第19話 闇夜を切り裂く鋒

 疾駆しつつアステラが後方を確認。未だに外套姿の二体の敵は執拗に追いかけてきていた。

 路地に入るよりはと思い選んだが単純な速力も相手の方が上回っていた。


「隊長、追いつかれます!」

「分かってる!! くそ、迎撃するしかないか!」


 アステラは反転、即座に前列の敵に剣を構えつつ突進。剣と爪が打ち合い、鍔迫り合いとなる。

 後列の敵が跳躍してアステラを飛び越しカティーブに迫る。


「見えてんだよっ!!」


 爪を足場として蹴りその勢いでアステラが空中に飛び出す。カティーブへと落下途中の無防備な敵の背中に水平に剣を振るう。

 硬質な装甲とぶつかる感触、それと同時に肉を断った手応え。


「ぐがっ!?」

「もらった!」


 身を捻ってアステラに爪を振り下ろそうとしたところに下方から矢が突き刺さる。一人と一体が同時に着地。それぞれが飛び退いて仲間と合流する。


(よし、ひとまずは動きを読めた……一体が前衛を止めて一体が後衛を仕留める。二度もやられてたまるかってんだ)


 戦術が単純だという読みが当たり反撃は成功。

 問題はここからだ。一度失敗した戦術を二度も繰り返すほど相手は間抜けではない。

 その上、殺す気で放った攻撃を受けても相手は死んでいない。背中に矢を突き刺したまままだ動けている。斬りつけたときの感触から外套の下には何かしらの防具を武装している。


(高速で飛び回る上に俺と拮抗する程度の剛力に魔法障壁を破壊する威力を持った武器とこっちの攻撃を防ぎ切るだけの防具を武装、か。どうなっていやがる)


 アステラが歯噛みをする。ここまで強力な敵は彼の経験においてさえ稀だった。

 敵が左右に散開。予想通り戦法を変えてきた。自分とカティーブ、どちらに来るか──二体が同時に動く。どちらもアステラへと向かう。

 左右から寸毫のずれもなく接近。五指の凶器が二重となって挟撃する。


「なめんなよっ!!」


 右方から迫る爪に剣を打ち付け、それと同時に左方の凶器に蹴りを叩き入れる。さらに真正面から迫る十重の刃を屈んで回避。右手を地面につけて右側の敵に足払い。態勢を崩したところに神速の蹴撃を打ち込み、弾き飛ばす。

 残った一体が両爪を振り下ろす。断頭台の一撃を地面を転がって躱し飛び上がって斬りかかる。刃が敵の左腕に直撃。外套とその内側の軽装甲を切断し肉を深々と斬り裂く。


「ぐぁあああっ!!」


 獣の絶叫。外套の切れ目から赤紫の鮮血が飛び散る。振り上がった爪を飛び退いて回避。それと入れ替わるようにカティーブの矢が連射されて左腕と左肩に突き刺さる。


(よし、何とかいけたな)


 距離を取ってアステラが息を吐き出す。一介の兵士ならば一秒と持たないような状況を彼は切り抜けてみせた。驚異的な反射神経と膂力、類稀なる体術が合わさって初めて可能となる接近戦だ。

 その機動力を活かされてカティーブに二体とも向かっていたらかなり危険だった。


(……次はそうくるな)


 既にアステラが規格外の戦闘力を持つということを敵は知った。ならば次は遥かに劣る後衛を狙ってくるのが当然の帰結だ。アステラは考える。どうするか。

 妙案を捻り出す間もなく敵が同時に高く飛び上がる。狙いはやはり後衛のカティーブ。


(考えなしでもやるしかねえか……!)


 庇うようにアステラがカティーブの前に立つ。二体の敵が落下しつつ片腕をそれぞれ振るう。真上から降る十重の一撃を直剣を振り上げて迎撃。


「ぐぉおおおおおおおっ!!」


 剣士が裂帛の雄叫びをあげて耐える。衝撃で膝が撓み足元の石畳が破砕されるが、堪える。

 爪が振り上がり何度も打ち下ろされる。アステラがそれに耐え続けて少しでも援軍が来るまでの時間を稼ぐ。

 敵が大きく爪を打ち付けた後、反対の腕を水平に振るいアステラの胴体を狙う。巨大な手にアステラの足が突き出されて押し留める。

 彼の背後からカティーブが飛び出して矢を射出。外套の頭部に矢が突き刺さり絶叫があがる。


 もう一体の敵が五指の刃の連撃を振るう。アステラの直剣が打ち合い、弾き、防ぐが押されていた。

 最初の一撃が剣士の全身に巨大な負担となっていたのだ。万全の状態で真正面から打ち合うなら二体を同時に相手取っても何とか拮抗できるが、初撃で主導権を握られてしまうと押され続けてしまう。

 肩や脇腹、脚を刃が掠める。それだけで軽装甲が破砕され肉が斬り裂かれ鮮血が飛散する。


(くっ、もたねえな……!)


 ここまでの接近戦では後衛は殆ど機能しない。隙を突いて一撃を入れるのが関の山だ。

 必死の攻防を行うアステラの元に頭部を矢で射られた敵が突進。大きく吹き飛ばされる。


「ぐあっ!?」

「隊長っ!!」


 カティーブに二体の死神が迫る。爪が振り上がり、振り下ろされようとしたとき。


「前方、撃てっ!!」


 号令。無数の矢が曲射されて外套の潜入者に降り注ぐ。爪で防御しながら二体ともが後退。


 カティーブとアステラが振り返ると、そこには三人の部下を含む多数の部隊が揃っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世間から嫌われている世界最強の『勇者』が敵である彼女と共に戦いを終わらせに行く じぇみにの片割れ @oyasiro13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ