第28話 補助魔法使い、タンザのギルドに向かう

 「ユアン……鬼畜」

 「お仕置きですからねー」


 シアさんの足も回復し、日が暮れるまでに時間があったので、僕たちはギルドに顔を出す事にしました。

 大きな街でどんな依頼があるか少し楽しみです。

 

 「大きい……ですね」

 「依頼が多いから仕方ない」


 冒険者ギルドの大きさに思わず足が止まりました。

 シアさんと出会った街……ではなくて村のギルドの倍はあります。

 しかも、円滑に処理できるようにか、扉が二つあり、片方には冒険者が入っていき、もう片方は依頼をする場所なのか商人らしき人たちが出入りしています。


 「ここに居たら邪魔になる」

 「あ、そうでした」


 入口前に立っていたので既に邪魔になっていたようで、冒険者から横目で見られている事に気付き、僕たちも中に入ります。

 中は意外と普通でした。

 造り自体は僕が訪れたギルドとほとんど差異はありません。

 ただ、普通のギルドより広いですけどね。

 空いているカウンターに向かい受付のお姉さんに声を掛けます。


 「こんばんは、今日この街に着きました、ユアンと」

 「リンシア」

 「です」

 「ユアンさんとリンシアさんですね。私は、受付嬢のミノリと申します。この度はわざわざギルドまでお越しいただきありがとうございます。二人はパーティーを組んでいるという事でよろしいですか?」

 「はい、これを」


 軽く自己紹介をし僕たちは揃ってギルドカードを差し出します。


 「Cランク……パーティーですか?」


 ミノリさんが僕の方を見て尋ねてきます。

 きっと、僕がリーダーなので戸惑っているのですよね。シアさんの方がリーダーぽいから仕方ありません。


 「失礼しました。ユアンさんが小さいのにCランクという事に驚きまして」


 違いました。

 小さいので驚かれたようです。

 15歳でCランクは割といます。中にはBランクまでたどり着く強者もいるので可笑しくないのですが、やっぱり単純に背丈で判断されているようです。


 「へぇ~。嬢ちゃんがみたいなのがCランクなのか。きっと田舎では簡単にランクがあがるんだな」


 ミノリさんの声は後ろに並んだ冒険者にも聞こえていたようです。

 侮蔑の混じった声は僕たちに向けられているようです。振り向くと、一見強面な、見せかけの筋肉と一目でわかる男が立っていました。

 その言葉に反応したのは、シアさんでした。このパターンはまずいですよ?


 「何か、言った?」

 「女が簡単にCランクに上がれるのは田舎だからって言ったんだよ」


 ん~。ギルドランクの判断基準はそれなりに統一されている筈なので田舎とか関係ないと思いますけどね。むしろ、ギルドが無い所の方が多いので逆に大変だったりしますよ?


 「都会でぬくぬく育ってるから、ランクあがらないだけ」

 「んだと!?」

 「事実。だからEランクから卒業できない」

 「馬鹿にするな、俺はDランクだ!」


 大変ですシアさんが盛大に煽っています。

 それにしても、よくもまぁDランクで威張れますね。一応、ランクだけなら僕達の方が上なんですけどね。

 ですが、僕まで煽ったら収拾がつかなくなりそうなので僕がシアさんを止めるしかありません。


 「シアさん、揉め事は良くないですよ」

 「ユアンも馬鹿にされてる許さない」


 また、僕の事で怒ってしまったようです。

 嬉しいですけど、複雑です。


 「冒険者同士の揉め事はお控えください」

 「ちっ。どけよ!」

 「わっ!」


 ミノリさんが止めてくれ、安心した瞬間、僕は突き飛ばされました。防御魔法は展開してあるので少しよろけた程度で済みました。

 が、代わりに男が飛びました。吹っ飛びました。

 

 「ユアンに手を出したな」


 シアさんが片足をあげた状態で止まっています。どうやら蹴り飛ばしたようです。


 「シアさん!」

 「なに?」

 「揉め事はいけませんよ!」

 「わかった」


 僕は吹っ飛ばされた男に近づき、容態を確認します……完全に伸びていますが、命に別状はなさそうです。


 「受付のお姉さんもすみませんでした。シアさんも謝ってください」

 「ごめん」


 男を下手に回復するとまた厄介な事になりそうなので、外傷になりそうな怪我だけを治し、お姉さんの元に戻ります。


 「いえ、日常茶飯事の出来事なので。そもそもあの男が悪いですから」


 ミノリさんは味方についてくれたようです。

 あれだけの出来事にも動揺していないので本当に日常茶飯事なのかもしれませんね。


 「ですが、基本的にはギルドは冒険者同士の揉め事は介入しませんので、今後はお気をつけください」


 ですが、やんわりと注意はされてしまいます。仕方ないですけどね。


 「気を付けます」

 「はい。では、本日は依頼を受けていかれますか?といっても、ほとんどが護衛依頼ばかりですけどね」


 何事もなかったようにミノリさんは会話に戻りました。ちなみに男は引き攣った顔をした連れらしき人に運ばれていきました。

 その人たちも絡んでこなくてよかったです。


 「そうなのですか?」

 「はい、この辺りは魔物の数が少ないので、遠方に向かわれる商人の方の護衛依頼が多いので」

 「なるほど」


 場所によって求められる依頼は違いますからね。

 魔物が多く生息する場所では討伐依頼。

 物流が盛んでない場所では薬草などの採取依頼が多い傾向があります。

 流通の要となるタンザでは多くの商人が集まるので護衛依頼が多くなるのは必然ですね。


 「一応、他の依頼もありますので依頼ボードを確認されるのが良いかと思います。気になる依頼がありましたら、受付に相談に来てくださいね」

 「わかりました、ありがとうございます」


 受付から離れ、依頼ボードを確認するも特に受けられそうな依頼もなかったので僕たちはギルドを後にしました。

 その時に、ちょっと怯えられていた気がしますけど気のせいですよね。僕たちは所詮Cランクパーティーで、僕たちよりも上のランクの冒険者がいるので些細な争いがあったくらいでは普通は気にしない筈ですから。

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