第41話「おお牧場はみどり」
――
ファンやヴィーは皆伝に達しているが、それとは別に、
「自分、弟子を取っていい資格、持ってないんスわ……」
インフゥに対し、ファンは苦い顔をしていた。
ファンは伝教の資格を得ていない。
「弟子は取れないんス」
それでなくとも、
見た目程、楽勝ではないし、御流儀を習得して戦うというのはリスクの高い選択肢になる。精剣のスキル、特に攻撃スキルが持つ火力は
――剣を覚えて戻るのは、オススメしないッス。
しかしファンは、言葉を繰り返せなかった。
――
インフゥが村を出る切っ掛けが何かは分からないが、出た理由は剣を教えてくれる者を探すためだ。
遺跡があるにも関わらず、精剣を得る事ではなく剣技を求める事情を考えれば、それこそこそ「よくよくの事」という事になる。
「しかし……」
ファンが悩むのは、伝教という資格が設定されている理由だった。
ファンは皆伝を持っているが、それは「十分に使う事ができる」という証明であって、「人に教える事」は自分で技を使うのとは大きく違う。
――教えられるんスかね……?
「自分がやって来た事を、そのまま伝える事はできるスけど、それがインフゥに合ってるかどうかは分からないッス。伸びなかったとしても、その原因も掴めないスよ」
強くできないかも知れないから、悩む。
「それでもいいから、教えて下さい」
それでもインフゥが頭を下げる。
「僕には姉さんも妹もいないし、母さんも、もう……」
「ホッホは間違った事をいわないから」
インフゥの視線を追うと、ファンのすぐ
「あの」
だからという訳ではないが、エルが口を挟む。
「はい?」
ファンが振り向くと、エルはホッホとインフゥに視線を往復させつつ、
「弟子は取れませんが、
「まぁ、それは……」
ファンが首を傾げてしまう程の
弟子は取れないが学生に教える事はできるというのは、ファンの感覚では詭弁に等しい。
「ええい」
それを振り払うように、ファンは首を横に振った。
「俺がしてきた事を教える事はできるけど、それで強くなる保証はできないし、修正する手も考えつかないかも知れない」
口調が変わる。剣士を望まれているのだから、ファンも芸人の顔をしていられない。
***
そんなインフゥの村は、内部崩壊というよりも農民
「おい、あそこ……」
茂みに身を隠している男が、同じく伏せている男へ
その方向には牧場主が打ち込んだ杭と
「くっそぉ……」
歯噛みさせられるのは、その柵が張り巡らされている場所は、柵を設置した牧場主の私有地ではないからだ。
「何やってやがる……、そこは俺の……」
「シッ……」
怒りに震えている男は知らず知らずのうちに身を乗り出しており、その腕を仲間が掴んで腰を下ろさせる。
「見つかったらどうする……」
声も潜めるのだが、言葉くらいでは止められない。牧場主が取り込んでしまった土地こそが、その男のものだからだ。
「黙っていられるか! あそこは、女房や子供まで手伝わせて拓いたんだぞ!」
仲間の手を振り解いて立ち上がった男は、大股に柵まで近づいた。隠れながら周囲を観察していた。
「誰もいねェ! こんな柵!」
手にした手斧を振り上げ、柵へと振り下ろす。
ガッと重い音が響いた瞬間だ。
「なぁ!?」
信じられないという調子の声は、断末魔となった。
柵の下から現れ出たのは火球。
火球が
燃え尽きるのですら一瞬だった。
「ちゃんと足下見てやれよ」
戦慄に足を
ぶらぶらと片手に下げている精剣が、柵の下から現れた火球を操るスキルを持っている。
「にげ――」
隠れていた男たちの声は、どれもこれも中途半端だった。
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