第84話 悩みをどうしたらいいかな? 闇の中で自答する
「山田。何を沈んだ顔してんだ?」
シュトレーセに元号の説明をするのを諦めたのか果音が話しかけてくる。
「お主、力の使い過ぎじゃろう?」
「ヤマダ。疲れたならいつでも乗せてあげるから言ってね」
「ああ。うん」
俺は生返事をする。実はちょっと先ほどの行動にひっかかりを感じていた。俺は自分の作戦が失敗した時の為に、ポイントを切り替えるようにティルミットに言った。つまり、俺は老婆の命を切り捨てる選択をしたのだ。結果的に両方助けられたのだけど、自分の咄嗟の判断が飲み下せずにいる。
これから、このメンバーの誰かを犠牲にしなければいけない局面に遭遇した時に俺は冷静に判断をして、その結果を受け入れることができるだろうか? 俺が今まで一見自己犠牲に見える選択肢をしてきたのも実はその結果に直面したくない逃避行動に過ぎないんじゃないかということは薄々感じていた。それを突き付けられた俺は困惑する。
「なんというか。俺って本当に行き当たりばったりでしょうがねえな、って考えてた」
「なんだよ今更」
「その結果に責任を取れるかと考えたら怖くなってさ」
「自分の行動すべてに責任をとるなんて無理じゃろ。お主にあのようなことをしようとした我が言えた義理ではないが」
そこは責任を取って欲しい。まあ、もうどうでもいいけど。
「悩んでもしょうがないじゃん。山田。だって、お前は山田なんだぜ」
意味が分かりません。いや、なんとなく分かるけど。確かに俺はそんな偉い人物ではなくて単なる山田です。勢いで女子高生と淫らな行為をしてしまったダメな大人。青少年健全育成条例違反で逮捕されてもおかしくありません。
「そうね。ヤマダ。疲れているんだと思う。もう歩くの辛かったらいつでもいってね。乗せてあげるわ」
ありがとうございます。微妙に会話がかみ合っていないようでいて、心配して頂いているのは分かりました。
相変わらず冴えない顔つきをしていたのだろう。3人が一斉にため息をつく。
「我はそなたに借りがある。どんなことになっても文句は言わんよ」
「アタシは判断預けた以上は文句は言わないって」
「ヤマダの好きなようにして。私はそれに従うわ」
果音が俺の顔をじっと見ていた。
「なあ。山田。しょせんお前はただのおっさんなんだから、背負いすぎるなよ。このアタシだって、自分が助けたいと思った人を全て救えた訳じゃないんだ。それにな、安易な人助けはかえってその相手をさらに傷つけることもあるんだぜ」
「でも、山崎は……」
「これはアタシの性分なんだ。人助けをして恨まれたことだってある。それでもアタシは自分の気持ちに素直でいたい。所詮はね、自己満足なんだよ。だから、お前も好きなようにやりゃいいさ」
「なんか、いろいろもう……本当にすまん」
俺は謝ることしかできなかった。うなだれていた顔を上げ夜空を見上げる。そうしないと涙がこぼれそうだったからだ。十分に幸せだった。この世界に来たときは違和感ありまくりだったがようやく見慣れてきた星々が俺を見下ろしていた。
流れに身を任せてここまで漂ってきたけれど、やっと自分の所属する場所が見つかった気がする。ここが自分のホームなんだと思う。とても大事な場所。自分の命の次に、いや、自分の命以上に大切なもの。永遠に続くとは限らないけど、俺にできることはそれに感謝して、自分のできうる範囲でそれを守ることだけなんだ。
果音とシュトレーセが筋トレを欠かさないのも同じなのかもしれない。自分にとって貴重なものを壊されないように、奪われないように何かあった時は全力で抗えるように、できることを全力でする。不安なのは皆いっしょなんだ。それでも自分のベストを尽くすしかない。
「さっきまで深刻な顔をしていたのに笑い出したのう」
「ついに脳全体をカビに侵食されたのかしら?」
「疲れすぎると変な笑いが出るというから、疲労困憊しちゃったのかもね」
気が付くと女性陣が固まって俺のことを指さしながら遠巻きにしていた。
折角、いい話にまとめて気分良くなりかけていたのに……。
「しかし、あの男も不思議じゃのう。果断な判断をするかと思えば、些細なことで落ち込んでウジウジするしな」
「30過ぎてるんだから、もっと堂々とすりゃいいのに」
「でも、ヤマダはそういうところが可愛いと思うわ」
「おっさんに可愛いとかいうと落ち込むかもよ。前もそうだったし」
「そお? 私には可愛いけど。いいじゃない、いくつになっても可愛い方が」
「我にはその感覚は分からぬなあ」
「まあ、あれでも山田はいい方だとは思ってんだ。世の中のロクデナシに比べりゃあな」
「そうじゃのう。地位が上がっても相変わらずじゃしな。使用人にえげつないことをすることもないしの」
「ヤマダはヤマダよ。変わらないわ。あ、ちょっとは頼もしくなったかも」
落とされたり、ちょっと持ち上げられたりしている。好き放題言ってくれてるぜ。そう思っている俺の耳を果音の声が打つ。
「おい。山田。ガールズトークに耳をすますなんてキモいことしてんなよ」
「誰がガールズだよ?」
「もちろんアタシ達に決まってんじゃないか」
「そもそも、ガールズトークのネタは可哀そうなおっさんじゃないと思うんだがな」
「やっぱり聞いてたな」
「聞いてたんじゃなくて聞こえてきたんだよ。それだけ声がでかけりゃな」
「嘘つけ。背中全体を耳にしやがって」
やっぱり、ホームじゃないのかも。
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