第二十三話: 一触即発


 ……。


 ……。


 …………そうして、30分後。



 どれだけ巨大な岩であろうと、所詮は岩だ。驚異的な力を誇るイシュタリアと、人間を大きく上回る力を持つドラコの手に掛かれば、何のことはない。


 そう思って、やるか、と構えたドラコとイシュタリアであったのだが――。



『――すまない、待たせたな!』



 通気口から飛び込んできたバルドクの声によって、待ったが掛けられた。その直後、地響きを立てながら出入り口を塞いでいた大岩が動き始め……飛び込んできた外の光の中から、バルドクが顔を覗かせた。



「どうやら間に合ったみたいだな」



 その顔には、大きな汗粒がいくつも張り付いていた。どうやら色々と全速力をさせてしまったようだが……イシュタリアたちはもちろん、源もお礼は言わなかった。


 バルドクの顔が、スッと引っ込む。途端、再び大岩は地響きと共に移動を始め……人一人が通れるぐらいにまで開けられた。「それじゃあ、まずは私から出るのじゃ」と宣言したイシュタリアが、さっさと外へと出て行く。


 ……少し経ってから、大丈夫のサインが出た。それを見てからサララたちも外に出れば……並び立つ亜人の中に、斑と焔に付き従ったバルドクたちの姿を確認出来た。


 その斑たちの前には、イシュタリアたちの所持品であるビッグ・ポケットが無造作に置かれており、隣にはサララの武器である『粛清の槍』が地面に深々と突き刺さっていた。


 ……無言のままにイシュタリアが駆け寄って、罠が無いことを確認する。道具をサララたちへと放り投げると、最後にイシュタリアは自分のビッグ・ポケットを背負った。



「すみません、ワシらの手違いと誤解が、あなたたちに要らぬ心労と苦労を掛けてしまったようだ……この通り、許しておくれ」

「……私からも、どうかご容赦を」



 装備し終えたイシュタリアたちを見て、斑は深々と頭を下げた。


 それにならって焔も頭を下げ、バルドクとかぐや、取り囲む亜人たちも一様に頭を下げた。その姿はまるで、ご隠居と孫と使用人である。



 ――今更、頭を下げられても……ねえ。



 イシュタリアは内心ため息を吐くと、斑たちに背を向けた。もう、こうなっては仕事も何も関係ない。


 今はただ、マリーが言っていた場所へ向かって薬を作らなければならない……ただ、それだけであった。



「……帰られるのですか? それでしたら、ご案内をさせていただきます」



 チラリと、斑と焔の視線が……今しがた出てきた『ツェドラ』へと向けられる。


 その視線の意味に首を傾げるサララたちを他所に、イシュタリアは「――必要ないのじゃ」吐き捨てる様に申し出を拒んだ。



「しかし、ここから地上へ帰るには少々お時間が掛かります。せめてもの償いとして、どうか私たちに――」

「ついでに、勝手にいなくなれば……か。言い訳を私たちに押し付けるのは止めてほしいものじゃな。アレはお前たちの『地下街』で生まれたモノじゃろ……どうするかは、お前たちが決めるのじゃ」



 そう言い捨てれば、斑と焔たちは一様に瞳を伏せた。内心を言い当てられた……というには少し芯を外している。


 けれども、痛いところの大まかな部分を突いたのは確かなのだろう。それ以上、斑たちは何も言おうとはしなかった。


 ……これ以上の長居は無用。


 マリーの寝顔を確認したイシュタリアたちは、目的の場所へと急ごうと歩きだし――。



「――待て!」



 聞き覚えのある、耳障りな怒声がその足を止めた。途端、どこからともなく飛び出して来た大勢の亜人が、マリーたちを一斉に取り囲んだ。


 マリーを抱きしめていたドラコがその翼でマリーを守ると同時に、素早くサララが槍を構えた。



「お、お前たち、お止めなさい!」



 取り囲む亜人たちを見やった斑が、声を張り上げる。けれども、包囲網を作っている亜人たちは斑の声に耳を貸す様子はない。


 加えて、その包囲網はマリーたちだけに留まらず、突然の展開に付いていけていなかった斑たちをも取り囲んだ。


 ウィッチ・ローザの光に鈍くきらめく鉄色の凶器。


 それらを向けられた斑たちは、互いの身を守る様にして所持していた武器を仲間たちに向ける。



「何をする!?」



 狼狽して声を荒げる焔の前に、キツネ顔の亜人……九丈が、「それは、こちらの台詞ですよ」笑みを浮かべ……たのを、イシュタリアは鋭い眼差しを向けた。



(……そういえば、無憎の周りにうろつくようになった人物が、九丈だったかしら)



 最初の出会いが連行時だったこともあって印象は最悪だが、改めて見ると、信用ならない人物だと思わせる何かを漂わせている。


 そう、イシュタリア(だけでなく、サララたちも)は九丈を見て思った。



「九丈……貴様、何のつもりだ!」



 斑と焔の前に立ち塞がったバルドクが、怒声を放つ。


 色々と悪い噂が絶えないと言っていただけあって、かぐちや他の亜人たちも九丈を見る目は冷たい。


 しかし、九丈は何ら気にした様子も無く頬に生えた髭をちょいちょいと撫でると、「二度も同じことを言わせないでくださいよ」ニヤリと笑みを浮かべた。



「なぜ、我らの採決を無視して『地下街』を破壊した罪人を勝手に釈放しているのですか? 私としては、むしろ責められるべきはあなたたちだと思われるのですが、いかがです?」

「それは既に話したはずだ。彼女たちには『地下街』を破壊する理由は無い。それに、お前らが用意した証人の供述にも矛盾点が多く、かつ不自然な点もある。あれだけで彼女たちを罪人にすることは出来ない」



 バルドクの怒声に、九丈は、おほほほ、と口元を隠しながら笑った。



「破壊する理由が無い? そんなの、人間側からしたら、ただムシャクシャしただけ……で十分じゃないですか」

「……話にならん」



 深々とため息を吐いたバルドクに、斑と焔も「そうですね」と頷いた。


 それを見た九丈は、それでもニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべ……その手を、高く掲げた。


 途端、取り囲んでいた亜人たちが武器を構えた。


 それを見て身構える斑と焔たちを他所に……イシュタリア一行は、つまらなさそうに目を細めていた。


(……もう面倒だし、こいつら全員始末するか?)


 そんな考えが、イシュタリアのみならず、源を覗いた全員の脳裏を過った直後――。



「――騒動が起こっていると聞いて駆けつけて見れば、九丈……貴様、ここで何をしている」



 ――ぬうっ、と。張り詰めた空気の中で新たに姿を見せたのは、九丈と共にマリーたちを連行した無憎であった。



「無憎!」

「……おやおや、無憎さん。これは良い所にきてくださいました」



 ――ようやく話が分かるやつが来た。その言葉がありありと顔に出ている斑側。


 ――やっと来てくれたのかと、更なる戦力の増加に笑みを深める九丈側。


 ――また面倒くさそうなやつが姿を見せたと思って、深々とため息を吐くイシュタリア側。



 見事なまでに、三つに反応が分かれた瞬間であった。



「聞いてくださいよ、無憎さん。斑さんたちったら、酷いんですよ。罪人である彼女たちを、我らの承認を得る前に釈放するって言っているんですよ」



 その言い分に、かぐちが吠えた。



「無憎、既に話したはずよ。彼女たちを罪人とするにはあまりに不可解な点が多すぎるし、理由が無いわ」

「かぐちさんはあのように仰ってますが、そんなのは『人間だから』という理由で十分でしょう? 彼女たち人間が……一部同胞が混じっておりますが、彼女たちが我ら亜人の祖先に何をしたか……忘れたわけではありませんよね?」


「九丈! それとこれとは全く別の問題でしょう! 話し合っているのは、マリーさんたちが実際に罪を犯したかどうか……それに関しては、あなたたちの出した証言に矛盾があり、不可解な点が多い。それが釈放理由の全てでしょう!」

「そりゃあ、証言ですからね。記憶違いはございましょう。ですが、『彼女たちが町を破壊した』という共通した証言があるのも事実。極刑は私も望みませんが、嫌疑が晴れるまで投獄というのも、あながち間違った話ではない」


「だから、それは彼女たちが『化け物』に襲われたからであって、町を破壊するに至ったのは不可抗力だと言っているでしょう!」

「その『化け物』を見たという証言は、どこにあるのですか? 大方、化け物の破片なんてそこらの土くれを固めただけの偽物でしょう。そんなの、信ずるに値しませんよ」


「あなた、私たちが嘘を付いているとでも!?」

「そんなことは一言も仰ってはおりません。しかし、そう思う辺り、心当たりがあるのではないんですかねえ?」



 ぎゃあぎゃあと言い合いを続ける九丈側と、斑側。遅れて到着した無憎は、双方の言い分に耳を傾け、黙したまま何も語らない。


 喧騒の熱気は徐々に他の亜人側にも伝達を始め、互いに一歩も譲らない平行線が続く。


 そんな『地下街』の住人同士の論争を前に……我慢の限界に達しようとしていた者がいた。



「……いいかげんにしてほしいのじゃ」

「本当よね……いいかげんにしてほしいわよ」



 それはもちろん、イシュタリアたちであった。


 何故なら、彼女たちには時間が無いのだ。落ち着いているとはいえ、今もなお病に侵されているマリーの薬が出来るまでの間、少しでも時間を節約したいのだ。


 特にサララに至っては、もう今にも亜人たちを皆殺しに掛かりそうな程に苛立ちを見せている……それに気づいているのはイシュタリアたちだけであった。



「……イシュタ、リア」



 普段の声よりも2オクターブは低い、修羅の一声。


 背後からひしひしと伝わってくる凄まじい殺気と怒気を感じながら、イシュタリアは気づいていないふりをする。



「何かな、お嬢ちゃん」

「……後5分、この糞、みたいな、話し合い、が、続いたら……皆殺、しにする……」



 ギリギリギリギリ……特大の歯軋り音。取り囲む亜人の内、数人が異変に気付いて総身を震わせている。それを気の毒に思う者は、この場にはいなかった。



「……殺すのは、そこの九丈側だけにしておくべきじゃな。下手すればここの住人たち全てとの全面抗争に発展するかもしれんぞ?」

「殺す、全員殺す、絶対殺す、皆殺し、にしてやる……マリー、待ってて、今、終わら、せるから……すぐに、行こう……マリー、が、行こうと、してい、るところへ……!」



 せめてもの折衷案を提示してみるが、サララの耳には届いていないようだ。柄を握り締める指先には力を込めすぎて白くなっており、零している吐息は憤怒によって熱くなっていた。


 ……無言のままに、イシュタリアはナタリアたちへと視線を向ける。


 ナタリアは困ったように微笑むだけで、ドラコは抱き上げているマリーをあやすのに忙しい。唯一、冷めた目で論争を眺めていた源に視線を止めると、「……こりゃ、そこの」そっと、その背中へ声を潜めた。



 “私たちはこれからマリーの薬をお前はどうするつもりなのじゃ?”

 “……微力ながら、手を貸そう”



 空気を読んで声を潜める源。彼の口から飛び出した思いもよらぬ提案に、イシュタリアは軽く目を瞬かせた。



 “よいのか? お主は監視者じゃろ?”

 “それはそうだが、さすがに監視対象があんな状態になっているのを見て、知らぬ存ぜぬはできないだろ……それに、こんな場所で俺一人にさせられるぐらいなら、そっちの方がいくらかマシだ”

 “なるほど、協力感謝なのじゃ。頑張って最後まで監視に勤めるのじゃぞ”

 “分かっている。これも、職務の一つだ”

 “泣ける話じゃな……今度酒の一つでも奢ってやろう”

 “賄賂を疑われるから止めてくれ”



 そうして話を打ち切ると、イシュタリアはいまだ口論を続けている亜人たちを見てため息を吐くと……力いっぱいの踏込を行った。



 ――ずどん、と地中へと陥没するイシュタリアの右足。



 軽い地響きと共に響いた衝撃が、お互いを罵倒し合うにまで発展しかけていた論争を、一瞬にして止めさせた。



「……そろそろ私らも我慢の限界じゃのう。これ以上グダグダとくだらない罵り合いをするのであれば、こっちとしても手段を選ぶつもりはないのじゃが?」



 イシュタリアとしては、当然の言い分であった。マリーに負担を掛けないように大人しく従ってはいたが、それにも限度はある。


 一回分の効果がどれだけ続くのかが不明であるうえに、残された薬は二回分しかない。つまり、残された時間はそう多くはない。


 正直、いますぐここのやつら全員を叩きのめしてでも先を急ぎたい……というのが、イシュタリアたちの正直な本音であった。



「――ふざけるな、人間風情が!」



 とはいえ、そんなことは亜人たちにとってはどうでもいいこと。


 亜人にとっては身勝手で尊大としか思えない言いぐさに、怒りを露わにしたのは当然の帰結であった。



「協議が終わるまではお前らは全員罪人なんだ! それまでおとなしく――」



 ひゅん、と空気が薙いだ。「――あっ、馬鹿者め!」と、イシュタリアとナタリアが、やっちまったと言わんばかりに頭に手を当てて。



「――していればいいんだ!」



 そう言葉を続けながら落下する亜人の首が、ごとん、と血の跡を残しながら地面を転がった。


 突然の事態に静まり返った亜人たちの前を転がった首は、「――っれ?」何が起こったのか分からないと目を瞬かせた後……物言わぬ塊となった。


 ……断面より血飛沫を噴いていた首無しが、どちゃりと血だまりの中へ沈む。


 亜人たちは呆然と、仲間を瞬時に死体へと変えた褐色肌の少女、サララを見つめることしか出来なかった。



「……人間の小娘、貴様、何をしたのか分かっているんだろうな?」



 ただ一人、巨大な片手剣を構えた無憎を除いて。



「これで、貴様らは何の言い逃れも出来ない大罪人になった。つまりだ、小娘……貴様は――」

「……ごちゃごちゃと、やかましい」



 ぬるりと、サララは槍を構える。ヘドロの中に蠢く虫を見るかのような冷たい眼差しを無憎に向けたサララは……ひゅん、と刃先に付着した血を振り払った。



「死にたいのなら、来なさい。死にたくないのなら、そこを退け」



 その言葉と共に放たれた、強烈な気迫。短い生ではあるものの、ならず者たちを初めとして、モンスター、竜人、神獣、『化け物』を相手に一歩も引かなかった胆力から生み出される、殺気の籠った眼光。


 殺し殺される命の取り合いを経験した者だけが持てる、ある種の凄み。


 それをまともに受け、無様に悲鳴をあげて腰を抜かす者多数。マリーたちのように修羅場をくぐって来たものならまだしも、腰を抜かさずに耐えられる『地下街』の亜人たちは、数える程度しかいなかった。



「……なるほど、言うだけのことはあるか……面白い」



 その少数の一人である無憎は、ニヤッと男臭い笑みを浮かべると……サララの前に立った。



「人間の小娘……貴様の名は何という?」

「お前に語る名前など無い」

「気が強い小娘だ……だが、そういうのは嫌いではない……ふむ」


 ――九丈! 出てこい!



 腹に響く無憎の大声に、いつの間にか離れた場所にいた九丈が、転ぶ勢いで飛び出して来た。「な、なんですか無憎さん!?」額に汗を滲ませているキツネ顔を見やった無憎は、サララを指差した。



「今から、俺はこの小娘たちと同行する……こいつらがどこへ行こうとしているのかは知らんが、そこで、こいつらが愚者であるかどうかを見極める」

「――へっ?」



 九丈は、否、その場にいる全員が目を瞬かせた。



「今のままでは所詮は押し問答。ならば、代表者がこいつらと同行し、人となりを見てから判断すれば文句は無かろう……ただし、俺一人だけ同行するのも何だ……斑、焔、二人にも同行してもらう……それでいいな?」



 ……。


 ……。


 …………沈黙が、訪れた。誰もが混乱し困惑する最中、おそらくは最も状況を呑み込めていなかったであろう九丈が……しばしの間を置いてから、ようやく無憎の言葉を脳裏で反芻する。



 ……そうして、幾しばらく。



 理解が深まると同時に、徐々に変貌していく表情が、驚愕の二文字に完全に染まった瞬間、「な、何を言うのですか無憎さん!?」九丈は唾を飛ばして怒鳴っていた。



「そいつらは街を破壊した罪人……いや、それだけでなく、我らの仲間を殺した極悪人なんですよ!」

「故意に破壊したのか、仕方がないことなのかを決める証拠は何も無い。それに、理由は何であれ、最初に武器を向けたのは我らの方だ。この小娘は、ただ己の仲間を守ったに過ぎん」

「で、ですが……」

「……九条、俺は今回の件でつくづく気になっていることがあるのだが、一つ聞かせてくれ」



 ズイッと、無憎は九条に迫った。



「お前、何をそんなにこいつらを……いや、そこのマリーとかいう小娘を敵視しているのだ? わざわざ口裏を合わせて嘘の証言を用意し、俺に虚偽の報告をしてまで敵視する理由は、何だ?」



 ――空気が、どよめいた。



 九丈に向かって反射的に槍を振りかざしたサララを素早く押さえるイシュタリアとナタリアを他所に、玉の脂汗を顔中に滲ませた九丈は……ごくりと、髭を震わせた。



「そ、それは、無憎さんもご存じのとおりですよ。人間は我らの祖先を迫害し、我らをこの地に押しやった元凶……恨みこそすれ、情を向ける相手では――」

「それは理解出来る。では、なぜその恨みを向ける相手がそこに居る優男ではなく、高熱を出して寝込んでいる小娘なのかを聞いているのだ」

「えっ」

「全員を恨むのであれば、話は分かる。だが、お前の矛先は何故か、あの小娘にだけ向けられている。わざわざこの俺に『マリーという娘が一番危険だ。主導者はそいつで、『地下街』の平穏の為には真っ先に捕らえなければならない』と言ったのは……お前だよな、九丈」

「…………」



 九丈は何も、言わなかった。


 いや、言わなかったのでなく、言えなかったのかもしれない。


 ただ、九丈は山吹色の体毛越しでも分かるぐらいに紅潮した顔で、無憎、斑たち、イシュタリアたち……そして、眠り続けているマリーを睨みつけると、無言のままに踵をひるがえす。


 ……ゾロゾロと、後を付いていく強硬派の亜人たち。


 その先頭を行っていた九丈の足が、「……九丈、今回の件で良く分かった。やはり俺は、お前とはやっていけんようだ」その一言で、ピタリと止まった。



「確かにお前には俺の願いを叶えてくれた恩がある。それには感謝している……だが、お前は何か俺に隠しているな? 俺に語っていない何かが……アレにはあるのだろう……そうなのだろう?」



 ――九丈は、何も答えなかった。



 だが、振り返った九丈の、狂気で血走る禍々しい視線が無憎たちを貫き……吐き捨てる様に舌打ちをすると、足早に無憎たちから離れて行った。



 ――ま、待ってくださいよ!



 その後を慌てて追いかける強硬派の亜人たちがいなくなれば、先ほどまであった喧騒が嘘のようになくなっていた。



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