第82話 爆走トロッコ。くそう。

 ということで、俺達はほど近い山中の洞窟に来ていた。昔は鉱山だったのが放置された跡らしい。薄ぼんやりと明るい坑道にはところどころに穴を掘る道具などが放置されていた。先を急がないといけないはずなんだが、果音が子供達にお願いされたら答えは決まっている。「イエス」か「はい」だ。まあ、遅れた分は夜通し歩く日を作ればいいだけですから。


「あの子達の願いを断らないと救えない世界なら滅んじまえ」

 先を急がぬと、という常識論に果音が言い切る。まったくもってその通りでございます。単純明快ですっきり。やっぱりヒーローはこうじゃなくっちゃね。ヒーローは18歳の女子高校生ですがそれが何か?


 ティルミットも形だけ注意喚起しただけですぐに折れた。付き合いが長くなってきたので良く分かってらっしゃる。説得する時間があったら敵地に乗り込んで行ってばーっと敵をやっつけて旅に戻った方が圧倒的に早い。ガーファの民もここの子供達も困っているのは変わらない。救えるものはすべて救おう。


 村から一緒にキノコ採りに来たのが9人。引率のばあさん1名と子供が8人とのことだった。俺達が救出したのが3人。9引く3は6。簡単な引き算だ。3人はシュトレーセがまとめて抱えて村まで送って行った。

「すぐ追いかけるから先に行ってて」


 3人では不安があったが杞憂だった。途中待ち伏せしていた奴とか、不意打ちしてきた奴とか、その他もろもろはすべて果音に粉砕された。久しぶりに緑色の帽子を被ってみたのだが、なんというか、やめときゃ良かったかなと思っている。ホブゴブリン達の最期の言葉はひどいものだった。欲望にまみれた言葉を敢えて記すことはしないけど。


 果音を見た途端に俺達をやり過ごしておいて背後から襲おうとか、そういう余裕が無くなったようだ。最後尾は俺なのでそれはそれで非常に助かったわけだが、シュトレーセが追いついて来るまではヒヤヒヤしっぱなしだった。足音を忍ばせて近寄ってきたシュトレーセがいきなり目隠しをしたときは悲鳴をあげてしまう。


「何やってんだよ。山田」

「びっくりするではないか」

「すまん……」

「ゴメンなさい。ちょっと悪戯が過ぎたわ」


 トンネルを抜けると広い空間に出た。円錐の内側のような場所で、壁沿いにらせん状の道が刻まれている。壁のところどころが発光していた。右手にはずっと上り坂が続いており、左手は円錐の底の部分の平らな場所となっていた。壁沿いの道にはずっと線路が引いてある。トンネルを抜けたところの脇に分岐ポイントがあり、左手の平らな場所には2本の線路が伸びていた。


 ずっと先の線路の行き止まり部分にはそれぞれ何かが転がっている。紐でぐるぐる巻きにされた何かが線路の上に置かれていた。目を凝らすと片方には子供達が、もう片方には老婆がもぞもぞ動いている。現在のポイントの切り替えは子供たちの方に線路が続いている状態だった。


 ふと視線の端を何かが動く気がして見上げるとらせん状に下ってくる線路をトロッコが猛スピードで走って来ているところだった。道の上の方の所には人影が見える。

「ぎゃあはっはっは。ガキかババアかどっちを生かす? 助けられない方はぐちゃぐちゃだぜえ」


 トロッコは壁面すれすれを爆走していた。俺達のいるところまではあと2周ちょっとほど。縛られた子供達や老婆を助ける時間は無さそうだ。

「山田っ!」

 果音の声に皆が俺の顔を見る。


「山崎は上の連中を片付けてくれ」

 風のように坂道を上り始める果音。あれ? あのスピードなら助けるの間に合ったかもな。いや、もう賽は投げられたんだ。作戦続行。

「ティルミットはポイントを切り替えるんだ」


「しかし……」

「いいから。最悪の場合の保険だ。なんとか全員助ける!」

 ティルミットはあたふたと走って行き力を込めてポイントの棒を反対側に倒して線路を切り替えた。


「シュトレーセはここで盾を斜めに構えてくれ。なるべく地面に平行にして線路にくっつく様にして」

「ヤマダ、任せて」

 シュトレーセは俺の意図を理解してすぐにその姿勢をとる。


 視線をあげるともうトロッコは残り1周を切っていた。果音の姿は無い。たぶん、いい角度の所からウィングドブーツで飛んだのだろう。さてと、線路をこのままトロッコが走って来たのでは、いくらシュトレーセが力自慢でも吹っ飛ばされる恐れがある。なんとかして、トロッコを脱線させなくてはならない。


 俺は帽子を懐にねじ込む。視線を100メートルほど先の線路に固定し、ワンドを構えて意識を集中する。

「そこには線路はありませんろ」

 きついダジャレだったが、1メートルほどの線路が消失する。そして、50メートル先にももう一度繰り返すと、シュトレーセの盾の下に潜り込んで肩を添えた。


「ヤマダが来てもあまり……」

「分かってるさ。そんなこと」

 ギャンという金属音が響き渡る。そして、ガガガガという音とキィーという金属音が近づいて来たと思ったら、ガンという衝撃が肩に伝わった。そちらは左の肩だった……。


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