第97話 陽動ってもよー。どうやるんだ?
「サーティス様。助かりました」
森の民が3人、膝をついて頭を下げる。男性2人と女性1人。どうやら、哨戒中にフェアリーベアと遭遇して不本意ながら戦闘になったようだ。一人が重傷を負い、逃げるに逃げられなかったというところかな。
「礼ならあの2人にいうべきだろう」
せっせと解体作業をするシュトレーセとその横で熱心に観察をしている果音を指さす。
「指示をしたのはサーティス様でしょう?」
「いや。俺は父上の命令でこのパーティに臨時に加入している立場だ。俺が指示したわけじゃない」
「すると、リーダーは?」
「あの男だ」
まあ、別にリーダーって言われるようなことは何もしていないんだけどな。どっちかというとまだマスコットの方が近い。
「危ないところを助けていただき、また治療まで。かたじけない」
「本当に俺は何もしてないんで、別に礼の言葉はいらないですよ。戦ったのはあっちの2人だし、治療はこちらの大神官だし」
「なあ、山田。シュトレーセが火つけてくれだってさ」
「ちょっと失礼」
俺はシュトレーセの近くに行く。串にいくつも大きな塊肉が差してあった。言われるままに枯葉に火をつける。
「ヤマダ。楽しみにしていてね。なかなか、こいつは美味いんだ。ちょっと固めだけどね」
「そうか。それはうれしいな」
「じゃあ、焼きあがったら声かけるから」
焼きあがったフェアリーベアの肉は、少々固かった。それでも脂肪の少ない肉は滋味たっぷりで、食べているうちに全身に力が漲ってくるような気がする。腹いっぱい食べた後に、アンワールの元に向かうという3人組と別れて俺達は再びガーファを目指して進む。
サーティスは明らかに態度が変わっていた。今まではティルミット以外の相手には一段上から見ている感じがそこはかとなく漂っていたのだが、果音とシュトレーセに対してもごく自然と敬意を示すようになる。俺に対してはそもそも口をきこうとしないので前との変化はない。
2日歩くと森を出る。遠方に木の生えていない山が見えた。
「あの山の麓にガーファの町がある。まだ、本格的な攻撃はまだのようじゃな」
「そういや、ティルミット。のこのこやってきたけどどうするつもりなんだ? まさか、この5人であの町を助けようとか考えてないよな?」
「当然じゃ」
「山田。さすがにそれは無理だろう」
「ヤマダはカッコよく皆を助けて褒めたたえられたいのね」
おっと。脳筋戦闘フリークに暗に馬鹿にされてる気がする。そう言いながら、接敵したら躊躇しないで突撃する癖に。
「じゃあ、何するんだ? 元々は俺達は森の民へのお使いが任務だろ? 援軍ももうすぐやって来るだろうし、それまで待ってるのか?」
「もう一働きしようかと思ってな。もちろん正面からぶつかるようなことはせぬ。我もお主も力勝負は苦手じゃろう? あの二人にしても体力の限度があるからな。そこでじゃ、陽動と奇襲で敵軍を翻弄する」
お、知の大神官だけあって一応ちゃんと考えてるんだな。でもなあ、うちの頭脳は結構うっかりさんだからな。とんでもないへまをやらなきゃいいけど。
「分かったよ。それで具体的にはなにをすればいいんだ?」
「ガーファの周辺にはいくつか村がある。敵軍はまずはガーファを包囲してから、それらの村に略奪に来るじゃろうから、それを叩きつつ住民を逃がすのじゃ」
「とっとと村人も逃げ出してるんじゃないか?」
「意外と逃げんもんなのじゃよ。住み慣れた故郷を捨てるのを嫌がってな。どこに逃げたらいいのか分からないということもある」
その日の夕方には小さな村にたどり着いた。村に近づくと防柵に囲まれており、中には武器を持った人の姿も確認できた。簡素なものだが櫓もあり、弓を構えているのもいる。俺達が近づいていくと中から警告の声が飛んできた。
「お前たちは何者だ?」
「ジャレーから来た援軍の先遣隊みたいなもんだな」
「嘘をつくな。西の森は森の民によって閉ざされている。さてはお前たちは災厄の四魔の手下だな。いいだろう。リンド小隊の名誉にかけて、力の限りこの村は守る。お前たちの好きにはざせないぞ」
果音がサーティスを前に押し出す。
「あんた達、よく見なよ。森の民は通行を許可したんだ。彼がその生き証人さ」
「そんな話を信じられるか。森の民が四魔に味方した可能性だってあるだろう」
「馬鹿にするなっ。俺は四魔に降ったりはしないぞ」
「言葉だけならなんとでも言えるからな。信用できん。そもそも、何の用だ?」
「危ないから一時的に避難するように呼びかけに来た」
「なにをとぼけたことを。ここなら防柵もあるししばらくは持ちこたえられる。外よりは安全だ」
「そう言ってもなあ。5000人からのドロイゼン砦が落ちたんだぜ。空飛ぶ相手にはそんな柵なんて意味ないし、それこそフェアリーベアだったら吹き飛ばしちまうだろ。森に逃げた方が安全じゃないか?」
「黙れ! そんな甘言には騙されんぞ」
「なあ、おい。ティルミット。話進まねえぞ。これどうすんだ?」
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