第26話 補助魔法使い、村で再会を果たす
「困りましたね」
「うん」
女の子達は外に出られ、日の光に喜んでいました。少なくとも数日は洞窟で過ごしていたのでしょう、無機質な灯りで余計に気分が落ちていたのだろ思います。
そして、何が困ったかと言うと。
「ユアンさん達……一緒に来てくださらないのですか?」
「それは……」
僕たちが向かうのはタンザです。しかし、女の子たちの村はタンザとは全然違う場所にあるそうです。
しかし、女の子3人をこのまま帰す訳にはいきません。
森にはゴブリンなどの魔物やウルフなどの動物も居るので危険ですからね。
「俺で良ければ村まで送るのだが……」
それはそれで問題はあります。
カバイさんは一応、信用する事にしています。しかし、盗賊に攫われた女の子達は少なからず男性にトラウマが出来てしまったようで、不安そうにしています。
「仕方ない。一度、タリスまで二人とも来てくれないか? そこになら、知り合いの女冒険者がいる。彼女たちはその冒険者に送ってもらう事にしよう」
「シアさんどうしますか?」
「仕方ない」
結局、遠回りになってしまいますが、一度タリスの村まで行くことになりました。
急ぐ旅ではないので問題ありませんけどね。
「皆さん、疲れたら言ってくださいね」
「大丈夫です。体力には多少自信がありますので」
女の子達は比較的元気そうでした。
奴隷として売るには健康状態が大事なようなので食事はしっかりと与えられていたようです。
ちなみにですが、アジトには食料は勿論、一財産になりそうなくらい金品がありました。
再度利用できないように、洞窟の方も塞いでおきました。盗賊や魔物が住み着いたら厄介ですからね。
金品は発見者である僕たちに所有権があるようですが、僕は受け取るつもりはありません。依頼を受けて報酬を受け取ったわけではなく、元は他の人の財産です。信頼できる人を探し、元の持ち主に出来るだけ戻し、被害者にも返せればと思っています。
難しいかもしれませんけどね。
半日ほど歩き、日が頭上に上がる頃、僕たちはようやく森から出る事が出来ました。
「タンザはここから二日程歩かなければならないが、タリスはここから近い、夕方には着くことが出来るだろう」
「だそうですが、皆さんは大丈夫ですか? きついようなら一泊野営をしても構いませんが」
「大丈夫です。日ごろから農作業なので体力にはまだまだ余裕があります」
「わかりました。森から離れたら、昼食と少し休憩をとって出発しましょう」
森のすぐ近くですと、魔物が森から出て来たりして危険ですからね。
その後、森から離れた場所でアジトから頂いた昼食をとり、日が暮れる頃にはカバイさんの言う通り村へとたどり着くことが出来ました。
女の子達は少し疲れた様子でしたが、元気そうでよかったです。
村が見えると、表情も明るくなりましたし、安心しました。
「止まれ」
村には警備兵の人がいました。前の村と違って、武器は持っていますが、村人っぽい人ですけどね。村の規模も以前の村に比べても小さいですしね。
村に入ろうとすると、当然止められました。
「俺だ」
「カバイ! 無事だったか……」
「あぁ、事情が少し変わって一度戻る事にした。数日後には発つがな」
「そうか、それでそのお嬢さんたちは?」
「盗賊の討伐を手伝って貰った。そっちの3人は盗賊のアジトで保護した者たちだ」
カバイさんが僕たちを紹介してくれると、すんなりと村に入る事が出来ました。どうやらカバイさんは信頼されているようですね。
「ギルドはないが、冒険者が集まる酒場がある、そこに俺の言った冒険者はいると思う」
カバイさんの案内で酒場に向かいます。
本当は、宿屋で女の子達を休ませてあげたいところですけどね。
案内された酒場に入ると、意外と賑わっている事に驚きました。
「おい、マリナはいるか!」
カバイさんは酒場に入ると、店中に聞こえる大きな声で名前を呼びました。
ん、マリナ?
聞いたことある名前です。
「カバイさんじゃない、どうしたのいきなり?」
カバイさんに呼ばれ、こちらに歩いてくる冒険者には見覚えがありました。
「あ、マリナさん」
「ん? あれ、ユアン?」
少し前に、オークの襲撃にあい、その後一緒に護衛をした方です。
「それで、何でユアンがカバイさんと一緒に居て、私が呼ばれたのからしら? それに他の女の子たちは?」
「それは、俺から説明しよう。マリナ食事はとったか?」
「いいえ、リクウを待って一緒に食事をしようと思っていたからまだですよ」
「そうか、ならちょうどいい。ちょっと付き合え」
「え、わかりました……」
カバイさんの言葉に戸惑いながらも、マリナさんは頷いた。どうやら、カバイさんはこの村ではそこそこ知名度があるようですね。
「それで、話とはいったい……」
「その前に、嬢ちゃん達の食事を注文しよう。代金は気にせず食ってくれ」
酒場は食堂も兼用しているようで、カバイさんが適当に注文をしていきます。
「ん、何かあったか? っとユアン……か?」
「あ、リクウさんこんばんは」
食事が提供される頃、マリナさんと待ち合わせをしていたリクウさんも店に姿を現しました。
「リクウ、ちょうどいいお前も座れ」
「げ、カバイさん戻ってきたのですか」
「げってなんだ。まぁいい、座れ」
カバイさんに促され、リクウさんも席に座りました。
それと同時に料理も机に並べられていきます。
「食事しながらで良いから聞いてくれ」
今までの出来事をリクウさんとマリナさんに話し、これから頼みたい事……女の子達を村まで届けて欲しい事を伝える。当然、裏には領主が控えていることも伝えます。もしかしたら、変な横やりが入る可能性がありますからね。
「どうだ?」
「どうだと言われてもなぁ……」
即答は貰えません。
「ユアンは来れないの?」
「僕は、タンザの街に行く予定ですので」
「その予定は変えられないの?」
「それはー……」
予定がないので断りにくいのですよね。僕が困っていると、シアさんが代わりに答えてくれました。
「私達が盗賊を倒したことが伝わっている可能性がある。盗賊も全て倒していない、復讐で危険な目に合わせるのは可哀想」
「確かにな。陽動ではないが、ユアン達が目を引いてくれるなら安全に送る事が出来る確率はあがるかもな」
出くわした盗賊達は全て討伐した自信がありますが、出払った盗賊はまだいます。しかも、盗賊達は領主から魔法道具を受け取っていて、もしかしたら盗賊達を討伐した者がわかる魔法道具などがあるかもしれないですからね。
ギルドマスター同士で連絡を取り合う魔法道具もあるようですし、それに似た道具があってもおかしくはありません。
「けど、ちょっと不安ね」
「不安なら無理に受ける必要はないぞ。少し時間はかかるが、タンザにも女冒険者は居るからそっちに依頼することも出来るからな」
「いや、俺は受けようと思う。カバイさんにもユアンにも借りがあるからな」
「そうね。勿論、そっちの女の子達が納得してくれるならだけど」
二人はカバイさんの依頼を受けてくれるようです。
「私達は構いません。同性のマリナさんも居ますし、自力では不安ですから。ただ、報酬の方が……」
攫われた為に一文なしですからね。
しかも、決して豊かな村でも家でもないようで、まともな報酬を用意できないと言っています。
「報酬は俺から出すから安心してくれ」
カバイさんがそう提案します。
「ですが助けて下さって、そこまでして頂くわけにはいきません」
「構わない。盗賊達から手に入れた報酬があるからな」
報酬はカバイさんにも渡してあります。最初は断られましたが、ここに来るまでの間に聞いた話によると、カバイさんは娘さん以外の奴隷にされた女性を解放するために仲間と協力して活動しているみたいですからね。
カバイさんはついでと言っていましたが、活動資金はあって困らないと思うのでどうにか受け取って貰いました。
盗賊達が持っていたのは物品以外にも金貨なども多く含まれていた為、返しようがないので使っても問題ないと思いますしね。
カバイさんやマリナさんの説得もあり、最終的には首を縦に振り、護衛の依頼が決まりました。
本来ならギルドを通す事が多いですが、ギルドがない村などではこれが普通なようです。わざわざ街のギルドに行くのは馬鹿馬鹿しいですしね。
話もまとまり、お腹いっぱいになり解散となりました。
宿屋は空いていました。
カバイさんの伝手もあって、無料で泊まる事が出来るようです。しかも、女の子達3人もです。
部屋は僕とシアさん、女の子達とで別れることになりました。お風呂はないのが少し残念でしたが、部屋とお布団は清潔に保たれているみたいなので贅沢は言えませんね。
本当は、宿屋に泊まる事が贅沢なんですけどね。今日は無料なので好意に甘えたいと思います。
洗浄魔法をシアさんにかけ、僕たちも休むことになりました。盗賊の件でシアさんはほとんど寝ていませんからね。
ちなみに、女の子達にも洗浄魔法をかけてあげましたのでみんな綺麗です。すごく喜んでくれて良かったです。
「シアさん、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
起きたら直ぐに出発するつもりなので、早めの就寝につき、翌朝も何故かシアさんと一緒に寝ている事になりましたが、気にならなくなりました。
一度だけベッドから落ちた前科はありますけど、それ以降は落ちた記憶はありませんが、僕って寝相悪いのでしょうか?
そんな事を考えながら朝を迎えました。
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