第35話「姉は血を吐く、妹は火吐く」
本来、隆起した地面は相手を串刺しにするための攻撃手段だ。どんな剣士でも、足下と頭上は死角になるのだから。
だが、それを防御手段として用いる事は、少なからず剣士に衝撃を与えた。
「盾にした!?」
驚きの声を上げる程に。
精剣のスキルは、攻撃、防御、補助、弱体と4種のカテゴリーがあり、攻撃スキルならば攻撃にしか使えないという固定観念があるからだ。
「誰がいつ、決めたんだ?」
衛兵を切り伏せながら視線を逸らせるヴィーは、ファンの持つ
スキルはカテゴライズされた事にしか使えないと思っている者からすれば、攻撃のために出現させたものを盾代わりにするなど、想像もつかなかったのだろう。
「できるだけ派手なスキルを、どうにかして派手に決めるのが大流行ッスからねェ」
非時を振るうファンが向けるのは嘲笑だ。
混乱に混乱を重ねれば、ファンとヴィーの技量そのものが活きる。
「足場、作れますか!?」
ヴィーに立ち止まる余裕が生まれていた。
撃っていいのか悪いのか迷っていた所に、防御手段まで出現したのだからただでさえ足並みの揃っていない剣士の攻撃は、最早、散発としか言い様がない。
その隙を突けとパトリシアへ呼びかける。
「階段のようなものは作れない!」
だがスキルを攻撃以外に転用できるパトリシアも、細かな造形はできない。適当な高さに整え、領主と剣士とのいる場所までの通路が作れれば最良だったのだが、それだけはできなかった。
「よじ登れる程度の足場でいいッスよ」
駆け上がれれば文句はないが、よじ登っていけるならばそれで十分だ。
「なら――」
精剣を地面から引き抜いたパトリシアが走る。自由自在にどこの地面でも隆起させられる訳ではなく、壁際、もしくは壁そのものを隆起させようとすれば近づく必要がある。
「動かぬか! ただ走るのを阻むだけで済む話ではないか!」
領主の怒鳴り散らす声が聞こえてくるが、衛兵は動けなかった。
制したのだ。ファンとヴィーが。
二人の剣を掻い潜ってパトリシアを阻む事に二の足を踏まされる。
「コマ落としじゃねェか!」
衛兵は悲鳴をあげるのだが、しかしファンにもヴィーにも回避やスピードのバフはない。動きから無駄を削ぎ落とした上で、軽業やダンスで遣う筋力と、御流儀の
それが領主からは見えてしまう。
「何をしているか!」
スピードそのものは速くない。相対した状態であれば兎も角、特に高い場所から見下ろしていると、棒立ちになっている衛兵が勝手に斬られているように見えてしまう。
賞賛する気がないのだから見事な動きとは認められず、大して速くないとしか映らないのだから、苛立ちを激怒となるくらい募らせた。
「タービュレンス――」
苛立ちを切り裂くかの如くパトリシアのスキルが発動する。壁が横引きの煙突のように隆起した。
ファンとヴィーは視線を交差させ、それを足場に領主の下へと走ろうとするのだが――、
「行け!」
寸前でファンは反転し、ヴィーにその役を譲った。
振り向きざまに一閃させる非時で衛兵の首を刈り、一言、声を張り上げる。
「ここは通行止めだ! 余所を当たれ!」
その声は一段とよく通り、領主を歯噛みさせ、衛兵を
「もういい! 皆一様に焼き払ってしまえ!」
スキルを発動させ続けるよう、剣士を怒鳴りつける。
棒立ち同然だった剣士が、その怒声とヴィーがパトリシアの作り出した足場を登ってくる光景とが正気に戻した。
「放つぞ!」
パトリシアのスキルが防御に転用できるとしても、防御スキルではない。万全の防御とはいえず、ならば手数で押し切る事と手できるはずだ。
その上、領主から衛兵の事など気にせずに放てと許しが出た。
「狙わなくてもいいならば、一呼吸で12発は撃てる!」
構えを取る衛兵。
だがその視界を奪う長身が躍り出てくる方が速かった。
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