いとして貯めた金貨5枚を渡し、届け先を伝えます。
もちろん、この場所から届けるのではなくて、冒険者情報を共有している帝都のギルドが届けてくれるので、思ったよりも短時間で届くと思います。
手数料はかかりますけどね。自分で届ける手間と時間を考えれば安いものです。
送金が終わり、仲間の元に戻ると、シアさんとスノーさんが、男の人とにらみ合っているような状況でした。
「どうしたんですか?」
「知らない。どうせいつもの」
まぁ、シアさんの言う通りギルド恒例の絡みですね。
シアさんがあまりいい顔をしていないので、争いにならなければいいのですが、この流れだと一悶着が起きそうです。
「お前たちはCランクパーティーで間違いないのか?」
「それが、どうかしましたか?」
顔を赤くした男がスノーさんと視線をあわせています。右手にはコップが握られているので酔った勢いで絡んできたと思われますね。
何処のギルドもそうですが、ギルド内には飲食を提供する場所がありますので、どうやらそこから様子を見ていた冒険者のようですね。
「そうか、うん。確かに、お前さん達二人は強者の雰囲気が漂っているな」
「ふぇ?」
酔った男はスノーさんとシアさんを下から上まで確かめるように見ると確信するように頷きました。
予想外の一言に僕は変な声が出ました。
シアさんもスノーさんもちょっと困惑気味ですし、キアラちゃんはハラハラした様子で成り行きを見守っています。
「グローさん、あっちはエルフですよ」
同じく酔った感じの男がキアラちゃんを指さします。酔っているからといって人を指さすのは失礼ですけどね。
指さされたキアラちゃんはシアさんの後ろに隠れました。
「そうか、エルフと言えば弓の達人だしなぁ」
一人で納得したようにグローさんと呼ばれた男性はうんうんと頷いています。
「それで、このパーティーリーダーは誰だ?」
「一応、撲ですが?」
僕はスノーさんと横にたち、グローさんと対面します。そして、僕を守るようにシアさんが更に並び、キアラちゃんもスノーさんの横に並びました。
「お前さんが?」
僕が名乗り出ると、グローさんは不思議そうに僕をみます。
「何か問題でもありますか?」
「いや、3人に比べるとなぁ……」
うっ……確かに僕の見た目は戦闘するように見えません。
ですが、見た目だけで判断されるのは悔しいですからね。僕は収納から杖を取り出します。
「僕は補助魔法使いですので」
「収納が使えるのか!」
ふふんっ!
グローさんが驚いていますね。
ですが、僕が出来るのはこれだけではありません。
辺りを見渡すと、僕たちのやりとりを見守っている冒険者の姿がちらほらと見えます。そして、冒険者ですので、怪我を負っている人もいますね。
「
ギルド内を僕の魔力が包み込みます。
「うぉ!なんだいきなり……」
関係ない人を巻き込んでしまいましたが、そこら中で驚きの声があがります。
「あれ、傷が治ってるぞ」
「ホントだ……俺の古傷も」
僕は得意げにグローさんの顔を見ます。
「なるほどな……いいパーティーだな」
「ありがとうございます。なので、僕たちを侮り、絡むのはやめてくださいね?」
実際に戦闘になった時、僕たちは負けない自信がありますが、同じ冒険者で争う気はありませんからね。先に忠告をしておく事が大事です。
「大丈夫だ、最初から侮ったりなんかしていないからな……おい、見たか。間違っても嬢ちゃん達に手を出すなよ!」
「「「了解ッス!」」」」
グローさんの言葉に冒険者達が返事を返します。
その返事に満足したように頷き、グローさんが僕たちの方に向き直りました。
「改めて自己紹介をしよう。Bランク冒険者のグローだ。一応、この街に常駐している冒険者達のまとめ役みたいな事をしている」
「僕はユアンです」
そして、リンシアさんとスノーさん。キアラルカちゃんをちゃんと本名で紹介します。
「よろしく頼む。今回は、いきなりで失礼したな」
「いえ、理由があってですよね?」
「あぁ、辺境の街だからな。獣人と人間が集まる場所だ、少なからず争いは起きたりする。だから、着いたばかりで悪いが巻き込まれない為にも顔合わせと確認をさせてもらった」
「確認ですか?」
「そうだ。嬢ちゃん達が無暗に暴れるような冒険者なのか、問題を起こすような冒険者達なのかをな」
冒険者にも色々いますからね。
冒険者同士の争いが起きる前に、グローさんが先頭となり、冒険者を纏めているようですね。
「それで、グローさんの判断は?」
僕の質問にグローさんは初めて笑顔を零しました。
「もちろん合格だ。トレンティアにようこそ。是非ともゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
一時はどうなるかと思いましたが、僕たちはこうしてトレンティアの冒険者達に受け入れられる事となりました。
何も問題が起きなくて良かったですね!
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