第55話 補助魔法使い、会心の一撃!
「カバイさん、後は僕たちに任せて先に行ってください」
「悪い……」
レジスタンスが散っていきます。
「待て!」
騎士が動き出そうとしますが、先頭の男がそれを制します。
「無駄です。こうなった以上、全員を捕える事は無理でしょう。それならば、目の前の相手に集中するべきです」
騎士が散ってくれれば僕たちとしても楽でしたが、そうもいかないようです。
「ですが……」
「では、人手が少なった状態で、第2皇女副隊長の相手をすると?貴方がやってくれますか?」
「それは……」
どうやらスノーさんの事を知っているみたいですね。
「まさか、オルスティア皇子第3騎士団副隊長がこんな所に居るとは思わなかったですよ。それとも魔剣使い、アズールと呼んだ方がいいかしら?」
スノーさんも知っている相手のようです。
「どちらでもお好きに。どうせここで終わりですから。これは立派な反逆罪ですよ?」
「あら、私は地下に捕らえられた女性の救出にあたっただけですけど。どちらかというとそれに加担した貴方の方が立場が悪いのでは?」
「私は、たまたま、この街に寄って領主様にご挨拶に伺っただけですので、一連の事件には無関係ですよ」
「よくもまぁ、ぬけぬけと」
「事実を言ったまでです」
お互いがお互いを良く思っていないとすぐにわかりました。
「気を付けて、あれでもそれなりの実力を持っている」
恐らく、トーリさんが言っていた手練れがあの男なのかもしれませんね。
スノーさんは魔剣使いと言っていましたが、男の手に握られた剣から魔力を感じる事が出来ます。
魔剣とは
魔剣自体に何らかの効果があり、使用者の傷を自動で治したり、魔力を使わずに魔法を付与したり放ったりすることができたりと、色々な魔剣が発見されています。
「お前たちはそこで見ていなさい」
「よろしいのですか?」
「えぇ、小娘たち程度、一人で十分です」
どうやら、僕たちの事を一人で相手するつもりのようです。
「その驕り、後悔させてあげる」
スノーさんがアズールに右手に握った剣を左から右へと振るいます。
「踏み込みが甘いですよ」
胴を目掛け、横薙ぎに振るわれた剣をやすやすと受け止め男が挑発するようにスノーさんの欠点を指摘します。
しかし、スノーさんの攻撃はそれだけではありません。
手首を返し、左手を剣に添え、そのまま突きを繰り出しました。流れるような一連の流れ。
ですが、アズールはそれも受け止めました。
「その程度ですか?」
避けたのではなく、受け止めたのです。
突きを受け止めるのはかなり難しいと思います。少しでも角度が変われば受け止めた部分が滑りますので、そのまま突きが襲います。
見極め、実行する度胸、それを可能にする技術が必要です。
「
スノーさんが攻撃を仕掛けていた間に、シアさんも動いていました。
「甘いですよ」
「……?」
姿を消し、背後からの一撃。
しかし、アズールはそれすらも受け止め、弾きます。しかも視線はスノーさんに固定したままで。シアさんはそれに対し首を傾げます。何かに気付いたようですね。
剣を弾かれたシアさんは驚いた様子もなく、至近距離で男の攻撃を待ちます。
「どうした?」
「何がですか?」
「攻撃すればいい」
「えぇ、しますとも!」
シアさんはその攻撃を右手で受け止め、アズールを左手の剣で切りつける。
防御と攻撃を同時に行い、完璧なカウンターが決まると思いましたが、強引に魔剣を動かしシアさんの攻撃も受け止める。
「わかった」
シアさんはアズールから離れ、スノーさんの横に立ちます。
「
「ほぉ、お気づきですか」
「うん。魔剣のお陰で防御は優秀」
「そうね、アズールは守りの剣、それで副隊長まで昇りつめたからね」
なるほど。
単に技術が高いのではなく。魔剣の効果だったのですね。
「大丈夫。攻撃は大したことない」
「それでいいのですよ。時期に騎士も集まってきますから。貴女達はそれで終わりです」
狙いは最初から時間稼ぎだったようです。
一人で戦うのもこれ以上被害を出さないためみたいですね。
一人で戦うと言ったわりには……って感じです。
しかし、騎士たちが集まってくると面倒なので、有効な作戦ではありますね。
「シア、二人がかりで行くよ」
「わかった」
左右から挟む形でシアさんとスノーさんが攻撃します。
「ほぉ、これは……」
なかなかの連携です。ほぼ同時に繰り出される斬撃。魔剣は1本なので同時に防ぐことは出来ません。
「くっ、これも躱すのね」
「動き、気持ち悪い」
シアさんの言う通りですね。
なんかグネグネ動くのですよ。まるで関節が自由に動くみたいな感じです。
「私と魔剣の相性はどうですか?」
スノーさんの攻撃を上体を逸らし躱しながら、シアさんの攻撃を魔剣で受け止めます。
海でとれるタコという生物がいるのですが、それみたいにぐにゃぐにゃと動き、本格的に気持ち悪いです。
「キアラちゃん」
「はい、何ですか?」
「どう思います?」
「気持ち悪いです」
キアラちゃんも同じ意見でした。
シアさんとスノーさんが頑張っているので僕たちは見ているだけです。精々、他の騎士たちの動きを牽制するくらいしかありません。
「いえ、あの人の動きではなくて、いや、動きなんですけど、何か変だと思いません」
「気持ち悪いくらいに変ですね」
「うーん。そうじゃなくてですね、何か変じゃないですか?」
「変ですよね」
むむむ……上手く説明できません!
どうやら僕は戦闘を解説する能力もないようです!
「何て言いますか、反応が遅れる時があるのですよ」
「反応ですか?」
「はい……ほら、今遅れましたよ」
シアさんは剣ではなく、体術も得意です。剣を受け止められ、離れる瞬間に蹴りを繰り出した時に剣ではなく、体で防いでいる時があるのです。
「キアラちゃん、試しにこの矢を撃って貰えますか?」
「わかりました」
キアラちゃんに渡したのは、鉄製ではなく、先端が動物の骨で出来ている矢です。
鉄製に比べ、安いのが特徴ですね。
アズールの近くでは二人が戦っているので、慎重に狙いをつけ……ずにキアラちゃんは直ぐに矢を放ちました。
「くっ」
矢を認識したアズールは転がるようにして矢を避け、二人とも距離をとりました。
しかし、体制が崩れた隙を二人が見逃すはずもなく、すぐに距離を詰めます。
「あぁ、なるほどですね」
「ユアンさん何かわかったのですか?」
「はい、ちょっと行ってきますね」
僕の予想が正しければ、もしかしたら上手くいくかもしれません。
「
シアさんと同じ魔法ですね。僕も使えます。僕は見た目から目立つ事が多かったので、昔はよく使いました。
僕は、こっそりと戦っている3人に近づきます。
「スノー、いったん離れる」
「わかった」
シアさんは僕に気付いたようですね。
僕とシアさんは契約で繋がっているので、何となくお互いの場所がわかります。
「どうしましたか、もう諦めますか?」
「諦める必要はない。お前は終わり」
僕はこっそりと、アズールの後ろに回り込みます。
「負け惜しみを、未だに貴女達はー……」
「えいっ!」
「ぐごぉっ」
近づいて、僕は力いっぱい杖を振り下ろしました。アズールの頭に。
いくら力がない僕とはいえ、鈍器の役割を果たす杖の威力はそこそこあります。
アズールはフラフラとした後に、地面に倒れました。
「シアさん!」
「わかった」
倒れたアズールの魔剣をシアさんが蹴り飛ばし、背中に剣を突き付ける。
「えっと……」
スノーさんは困惑しています。
いくら攻撃しても倒せなかったアズールが僕の一撃によって倒れていますからね。
「キアラちゃんは捕縛を手伝ってください。スノーさんとシアさんは残った騎士たちを!」
「わ、わかった」
困惑しながらも、スノーさんとシアさんがアズールが倒され動こうとした騎士たちの前に立ちはだかります。
その間に、僕とキアラちゃんがアズールを縄で縛ります。
「ぐにゃぐにゃしてませんね」
「はい、これなら縛れるね」
アズールの動きの正体は魔剣の効果だったようですね。魔剣が手元にない今、簡単に縛る事ができました。
白目を剥いて、ちょっと不気味ですけどね。
ちょっと、やりすぎでしょうか?
「ユアンさん、アズールさんに何をしたのですか?」
「何もしていませんよ。ただ、見てて思ったのですよ。変だなーって」
「ずっと言っていましたが、何が変だったの?」
「はい、シアさんとスノーさんの剣は簡単に捌くのに、シアさんの体術だけは捌けていなかったのです。だから、もしかして自動防御に条件があるのかと思ったのです」
「条件ですか?」
「はい。剣、もしくはそれに使われる鉄などの素材に反応しているとではないかと」
「それで、私の矢が骨の素材だったんですね」
「骨を素材にした武器は少ないですからね」
結果、キアラちゃんの放った矢には反応できずに大袈裟に避ける事になりました。
「僕の杖の素材は木ですからね。いけると思ったのですよ」
「ユアンお姉ちゃんすごい!」
キアラちゃんが褒めてくれました。
だけど、お姉ちゃんではありませんからね。そこはちゃんと注意しておきます。
それに、アズールの負けた原因はただの慢心です。見栄に拘らずに騎士たちを動かし、僕たちにも注意を払っていればこんな結果にはならなかったと思います。
「なんの騒ぎだ!」
アズールを縛り終えた時、僕たちの後方から凛とした女性の声が聞こえました。
そこには、白い甲冑……ドレスアーマーを着た、騎士たちの姿がありました。
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