第24話 僕さあ、ボクサーなんだ

 なんとか心の整理がついたところで、我が戦力の確認をしよう。前衛は見た目通りにクールなセーラー服キリングマシーンの果音。素早さが売りの頼れる女の子だ。しかもイキのいい美少女。ガチガチの金属鎧を着こんだ相手にはちょっと手こずったけど、はっきり言って接近戦でタイマンなら相当強いと思われる。


 不安があるとすれば、防御面かもしれない。スピード重視で防具の類を身に着けていないので、攻撃を受けると致命傷になりかねない。

「厚い装甲よりも、速い足さ」

 果音はそう言っているけど、お前は機甲師団の指揮官か?


 前衛に比べるとイマイチ感は否めないが、俺も一応、遠距離攻撃魔法と補助魔法が使える。基本的にこの世界の人が普段携帯しているのは剣ということが多いので、剣を封じられるというのは地味だがそれなりに効果がある。ただ、この後衛は接近戦能力がほぼゼロ。肉薄されると相手が素手でもたぶん1分とは持たない。


 生活便利魔法はいくつか使えるんだけどなあ。火をおこしたり、鳥を取り出したり。前者はともかく、後者は庭が必要だから実用性はイマイチだけど。それにウコ鳥の姿かたちの記憶が薄れてきたので、あの高級鳥を出せるかの自信はない。


 テクテクと歩きながら果音が言う。

「まあ、下手に俺も一緒に戦うぜ、なんて言われても困るけど、自分の身はある程度守れる方がいいよねえ」

「だよな」


「とは言っても、筋力は日々の積み重ねだし、反射神経もすぐに改善するもんじゃないしな」

「ああ。山崎の杖の動きを見るのが精一杯だもん。反応するのは無理無理」

 果音は驚く。


「なんだ、山田。アタシの動きが見えてんのか?」

「全部じゃないけど、防御から杖を回転させて反対側の先端で側頭部狙ったりしてるのは見えるぞ」

「そりゃすごいや。いや、バカにしてんじゃない。純粋に褒めてんだ。そっか、意外と動体視力はいいのか。じゃあ、少しは見込みあるな。ちょっと鍛えてみようか?」


 うほ。果音とスパーリングできるってことはお肌が触れ合っちゃうわけだろ。あのオネエチャン達がきゃーきゃー言ってたスベスベのお肌にタッチできるチャンス!

「先生、お願いします」


 5分も経たずに俺は自分の見立ての甘さを悟った。プロの戦士相手に翻弄できる腕前の果音に俺が指先だけでも触れるなんてあるわけがなかった。フラフラになり、足をもつれさせて俺は地面にへたり込む。

「うーん。目だけ良くてもやっぱダメか」


 俺は下から果音を見上げる形になり、すばらしく鍛え上げられた脚をぼんやりと観賞する。腰に手を当てた果音は首を横に振った。

「まあ、すぐに効果はでないけど、継続すれば少しはマシになるんじゃないか」

「ははは。面目ない」


 俺は立ち上がり、ケツの土をはらう。

「ちょっと思いついたことがあるんだが、試してみていいか?」

「また、しょーもない事考え付いた顔してるな」

「しょーもない、言うな。見てろよ」

 俺は気取ってそのセリフを口にする。

「僕さあ、ボクサーなんだぜ」


 ふふふ。どうだ。これでうわあという顔をしている果音をびっくりさせてやる。

「ふーん。考えたわね。じゃあ、遠慮なくいくわよ」

 ファイティングポーズをする俺に向かって、果音の右腕が伸び、見事に俺のあごを捕えた。目の前に星が飛び、俺は無様にひっくり返る。


「大丈夫?」

 果音が駆け寄ってきて、手を差し出す。それに捕まって俺は起き上がった。あれ? おかしいなあ。

「手加減しといて良かった」


 果音が聞き捨てならないことを言う。

「それじゃ、俺が強くなっていないって分かってたのか?」

「分かったというか、戦士としての迫力は感じなかったかな」

「なにそれ、気で相手の戦闘力測れたりするのか?」


 言ったとたんに思いっきりバカにした顔をされた。ううう。悔しい。

「マンガじゃあるまいし、そんなわけあるか。ただ、構えとかである程度は分かるよ。山田の腕は単に前に出してるだけで、全然あごをガードしてなかったから」

「そうか。やっぱり山崎はすげーや」


 俺は頭をひねる。

「しかし、なんで俺の呪文が効かなかったんだろう?」

「ついに山田の力を使い切ったとか?」

「やめてくれ。それじゃ本当にただのお荷物になってしまう」


 俺は手持ちの呪文の中から落石術を選んで使う。ちょうど、うさぎに似た動物が50メートルほど先に顔を出したのでそれを目標にする。石は小ぶりにして高さもほどほどに。小動物に石がヒットしパタリと倒れる。果音が軽やかに走り捕獲した。よし。夕飯ゲット。


「一応使えなくなったわけじゃないみたいね」

「そうだな。考えられるのは、対象が俺だからか?」

「というと?」

「俺の魔法はあくまでこの世界の物にしか効果が及ばないんじゃないかなあ」

「なるほどね」


 色々試していたら、ついでに、もう一つ重大な知見を手に入れた。帽子を被っている状態では俺の呪文は効果を発揮しないことが判明したのだ。落石術も発火術もダメ。元いた世界の言葉でこの世界の物に呼びかけることで、俺の魔法は発動する。


 ということで、安直に俺を強化するというアイデアは潰えた。当面は俺がサポート役で接近戦は回避するしかなさそうだ。それと、俺達の治療とか回復みたいな技が欲しい所だったけど、俺の推論が正しいならば、期待薄ってことになる。どこかで神官とかそういった職業の人をスカウトした方がいいのかもしれないな。

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